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面の秘密㈣
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「えーっと、私に用事でもあるのかな?」
「うん、にーさまにごようじ!」
「にーさま……?」
「ににぎさまだから、にーさま!」
どうやら、穂花のことは既に知っているらしい。そう理解したところで、気になることが。
「んー、たしかに正解だけど、にーさまって言うとね、なんとなく性別変わっちゃうからね?」
「じゃあ、ねーさま!」
「あはは……それでいいよ」
まるで幼い子供との会話だ。どの方向に転ぶかまったく予想がつかない。
当たり障りのない喚び方に行き着いた時点で、ひとつ問うてみる。
「きみはもしかして、鬼の子かな。男の子? 女の子?」
「おとこのこ。でもね、鬼じゃなくて、あおはみずち」
「男の子なんだ! ……って、ん?」
たったいまサラリと、どこかで聞いたような単語が発されなかっただろうか。
「あお……みずち?」
「うんうん」
「ミズチの……蒼?」
「そうそう! 角がはえたへびの、あお!」
――絶句再び。
頭を鈍器で殴られたようで、目眩すらする。
「嘘……だって蒼は、手乗りサイズの超絶癒やし系で……全然手乗りサイズじゃないわ!」
「ねーさま、ねーさま」
錯乱の末、語彙の乏しい熱弁を奮う穂花へ、妖の少年が手招きをする。
「さわって、ほっぺ」
「ほっぺ……?」
間近に見ると、両頬がわずかに変色しているのがわかる。淡い空色の光沢を放つそれへ、言われるがまま恐る恐るふれる。
そして――全身に稲妻が走った。
「硬そうに見えて、ふにふにと意外にやわらかいこの感触……」
幾度となくふれてきた自分が間違えるだろうか。いや、間違えるわけがない。
「蒼だー!」
「うん、あおだよぉ~」
そう、蒼の鱗だ。目前にいるのは、蒼に違いないのだ。
「信じられない……まさか、蒼と話せる日が来るなんて!」
「あおもね、お話ししたかったの。それでね、ねーさまのこと、ぎゅーってしたいの」
「いやむしろ私がしたいです!」
「ほんと? じゃあして! あおもする!」
「きゃー! 蒼ったらかわい~!」
母性本能をくすぐりにくすぐられ、破顔した穂花は、両腕を目一杯伸ばす。
ぱぁ、と緑の瞳を輝かせた蒼がいざ飛び込まんというところで、襖が開き――
「失礼致します。食事の支度がととのいまし……穂花!? なりませぬ! そやつに不用意にふれては……!」
「へ?」
室内の光景を目の当たりにするなり、血相を変えた紅が声を張り上げるが、手遅れであった。
「ぎゅう」
「むぐっ……!」
華奢な腕がもたらすは、唐突な息苦しさ。例えるならそう、蛇に首を締め上げられているかのような。
そういえば、蒼は蛇に良く似た妖だったっけ……とどこか遠くのように感じるうちに、酸素が底を尽く。
やがて、糸の途切れたからくり人形のごとく、穂花の意識は暗転した。
「うん、にーさまにごようじ!」
「にーさま……?」
「ににぎさまだから、にーさま!」
どうやら、穂花のことは既に知っているらしい。そう理解したところで、気になることが。
「んー、たしかに正解だけど、にーさまって言うとね、なんとなく性別変わっちゃうからね?」
「じゃあ、ねーさま!」
「あはは……それでいいよ」
まるで幼い子供との会話だ。どの方向に転ぶかまったく予想がつかない。
当たり障りのない喚び方に行き着いた時点で、ひとつ問うてみる。
「きみはもしかして、鬼の子かな。男の子? 女の子?」
「おとこのこ。でもね、鬼じゃなくて、あおはみずち」
「男の子なんだ! ……って、ん?」
たったいまサラリと、どこかで聞いたような単語が発されなかっただろうか。
「あお……みずち?」
「うんうん」
「ミズチの……蒼?」
「そうそう! 角がはえたへびの、あお!」
――絶句再び。
頭を鈍器で殴られたようで、目眩すらする。
「嘘……だって蒼は、手乗りサイズの超絶癒やし系で……全然手乗りサイズじゃないわ!」
「ねーさま、ねーさま」
錯乱の末、語彙の乏しい熱弁を奮う穂花へ、妖の少年が手招きをする。
「さわって、ほっぺ」
「ほっぺ……?」
間近に見ると、両頬がわずかに変色しているのがわかる。淡い空色の光沢を放つそれへ、言われるがまま恐る恐るふれる。
そして――全身に稲妻が走った。
「硬そうに見えて、ふにふにと意外にやわらかいこの感触……」
幾度となくふれてきた自分が間違えるだろうか。いや、間違えるわけがない。
「蒼だー!」
「うん、あおだよぉ~」
そう、蒼の鱗だ。目前にいるのは、蒼に違いないのだ。
「信じられない……まさか、蒼と話せる日が来るなんて!」
「あおもね、お話ししたかったの。それでね、ねーさまのこと、ぎゅーってしたいの」
「いやむしろ私がしたいです!」
「ほんと? じゃあして! あおもする!」
「きゃー! 蒼ったらかわい~!」
母性本能をくすぐりにくすぐられ、破顔した穂花は、両腕を目一杯伸ばす。
ぱぁ、と緑の瞳を輝かせた蒼がいざ飛び込まんというところで、襖が開き――
「失礼致します。食事の支度がととのいまし……穂花!? なりませぬ! そやつに不用意にふれては……!」
「へ?」
室内の光景を目の当たりにするなり、血相を変えた紅が声を張り上げるが、手遅れであった。
「ぎゅう」
「むぐっ……!」
華奢な腕がもたらすは、唐突な息苦しさ。例えるならそう、蛇に首を締め上げられているかのような。
そういえば、蒼は蛇に良く似た妖だったっけ……とどこか遠くのように感じるうちに、酸素が底を尽く。
やがて、糸の途切れたからくり人形のごとく、穂花の意識は暗転した。
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