【完結】たまゆらの花篝り

はーこ

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神代の契り㈢

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「もう、お兄様だけに辛い思いはさせません。私は、中津国へ参ります」
「おまえっ……!」
「件の村も、元は国津神であるヒデリカミが治めていた領地ですよね? 天津神の非による災厄ならば、天孫である私も無関係ではありません」
「だから詫びに行くと? 駄目だ!」
「お兄様」
「おまえは世間知らずの箱入り娘なんだぞ。俺が大事に大事に育てた、俺の……たいせつな……」
「お兄様」
「……おまえが、ワカヒコみたいなことになったら……俺はもう、生きていけない……っ」

 高天原では死ねないから、自ら黄泉へ赴くことになるぞ。脅しまがいの懇願さえも、澄んだ琥珀には見透かされていた。

「アメノワカヒコ様の事件があって、お兄様が国津神相手に、事を荒立てたくないお気持ちもわかります。ですが、このままいたずらに時を過ごしていても、天と国の溝は埋まりません。……誰かがゆかねばならないのです」
「ニニギッ!!」

 落ち着きなど、とうの昔にかなぐり捨てていた。
 長椅子に、射干玉の艶髪が散らばる。
 強引に組み敷かれたニニギは、厭がるのではなく、ただただ寂しげな表情でオモイカネを見上げていた。

「私は、哀しそうなお兄様を見ると、哀しくなります……」
「……っ」
「私を、哀しませないで頂けますか?」
「……その言い方は、卑怯だろ」

 自分は親代わりだと言い聞かせていた日々は、どこへ。
 こんなにも聡明に、気高くなった少女を、どうして子供扱いできようか。

「なら、俺も行く。俺たちはずっといっしょだから……なぁ、ニニギ……?」
「んっ……」

 淡く桃色に色づいた唇を啄む。
 幾度となく食みながら、襟元からまさぐるように着物を乱しゆく。

「おにいさま…………あっ、んっ……!」

 細腕が首へ絡められたのを合図に、剥き出しの胸許へ噛みついた。

 いつだったか。姪を異性としてでしか見ることができなくなったのは。
 いつだったか。我慢ならず、なにも知らない彼女を抱いた夜は。

 もう何度目だろう。こうして肌を重ねるのは。
 甘く抜ける嬌声を耳にする度、そうした思考も煩わしくなる。
 そして理性などというものは、衣と共に早々に脱ぎ捨ててしまった。

「ニニギ……俺はずっと傍にいて、おまえだけを愛してる。俺が守る。約束だ」

 ニニギがいない世界など、恐ろしくて考えられない。

 ――独りにしないでくれ。
 ――誰の元にも行かないでくれ。

 飲み込んだ子供のような我儘は、聞こえるはずもない。

「……ありがとうございます、お兄様」

 だからこそ、どこか哀しげに頬笑んだ琥珀にぎくりとしてしまったのも、気のせいだ。


  *  *  *


「死なせないから、絶対……!」

 彼女はそう言って、嘘つきな大馬鹿者を見逃してはくれなかった。
 無鉄砲で危なっかしくて。嗚呼、この子はやはり自分が愛した少女にちがいないと、滲んだ視界に笑いが漏れる。
 身体を抱きしめて離さない細腕に、酷く安堵した。

 そして気づく。
 自分はただ、少女に愛されたかったのだ――と。
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