16 / 40
本編
*12* 薔薇騎士と白百合の乙女
しおりを挟む
軽々と抱き上げる腕のたくましさにドキドキしたり、大事にされてるなぁってキュンとしたり。
お姫様抱っこって、乙女なら誰しもが憧れるものだと思うの。
もちろんこれ、相思相愛なのが前提のお話ね。
「こちらが、かのセントへレムの……なんと言いましょうか、とても……うふふ」
「やめなさい、リアン。不躾に女性へふれるものではない」
ぱちり。
目を覚ますと、何やらわちゃわちゃと言い合いをしている、シルバーブロンドとダークブロンドの人影がある。
オフホワイトのエプロンドレス姿の美女が手を伸ばしてくるのを、黒い軍服を身に纏った美青年が、ぴしゃりと制している。
どこの俳優だよと、整った横顔たちをぼーっと眺めていたら、ふとペリドットのような瞳が振り返った。
「失礼、起こしてしまいましたか。ご気分はいかがですか、レディー」
あたしに向けられた言葉だ。それはわかる。心配されてるってことも。
だけどね、段々意識がはっきりしてくると、頭が痛くなってきてしょうがない。
「……あの、ひとついいですか」
「は、何なりと」
そうだ、そうなんだよ。
思い出した。自分が置かれた状況も理解した。
となれば、あたしを抱いた彼に言いたいことはただひとつ。
「いい気にならないでくださいね」
「えぇ、もちろん……はい?」
もぞりと腕を持ち上げて、思考停止した相手の両肩へ置く。
背を反らし、思いっきり反動をつけたら、せーのっ。
「あたしにはもう! お姫様バージンを捧げた彼が!! いるんだからぁあああっ!!!」
──ごちんっ!!
魂の、頭突きだった。
* * *
当然ながら、痛かった。ハチャメチャに痛かった。
でもこれは絶対、物理的な痛みだけが原因じゃないと思う。
「ふふ……」
「リアン」
「ごめんなさい、でも……」
「そっとして差し上げなさい」
「わかっているわ、だけどヴィオ、無理よ! うふっ、ふふっ、あはははっ!」
いや、めっちゃ笑うやん。
捨て身のアタックで不審者を撃退するつもりが、おでこにたんこぶこさえたのはあたしだけっていうね。
そりゃ軍人さん(?)相手に無謀ですわな、鍛え方が違うもんね。へぇへぇ、あたしが悪ぅございましたぁ。
てかこの木の根っこ、硬いな。地味におしりが痛いわ。
泣いてない。泣いてないったら泣いてない。
「大変失礼をいたしました。まさかの展開でしたもので……こちらのヴィオはウィンローズが誇る、最高の騎士なんですのよ?」
「へぇ、そうなんですかー」
「レディー、突然のご無礼をお許しください。ですがどうか、私共の話をお聞きくださいませんか」
「今日はいいお天気ですねぇ」
「では……せめてこちらを。お召し物が汚れてしまいます」
ふてくされていると、イケメンにハンカチを差し出された。
木の根っこに直に座って、行儀が悪いとか思われてるんだろうか。
もしくは、腰を上げる隙を狙っているのかもしれない。
彼らはあたしをさらった張本人たちだ。ハンカチは知らんぷり。体育座りで、頑として動かない姿勢を示してみせた。
人質のくせに、なんて生意気なんだろうね。わかってるよ、こんな反抗をしたら何をされるかわからないってくらい。
「あなたを、傷つけたいわけではないのです」
そうやってあたしを呼んだ声音は理知的で、街で遭遇した男のような狂気は感じられなかった。
ちらと視線だけで振り返ると、いつの間にか目線まで屈んだペリドットの瞳が、真摯な輝きをたたえてそこに在った。
「なら、あたしを帰して。ジュリとゼノのところに」
「残念ながら、それはいたしかねます」
「だから、どうして!」
「それが我が主のご意向なのです。申し訳ありません、これ以上のことは、私の口からはお伝えできません」
「あたしに話があるのは、あなたたちの主さんなんですよね。じゃあなんであたしが連れて行かれなきゃならないんですか? しかも無理やり。おかしくないですか?」
「レディー……」
あくまで、あたし自身の正当性を主張する。どう転ぶか? そんなん知るかっての。
あたしのやけくそを受けた彼が、口を開こうとした、そのときだ。
──ビュオオウ……
静まり返った薄暗い森に、生温かいものが吹き抜けた。
「……嫌な風だわ」
それまでにこにこと表情を崩さなかった女性も笑みを潜め、柔和な顔立ちにわずかな警戒をにじませている。
「長居は無用ですね。ヴィオ」
「承知した。レディー、失礼いたします」
「なに……ちょっ、説明をしてくれません!? あたしにもわかるように、簡潔に!」
名前を呼ばれただけで心得たとばかりにうなずいた青年が、颯爽と軍服を翻し、腕をつかもうとしてきたのだ。
とっさに後ずさり、抵抗する。言葉を継いだのは女性だ。
「モンスターです」
「はっ!?」
「この『嘆きの森』は、多くのモンスターが棲みついた、別名『魔の森』と呼ばれています」
「要は危険な場所ってことでオッケー? なんでそんなとこ通ってんの!」
「ここは、あなたがいらした屋敷を取り囲むように位置しています。セントへレム郊外へ出るためには、避けては通れない道なのです」
「それって……」
──街まで遠いから。
前に、ジュリが転移魔法を使って屋敷から連れ出してくれたことを思い出した。
あのときはモンスターがどうとか、そんなことは言ってなかった。
知らなかった? ううん、ジュリはあたしに、絶対屋敷から出ちゃダメ、外に行くときはオレがいなきゃ絶対ダメって、呪文みたいに繰り返してた。
きっと、わざと言わなかったんだ。
ジュリのことだから、ビビリなあたしを怖がらせないようにって。
あたしは、自分が思う以上に守られていたこと、そして無力なことを思い知らされた気がした。
お姫様抱っこって、乙女なら誰しもが憧れるものだと思うの。
もちろんこれ、相思相愛なのが前提のお話ね。
「こちらが、かのセントへレムの……なんと言いましょうか、とても……うふふ」
「やめなさい、リアン。不躾に女性へふれるものではない」
ぱちり。
目を覚ますと、何やらわちゃわちゃと言い合いをしている、シルバーブロンドとダークブロンドの人影がある。
オフホワイトのエプロンドレス姿の美女が手を伸ばしてくるのを、黒い軍服を身に纏った美青年が、ぴしゃりと制している。
どこの俳優だよと、整った横顔たちをぼーっと眺めていたら、ふとペリドットのような瞳が振り返った。
「失礼、起こしてしまいましたか。ご気分はいかがですか、レディー」
あたしに向けられた言葉だ。それはわかる。心配されてるってことも。
だけどね、段々意識がはっきりしてくると、頭が痛くなってきてしょうがない。
「……あの、ひとついいですか」
「は、何なりと」
そうだ、そうなんだよ。
思い出した。自分が置かれた状況も理解した。
となれば、あたしを抱いた彼に言いたいことはただひとつ。
「いい気にならないでくださいね」
「えぇ、もちろん……はい?」
もぞりと腕を持ち上げて、思考停止した相手の両肩へ置く。
背を反らし、思いっきり反動をつけたら、せーのっ。
「あたしにはもう! お姫様バージンを捧げた彼が!! いるんだからぁあああっ!!!」
──ごちんっ!!
魂の、頭突きだった。
* * *
当然ながら、痛かった。ハチャメチャに痛かった。
でもこれは絶対、物理的な痛みだけが原因じゃないと思う。
「ふふ……」
「リアン」
「ごめんなさい、でも……」
「そっとして差し上げなさい」
「わかっているわ、だけどヴィオ、無理よ! うふっ、ふふっ、あはははっ!」
いや、めっちゃ笑うやん。
捨て身のアタックで不審者を撃退するつもりが、おでこにたんこぶこさえたのはあたしだけっていうね。
そりゃ軍人さん(?)相手に無謀ですわな、鍛え方が違うもんね。へぇへぇ、あたしが悪ぅございましたぁ。
てかこの木の根っこ、硬いな。地味におしりが痛いわ。
泣いてない。泣いてないったら泣いてない。
「大変失礼をいたしました。まさかの展開でしたもので……こちらのヴィオはウィンローズが誇る、最高の騎士なんですのよ?」
「へぇ、そうなんですかー」
「レディー、突然のご無礼をお許しください。ですがどうか、私共の話をお聞きくださいませんか」
「今日はいいお天気ですねぇ」
「では……せめてこちらを。お召し物が汚れてしまいます」
ふてくされていると、イケメンにハンカチを差し出された。
木の根っこに直に座って、行儀が悪いとか思われてるんだろうか。
もしくは、腰を上げる隙を狙っているのかもしれない。
彼らはあたしをさらった張本人たちだ。ハンカチは知らんぷり。体育座りで、頑として動かない姿勢を示してみせた。
人質のくせに、なんて生意気なんだろうね。わかってるよ、こんな反抗をしたら何をされるかわからないってくらい。
「あなたを、傷つけたいわけではないのです」
そうやってあたしを呼んだ声音は理知的で、街で遭遇した男のような狂気は感じられなかった。
ちらと視線だけで振り返ると、いつの間にか目線まで屈んだペリドットの瞳が、真摯な輝きをたたえてそこに在った。
「なら、あたしを帰して。ジュリとゼノのところに」
「残念ながら、それはいたしかねます」
「だから、どうして!」
「それが我が主のご意向なのです。申し訳ありません、これ以上のことは、私の口からはお伝えできません」
「あたしに話があるのは、あなたたちの主さんなんですよね。じゃあなんであたしが連れて行かれなきゃならないんですか? しかも無理やり。おかしくないですか?」
「レディー……」
あくまで、あたし自身の正当性を主張する。どう転ぶか? そんなん知るかっての。
あたしのやけくそを受けた彼が、口を開こうとした、そのときだ。
──ビュオオウ……
静まり返った薄暗い森に、生温かいものが吹き抜けた。
「……嫌な風だわ」
それまでにこにこと表情を崩さなかった女性も笑みを潜め、柔和な顔立ちにわずかな警戒をにじませている。
「長居は無用ですね。ヴィオ」
「承知した。レディー、失礼いたします」
「なに……ちょっ、説明をしてくれません!? あたしにもわかるように、簡潔に!」
名前を呼ばれただけで心得たとばかりにうなずいた青年が、颯爽と軍服を翻し、腕をつかもうとしてきたのだ。
とっさに後ずさり、抵抗する。言葉を継いだのは女性だ。
「モンスターです」
「はっ!?」
「この『嘆きの森』は、多くのモンスターが棲みついた、別名『魔の森』と呼ばれています」
「要は危険な場所ってことでオッケー? なんでそんなとこ通ってんの!」
「ここは、あなたがいらした屋敷を取り囲むように位置しています。セントへレム郊外へ出るためには、避けては通れない道なのです」
「それって……」
──街まで遠いから。
前に、ジュリが転移魔法を使って屋敷から連れ出してくれたことを思い出した。
あのときはモンスターがどうとか、そんなことは言ってなかった。
知らなかった? ううん、ジュリはあたしに、絶対屋敷から出ちゃダメ、外に行くときはオレがいなきゃ絶対ダメって、呪文みたいに繰り返してた。
きっと、わざと言わなかったんだ。
ジュリのことだから、ビビリなあたしを怖がらせないようにって。
あたしは、自分が思う以上に守られていたこと、そして無力なことを思い知らされた気がした。
0
あなたにおすすめの小説
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる