上 下
104 / 718

104.乾いた感情5

しおりを挟む
「迷宮が生まれる経緯はさまざまじゃ。
突然の天災、圧政の下での絶望の怨嗟、
終わらぬ戦、一人の人間の狂おしいまでの願望。
それらの思いが集まり、生成されたと言われておる。
さて、この迷宮じゃが、君のことだ、
もう分ったであろう。
一人の異常な学院長の研究の果てに
生まれたものじゃよ。
神々の住まう世界へ続く廻廊じゃよ。
いつ繋がるかは誰にも分からぬ。
代々、魔術院の学院長が管理し、ゆっくりと成長を
促しているのじゃ」

誠一にとって、元の政界に戻るための
重要な話であったが、それよりもリシェーヌが
封印されているクリスタルを探すことで
気持ちは一杯であった。

「学院長、今、あなたの講釈に
付き合っている暇はありません。
ただ、二つほどお答えください。
一つ目、リシェーヌはどこですか。
それと彼女をそこから解放する方法です。
二つ目、何故、あなたに『誠一』という名が
分かったのですか?」
こうしている間にもリシェーヌが生命を
吸収されていると思うと、居ても立っても
居られない気分であった。

「若者よ、そう急く必要はない。
その二つの問いに答えたら、
リシェーヌの下へ連れていこう。
リシェーヌをクリスタルから引き出す方法は容易じゃ。
クリスタルに腕を突っこみ、退き出せば良い。
しかしじゃ、引き出した瞬間に死ぬ。
四肢の傷が酷く、出血が多過ぎた。
ここへ封印したのも苦肉の策じゃよ」
ファウスティノは一度、言葉を切って、
誠一を見つめた。

誠一は食い入るようにファウスティノを
見つめて、目を離さなかった。

「二つ目じゃったのう。
最高峰の鑑定眼は神と同じくらいに
他者のステータスを覗けるのじゃよ。
いかなる隠蔽、偽装、そして遮断も用をなさない。
君の鑑定眼も中々ではあるが、
上には上がいるということじゃ」
そう言うとファウスティノは歩き始めた。

無言で後に続く誠一であった。

しばらく歩くとファウスティノが立ち止まった。
ファウスティノの視線の先を誠一が追うと、
そこには一糸纏わぬ姿のリシェーヌがいた。
短く刈り取られたダークグリーンの髪に
透き通る様な白い肌、瞳は閉じられていたが、
穏やかな表情で寝ているようであった。

「四肢の欠損があるとのことでしたが?」
誠一は彼女を引っ張り出したい気持ちを抑えて、
質問した。

「エヴァニアの回復魔術で何とかなったのう」
誠一は誰のことか咄嗟に分からずに首を傾げた。

「リシェーヌが世話になっていた教会の司祭じゃよ。
四肢の怪我は何とかなったが、失われてしまった血は
どうする事もできぬ。あまりにも多過ぎた」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

王命を忘れた恋

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:202,748pt お気に入り:3,264

婚約者の義妹に結婚を大反対されています

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:55,849pt お気に入り:4,995

限界集落で暮らす専業主婦のお仕事は『今も』あやかし退治なのです

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:1,420pt お気に入り:1

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35,962pt お気に入り:2,371

ちーちゃんのランドセルには白黒のお肉がつまっていた。

ホラー / 完結 24h.ポイント:809pt お気に入り:15

街角のパン屋さん

SF / 完結 24h.ポイント:1,554pt お気に入り:2

ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,224pt お気に入り:58

【立場逆転短編集】幸せを手に入れたのは、私の方でした。 

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:6,426pt お気に入り:825

処理中です...