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120.帰郷12

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衛兵たちは事情が分からずに
へたり込むリゲルとアルフレートの顔を交互に見ていた。
「えっと、リゲル様。そして、こちらの方は?」

「私はアルフレート・フォン・エスターライヒ。
エスターライヒ家の長子だ」

「ご無礼、お許しください。
お手数かと思いますが、
この状況を説明して頂けると助かります」
アルフレートは手短に説明した。

「すみません、リゲル様に関しましては、
我々の手に余ります。
あちらの方で倒れている者や
動けなくなっている者たちは、
こちらで対応します」

「そうですね、よろしくお願いします。
途中で逃げ出した者もいるか、
そちらの対処もお願いします。
リゲルはそこに倒れているふりをしている剣士が
屋敷に連れ帰って、然るべき処置をするでしょう」

その言葉を聞くと、剣士はぴょこんと立ち上がった。
「何、呼んだ?」

「こっこれは、剣豪殿。一体、これは」
衛兵は最敬礼をもって応えた。

「気にしないでください。
噂の長子の実力を知りたかっただけですから。
その上、権力者に取り入る街のチンピラも
一網打尽する胆力と知力を兼ね備えていることが
分かったし。
リゲル様は、こちらで受け持ちますよ。
あっ忘れずに馬車の中の二人の性悪の女性も
しょっ引いてね。それじゃ、帰るよ。
ラムデール、いつまで座り込んでいる!
早く立ち上がって、馬車を動かしなさい。
それではアルフレート様、また、後日、
お会いすることを楽しみにしています」

「ヴェルナー・エンゲルス。
今回は引き分けとしておく。次は勝つ!」

「ふん、それはこっちのセリフだ!
さっさと行け、見逃してやる」
ラムデールはふらふらしながらも
立ち上がり、馬車に向かった。

「さて、ゴミは一掃できたし、
ここに潜伏する必要もないし。
場所を変えましょう」
キャロリーヌの意見にシエンナも賛同した。

「それなら、商館の空部屋を使いませんか?」
女子二人が商館近辺のお洒落なレストランや
お店の話で盛り上がっていた。
しかし周りを見渡せば、敵対した男どもが
血を流して苦しんでいたり、昏倒して倒れていた。

話の内容と周囲の状況のギャップに
誠一は唖然としていた。

「恐ろし過ぎる状況だな」
ヴェルが誠一の後ろから、ぽつりと呟いた。
誠一は深く頷いた。

その夜、エスターライヒ領テルトリアの牢屋には、
30名近くの者たちが入所させられていた。
最低限の治療しか施されておらず、
苦悶の声、怨嗟の声がひっきりなしに響いていた。

流石にベイス、ディリアム、ロムデール
といった中心メンバーの叫び声は聞こえてこなかった。
夜間警備の衛兵たちは、犯罪者にも格というものが
あるんだなと感想を抱いていた。

 翌日の早朝、衛兵は各牢の定期巡回を行った。
「おい、ベイス、いるか?返事をしろ」
粗末なベッドに腰掛けるベイスは、
一切の返事をしないどころか、微動だにしなかった。

「おい、いい加減にしろ。
ふざけるな、返事をしろ。
巡回が終わらないだろ」
夜勤の終わり際ということもあり、
衛兵は短気を起こしてしまった。

牢の鍵を開け、牢屋内に入り、ベイスを揺すった。
ずるりと身体が倒れた。
そして、壁には、暗がりために赤黒く見える液体が
付着していた。

「ひゃあああー」
叫び声を上げて、同僚を呼びに走った。
ディリアム、ロムデールもベイスと
同じように死んでいた。

衛兵の詰め所は大騒ぎとなり、
隊長の出勤を心から願っていた。
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