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123.探索訓練2

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「ほう、その通りか!
ヴェル先生は追記の必要を感じなかったか!
アルフレート君、君はどうかな?」

不安そうに誠一を見つめるヴェルであった。
そんな目で見つめてくれるなよな、
と心で呟く誠一であった。正直、答えにくかった。

「迷宮は一度で攻略をする必要はありません」
ヴェルの視線が痛い。話せば話すほどヴェルを
陥れているような気分になった。

「ゆえに自分たちが常に余裕を持って
退却できるように体力・気力。
魔力を調整するための訓練ですかね。
それと回数をこなすことで生じる気の緩みを
体感させるためですかね」

「そうだな、概ねその通りだ。
迷宮攻略は何度も行って戻ってを繰り返す。
特に上層部は何度も往復するだろう。
そのため、気が緩みがちになる。
そのために命を落とす冒険者もそれなりにいる。
特に中級以上だと、魔物もそれなりに強い。
少しの油断で足元を掬われかねない。
ヴェル、おまえは魔術院で何を学んでいるっ!
魔術を使えるようになるためだけに
あそこへ通わせている訳じゃない。
アルフレート君やシエンナのように
知見を増やすように少しは努力しろっ。
各自、休憩」

ヴェルにしては珍しく、俯き誰とも視線を
合わせようしなかった。
少し離れたところに座り、一人で休憩をとっていた。

ヴェルの方を見ながら、ラムデールが誠一に話しかけた。
「アルフレート。
おまえさ、さっきのは、ちょっと酷くないか?
おまえが優秀なのは誰しも分かっているだろ。
なんで友人を貶めるようなことをしたんだ。
しかもあの二人は兄弟だろ。
余計にこたえるよ。
魔術院に行って、少し変わったよな。
昔はそんなことしなかったよな」
誠一はラムデールが誰と比べて、
変わったと言っているのか分かっていた。
だから、ラムデールの言葉に応えようがなかった。

「アルは魔術院でも容赦ないよ。
等しく誰にでも厳しいから。
曖昧な優しさより、友人には厳しさを
乗り越えて欲しいんでしょ。
あなたについて行くなら、
今以上の努力が必要でしょね。
ヴェルも分かっているから、大丈夫でしょ。
まっ、ヴェルが諦めたなら、仕方ないよ」

容赦ないシエンナの言葉に
ラムデールは一瞬、絶句してしまった。
「おまえら厳しいな。
これでヴェルの性格が歪んだら、お前らのせいだぞ」

「大丈夫でしょ。私も経験してるし。
アルは厳しいことばかり言うけど、
きちっと手を差し伸べるから。
掴むか拒むかは、本人次第だけどね」
誠一のことを誇らしげに話すシエンナだった。

「おまえらもしかして、付き合ってるのか?」
突然のことに誠一もシエンナも顔を
見合わせて何も言えなかった。
お互いに出方を探り合っているような雰囲気であった。
方や困惑気味な表情で片や期待いっぱいの表情であった。
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