転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた

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「学院長、学院長、聞こえますか!
聞こえるなら、返事をしてください」
誠一の声に微かに頷くファウスティノであった。

ファウスティノは弱々しかったが、
ローブの内側を指差していた。
素早く誠一は、ローブを探ると、
プレーヤーから下賜されたような回復薬が
出て来た。

急いで口に含ませると、
ファウスティノは少し回復したようであった。
「この歳になると、何歳か歳を取っても
さほど容姿は変らぬのう」
震えながらも普段と変わらぬ口調の
ファウスティノであった。

「回復するには少々時間が必要じゃて。
すまぬが、背負って、学院長室まで
連れてってくれぬかのう」

「勿論です。直ぐに向かいます」
誠一は、もう一度、リシェーヌに目をやり、
また、来るよと伝えると、学院長を背負って、
歩き出した。
そして、誠一は学院長に言わざるを得なかった。
「ありがとうごいざます」

「ふむ、もし孫がいれば、君らくらいの歳かのう。
孫に背負わるのも悪くないものだのう」

誠一は、その言葉には何も答えず、
学院長の負担にならないようにゆっくりと歩いた。

「報酬には納得できたかのう?」

「はい、ありがとうごいざます」
誠一は、それしか言えなかった。
少なくとも寿命を代償にしての魔術行使、
そして、思い焦がれていた彼女の声、
誠一は自分に返せるものがあるのだろうかと
自問自答していた。

「それほど気張らんでもよい。
まずは自分が生き残ることを最優先になさい。
誠一君から得た知識は非常に
貴重なものばかりであったからのう。
それらの報酬も込みじゃ。
これからも話して貰えると助かるのう」

「はい」
誠一はそれしか言えなかった。
老い先短い筈なのに己の寿命を削ってまで、
彼女と会わせくれたファウスティノに言うべき、
伝えるべき言葉は感謝しかなかった。

「人はいずれ亡くなる。
ならば、残された時間を
有効に利用したいものじゃのう。
君が気にすることもなし。
己の人生の使い方は己で決める」

ファウスティノのように達観するには、
誠一はまだ、若すぎた。誠一は、頷くのみだった。

 魔術院を出ると、外はすっかり暗くなっていた。
誠一は屋敷までの帰路を急いだ。
屋敷の正門付近に到着すると、物悲し気な男が座っていた。

「ひえっ」
咄嗟のことに誠一は驚き、声をあげてしまった。

「アル、おまえなぁ。
何ですぐに帰って来ないんだよ。
俺は、ここの屋敷が苦手だと
あれほどに言ったのによ。
まだ、春とはいえ、地面は冷たかったぞ」

いやいや、ラムデールがいるかもしれないし、
それに事情を話せは、屋敷で待てたのでは
と思う誠一だった。

「おまえ、もしかして、シエンナと
逢引でもしてたんか?
それなら、それなりのサインを送れよな」
ヴェルが勘違いのまま、突っ走っていた。
そして、その勘違いに一人納得していた。
「まあ、俺も男だ。気持ちは分かるがな、アル!
おまえは友情より性欲を取った訳だ。
この借りはいずれ返して貰うぞ」
にやりとして、ヴェルが勝手な解釈を
推し進めていた。

「いやいや、学院長と少し話をね。
出征した際にちょっと頼まれごとされたから。
それでね」
誠一が上手くはぐらかそうとしていると
ヴェルは思ったのだろう。
釈然としない表情で誠一を見ていたが、
どうでも良くなったようだった。
「わかった、わかった。
それより、さっさと屋敷に入ろうぜ。
夜風が意外と寒いよ」

北の戦場の夜風は、ここより更に寒いのだろう
と思いながら、誠一とヴェルは、屋敷に入った。
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