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225.輜重隊出征14

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誠一の言葉を伝えられた本人は、
顔を真っ赤にして、そこら辺をうろうろとしていた。
「うううっ、これは。
そうそう、これはあれなんだ!
一般論なんだ。
うん、恥ずかしがることではないのだ」
良く分からないこと連呼して、
きょろきょろうろうろしているシエンナだった。
そんなシエンナが愛おしくなってしまい
ついつい誠一は、彼女に追い打ちをかけてしまった。
「シエンナ、それは違う。
これは一般論でなく、僕の思ったままの気持ちだよ」

「はわわー」
両手を何故か上下に振りながら、
さらに通路を高速でうろうろするシエンナであった。

「おい、何してんだよ、シエンナ。
阿保か、そんなことしても飛べないぞ。
こっちだ!さっさと行くぞ」

桜色に染まった頬が真っ赤になったシエンナであった。
「うっうるさいわね。魔術の研鑽は常なり。
あんたもしっかり学びなさいよ」

「どうでもいいけど、ここで飛翔しても
天井にぶつかるだけだぞ」
冷静に突っ込むヴェルだった。

誠一は終わらぬ二人の問答に辟易して、
二人の腕を取って、進むように促した。

「ん、ヴェルか。無事に到着したようだな。
話には聞いていたが、まあ、良かった。
アルフレート君もシエンナも無事で何よりだ」
青白い顔のロジェがにこりともせずに
3人へ目を向けた。
誠一はロジェを見て、笑うことにすら体力を
使うのが惜しいのだろうと感じていた。
外傷は見受けられないが、それほどまでに
体力・気力を消耗しているのだと思った。

「おい、兄貴。何だよそれ!」
ヴェルがロジェの態度に不満を露わにしたが、
シエンナがそれを遮った。
「ヴェル、ロジェさんの状態を見て、分からないの?
話すだけでも精一杯なのよ。
それだけ北関は大変な状況ってこと」

ロジェは首を垂れると、話を続けた。
「ああ、すまんな。ここの戦場は酷いありさまだよ。
君たちも出来得る限り体力の回復に努めなさい」

「わかったよ、兄貴。おとんとおかんは?」
ヴェルは彼の状態を見て、納得はしたが、
釈然としない様子だった。

「捕虜の口から、竜騎士の拠点が
分かったようで、討伐に向かった。
精神的にも肉体的にもまだまだ、
余裕があの二人にはあるよ。
早くああなりたいものだな」

誠一は周囲に人がいないことを確認した。
そして、千晴から貰った回復薬を
ロジェの紫色の唇から含ませた。

「おっおい、それは。いいのかよ」
「アル、それって、下賜されたものじゃ」
二人の慌てふためく挙動を気にせずに一本、
ロジェに飲ませ切った。

「アルフレート君、これは?」
多少、血色のよくなったロジェは、
二人の驚き様が気になっていた。
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