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239.初陣7

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 レドリアン導師にとって、シエンナの表情を
読むことなど容易かった。
シエンナが如何に表情を消しているつもりであっても
海千山千の貴族達に比べれば、その技術は児戯に等しかった。

「ローブを脱ぎなさい。上官たる前で失礼であろう」
シエンナは無言でローブを脱いだ。

ほう、感嘆の声があやうく漏れそうなレドリアン導師であった。
可愛げのある容姿に抜群のプロポーション。
ベッドでさぞ、いじめがいがあるなと思い、舌なめずりした。

 座ったまま、右手に持つ杖をシエンナの左胸に押し当てた。
杖より伝わる弾力にレドリアン導師の興奮は高まり始めていた。
俯き軽く震えるシエンナに肉食獣のような表情を
向けるレドリアン導師だった。立ち上がり更に杖を強く押し当てた。

「あっああ」
シエンナの声が漏れた。

レドリアン導師は、その甘い声で更に興奮した。

「あっああー」
妙な声が聞えたと思った瞬間、杖が奪い取られて、
右の太腿辺りに激痛が走った。

「うっぎゃああああー」

「っさいわね。男ならそんなだらしない声あげないでよね」

傷みに耐えかねたレドリアン導師は、
その場で床に蹲っていた。
そこへ杖を構えたシエンナが容赦なく、
振り下ろそうとしている光景がレドリアン導師の目に映った。

戦場に出ているとは言え、後方からの魔術攻撃が
主であり彼は、痛みに対する耐性が著しく低かった。
最初の一撃で戦う意思など吹き飛んでいた。

「待て待て、一体何のつもりだ。
貴様、反逆罪に問うぞ。やめろ」

「えっ?反逆罪?」
シエンナは首を傾げながら、不思議そうな表情で
杖を振り下ろした。

レドリアン導師は、右腕に凄まじい激痛を感じた。
痛みもだが、世に幾本とない名工の杖が壊れてしまうことを恐れた。

「ぎゃっ。やめろ、やめてやめて」
レドリアン導師の悲鳴に眉一つ動かさず、
杖を振り下ろすシエンナであった。
レドリアン導師は、床に蹲り、
丸くなることしかできなかった。

「参りましたは?」

「参りました。参りました」
レドリアン導師の叫びを聞くとシエンナは
満足したように彼の杖を正面に構え、言葉を紡いだ。

「ここに宣誓する。
レドリアン導師より申し込まれた決闘は、
私、シエンナ・モリスの勝利に終わりました」

「導師、突然、魔術戦を学生に申し込むとは一体、
どういうことですか?
導師ほどの実力者ゆえに私も手段を
選ぶことができませんでした。
しかし、導師は純粋な魔術師だと思っていましたが、
接近戦にもそれなりに自信があったのですね」

レドリアン導師は、痛みで乱れる己の呼吸音に
妨げながらもシエンナの言葉を聞きいていた。
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