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285.旅路3

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「商人として向かう予定かと。
ロジェ殿は恐らく市場をうろつく行商レベルの商人ライセンス証を
持っているはずでござる。そこそこの実力の冒険者にありがちなこと」
市場で直接の売買が可能ならば、冒険者ギルドや
商人への卸売りより利益は上がる。
そのための最低ランクの商人のライセンス証を持つ冒険者は一定数いた。

「なので心配無用ですが、現状では売り物がありませぬ。
面倒ですが、竜公国への道中でいくつか迷宮を探索したり
魔物を討伐して売り物を得るのが得策かと。
どの道、本気では追って来ませんので追手を気にする必要はないかと」
アーロンより預かった路銀で仕入れをする気は全くない剣豪であった。

無論、そんな路銀があることなど知らぬ誠一とシエンナは、
なるほどと剣豪の意見に納得していた。
前方を灯すあかりに神経を尖らす二人は、振り返る余裕がなかった。
後方でほそくほほ笑む剣豪の様子を二人が見ることはなかった。
 昼夜を通して、移動した誠一たち一行は、早めに夜営の準備を始めた。
誠一はロジェたちに商人に扮することを提案し、
売り物を竜公国へ向かう途中の迷宮で集めることを説明した。

「行商の件だが、4人が商業ギルドと契約してるから
怪しまれることはないな。アルフレート君の提案でいこうか」
ロジェ、キャロリーヌ、サリナ、そしてシエンナが契約していた。
剣豪は長きに渡る放浪生活であったが、契約していなかった。
「ふむ、優秀。優秀でなにより。
街中で風呂敷を広げて商いを始めても碌なのが
寄り付いてこないゆえ、アルフレート様もヴェルも
冒険者として身を立てるなら、あって損はないです」
全員の顔が物語っていた。街中で堂々と無許可で商いとかあり得ないと。

気を取り直した誠一が話の舵を元の話題の方へ戻した。
「迷宮探索に時間をあまりとられるのは得策ではないですね。
ロジェさん、道中で稼ぎの良さそうな迷宮や遺跡はないですか?」
なんだろう剣豪が何かを言いたげな様子でそわそわしだしている。
誠一にはそう見えた。いや、誠一だけでなく、他のメンバーも同様だった。
シエンナが場の雰囲気を察して、剣豪に声をかけた。
「先生、何処かお薦めがありますか?」

「ないでござる。
そもそも楽して儲けようという魂胆がよろしくない。
若いうちは苦労を買ってでもしなさい。
といこうとでサリナ以外は、明日から二名ずつ走りなさい。
馬は4頭立てにします。幸にしてロジェもいることなので、
ロジェ、ヴェルとキャロリーヌ、アルフレート様・シエンナの
3組で回しましょう。
竜公国とヴェルトール王国の国境付近の街で
遺跡探索の準備をします、いいですね」
むふう、鼻息荒くどや顔で説明をする剣豪だった。
ロジェは何のことやら良く分かっていないようだったが、
他のメンバーは一瞬で暗澹たる気分に覆われていた。
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