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286.旅路4

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 翌日、最初のランニングが終わったロジェが
荷車で息を乱していた。
「アルフレート君、もしかしてこれが毎日、続くのか?
冗談だろ。不測の事態が生じたときに対応しきれないぞ」
息も絶え絶えのロジェが何とかそれだけ言うと、
黙り込んでしまった。
誠一は彼の言葉に対して何も言うことができなかった。
馬車の走る道は土を踏み固めた程度のものであり、
所々で目印となるものを頼りに進んでいた。
王国が敷設した道であれば、広くレンガや石が敷き詰めてあったが、
地方ではそこまで整備されていなかった。
風雨に晒されれば、道は消え失せて、人の気配のない森の奥地へと
旅人は誘われてしまっていた。

「おかしいわね。アル、おかしくない?」
夕食時にシエンナが夜空の星を見ながら、首をしきりにひねっていた。
「シエンナ、どうしたの?」

「北関から竜公国を目指してるけど、そろそろ王国と竜公国を
結ぶ道に交錯してもおかしくない筈だよね。
確か整備されているからかなり広い道に出くわすはずだけど。
星々の運行も星占術で学んだものとちょっと違うしね」

誠一も夜空を見上げた。焚き火以外の明りがなく、
星々の光は満天の空に燦然と輝いていた。
「うん、良い景色だ」
両腕を大きく広げて深呼吸を誠一はした。

「ちょっと、アル。確かに綺麗だけど、今は別の話をしてるでしょ」
夜空を見上げなら、地面に枝で星の運行を書き記していくシエンナだった。
誠一はそれを覗き込んだ。
「確かにちょっと変だね。
このまま真っすぐ走っても竜公国には到着しないかも。
どうも道をどこかで間違えた可能性が大だね。
この辺りに詳しいメンバーもいなさそうだし、
ましてや戻る訳にいかないし、一旦、このまま走って
最初の村か街で竜公国への道を確認しよう」

「地政・地理学をもっとしっかりと勉強しとけば良かった」
うなだれるシエンナだった。

誠一は軽く笑った。
どんなに勉強しても全ての道を網羅することは
不可能だと思っていた。
食料と水さえ尽きなければ、このメンバーなら
大概のことは対処できると思い、誠一は今の状況を楽観視していた。

 翌朝からしとしと雨が降り始めた。
昼頃に雨は止んだが、濃霧に囲まれ、周囲の視界が
著しく阻害されていた。
あまりの霧の深さに一行は、馬車を止めて霧が晴れるのを
待つことにした。

数時間、待ったが霧は一向に様相を示さずにそのまま深夜を迎えていた。

シエンナは空を見上げたが、星々は見えずに夜空は何の助けも
旅人たちに与えなかった。
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