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288.旅路6
しおりを挟む「こっこれは?」
ロジェの上擦った声。
「ちょっと、これ、どういう事」
サリナの理解の範疇を超えた事象に困惑の声。
「アル、あなた凄くない」
キャロリーヌの感嘆の声。
誠一たちを囲む森林と空の闇の風景は氷が砕けるように崩れ落ちた。
そして、彼等を囲むように神殿が顕現した。
神殿を形作る主たるものは木であった。彼らは木造りの部屋にいた。
ヴェルトール王国ではめったにお目にかかれない建築様式であったが、
誠一には馴染のある様式であった。
剣豪が懐かしんだ寺社仏閣に近し建物であった。
「どうやら知らぬ間に遺跡に誘い込まれていたようだったな。
それにしても聞いたこともない遺跡だな」
落ち着きを取り戻したロジェが嘆息した。
「神隠しの森、確かそんな名前の遺跡があった気がするけど」
シエンナがぽつりと呟いた。
「何それ。どんな遺跡なんだ?」
ヴェルの問いにシエンナは言葉一つ一つを
じっくり選んで答えているようだった。
「あくまで噂の域に過ぎないのよ。
昔からある地域で突然、行方不明になる冒険者が後を絶たない。
でも冒険者が突然、消えるなんてないことじゃなから、
本当に遺跡探索で亡くなったか誰にもわからない。
だからいつの間にか神隠しの森なんて、呼ばれるようになったの」
カーン・カーンと鹿威しの音が遠くに聞える。
「ふむ、鹿威しの音でござるな。
鳥獣避けかはたまた風流として音を楽しむものか。
さてさて如何なものか」
ニヤリと笑い、嬉しそうにする剣豪だった。
誠一は外の様子を窺った。
境内の外は白い砂利が綺麗に敷き詰められていた。
まるで誰かかが手入れをしているように誠一には思えた。
「二手に分かれましょう。
馬と荷車を護衛するメンバーと外を探索するメンバーに分けましょう。
僕、シエンナとヴェル、そしてロジェさんで探索。
先生とサリナ、キャロリーヌで荷車の護衛でどうでしょうか?」
誠一は、明らかに不満そうなキャロリーヌから顔を背けた。
幸なことにロジェが賛成したために事なきを得た。
「うわっなんかこう足を踏み入れるのを躊躇うような綺麗さだね」
白い砂利を前にシエンナが踏み入れるのを躊躇していた。
周囲の厳かな雰囲気もそれに拍車をかけているだろう。
しかし、その隣で容赦なくヴェルが足を踏み入れた。
「おい、おまえら何してんだよ。さっさと行くぞ。
食料にしろ水にしろ無限にある訳じゃないんだぞ」
派手に足跡を付けながら、ヴェルは門の方へ進んでいった。
毒気を抜かれたような気分で他の3人も後に続いた。
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