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539.大会戦11

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ジェイコブの側で唯一混乱せずに冷静に状況を
分析しているバラムは行動に移った。
「ジェイコブ王、撤退か突撃かご覚悟を」

「ふしゅうううぅ。奴を殺す。全軍で突撃だ。
逃げる者は切って捨てろ」
剣を振り上げ、号令を出すジェイコブであった。

「王ヨ、お薬をどうぞ。
心の高揚を高め、力を増すクスリです」

ジェイコブは疑うことも無くバラムから渡されたクスリを一飲みした。

「があああっ!殺す殺す殺すぅー」

騎乗しているジェイコブは馬を激しく攻め立てて
アルフレートに向かって走り出した。
しぶしぶ取り巻きもその後に続いた。

味方を敵を掻き分けて戦場を走り、
ジェイコブは誠一の前に現れた。

「貴様さえいなければ。
貴様さえいなければ、ぐううっ、俺の命に代えても貴様の首を
陛下に献上しなければ」

「おいおい、アル。そこまで俺らあいつを
ひどい目に遭わせた覚えはないけど」
ヴェルの疑問に誠一も賛同した。
「確かに何かした覚えはなけど、受け取り方は人それぞれだから、
知らぬ所で傷つけていたのかもしれない」

「おいおいおい、殊勝に反省して、そっ首を渡すつもりかよ?」
誠一はヴェルのその言葉を笑い飛ばした。

「まさか。立ち塞がるならば、倒すのみ」
誠一は7面メイスを握り直して、応戦の構えをとった。

「きっ貴様、あれほどのことをしでかして、
尚且つ俺様に刃を向けるか。この愚図が」
威勢よく吠えて馬上で剣を振り回しているが、
一向に誠一へ襲いかからないジェイコブであった。

「めんどくさい男。ぐだぐだと口上を聞いているのも飽きるわ」
キャロリーヌの放った矢がジェイコブの騎乗する馬に刺さった。
高く嘶くと前足を大きく振り上げた。ジェイコブは馬から転げ落ちた。
馬はそのまま何処へと走り去った。

「ぐううっキャロリーヌめ。
俺に従わなかったことを後悔させてやる」
立ち上がるが、再び、恨みつらみを言うだけで中々、
応戦しようとしなかった。
魔術とクスリにより強化・狂化されているにも関わらず、
強烈な何かが彼に歯止めをかけていた。

「踊れ、風の刃!エアスライサー」
離れて距離を保つジェイコブに業を煮やした誠一は
5発の風の魔術を放った。

ジェイコブは咄嗟に傍の取り巻きの首根っこを掴み、
盾代わりとした。
直撃した取り巻きは鎧を裂かれて、胸部を切り裂かれた。
ジェイコブはそれを放り投げると、何故か誠一たちに対して
半身の姿勢を取った。

「あーほんとにめんどいわね。
生け捕って、女王に献上するよ。水牢郭」
シエンナの魔術がジェイコブを捕らえるべく展開した。

ジェイコブはまたしても近くの取り巻きを掴んで
寸前のところで入れ替わった。

不幸な事に取り巻きの右腕が水の牢郭の構築の外に残った。

ポトリと右肘より先が地面に落ちた。

空牢郭の中が噴き出る血で赤く染まった。

間近でそれを見た取り巻き達は声にでない叫び声をあげると
その場から逃げ出そうとした。
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