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626.神堕ちの儀2

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「二人の意見は良く分かった。
今回の遠征の目的を明確にしなかった僕の落ち度。
今更ながらだけど、僕から話すよ」

「確たる詳細の説明は先生から無かったら、
何となくで依頼を進めているけど、
みんな、それとなく感じていると思う」

 何となくぼんやりと感じていることを明確に言葉で示す。
そのことでしっかりとメンバーで目標を共有できると
誠一は思い、話を続けた。

「過酷な環境を経験することが第一。
そして自然という脅威の引き際や限界点を
肌で感じることだ。
それから、特定環境下でどのように依頼を
達成するかを考えることが第二。
最後は無論、利益を上げることだ」

ヴェルは大いに頷いた。
「アル、言わんとすることは分かった。
だけどよ、ここにこうやって閉じ込められてちゃ、何も出来んぞ」

誠一はにやりとした。
「この時期にこの依頼を受けたことは、
これも先生の想定していたことだよ」

ヴェルは頭を捻った。アミラも同様に頭を捻った。
サリナは聞いているのか聞いていなのか分からないが、
目は誠一の方を向いていた。

「そういうことね。うーん、そうね。
ちょっと意地が悪いけど、そうねあり得るわね」
納得の表情のシエンナだった。

「どういことだよ、シエンナ?」

「つまり、さっきの私とヴェルの言い争いよ。
閉塞された環境に長く閉じ込められて、
如何に冷静さを保てるかってこと」

誠一は頷いた。しかし、ヴェルはどうにも
釈然としていない様だった。

「んんん?俺は至って冷静だったぞ。
シエンナがキッキッと騒いでいただけだろ」

「はあ、あんたが無神経なこと言っているのを
窘めただけでしょ」

吹雪のせいで閉じ込められて、
5時間ほどしか経っていなかった。
しかし、2人は既にこの状態であった。
誠一は頭を抱えてしまった。
頭を上げた誠一はにこりと笑うキャロリーヌと目があった。
こっちは纏めようと必至なのに何が面白いんだと
誠一は腹が立った。

丸い塊がずりずりと動き出して、
誠一の側に腰を下ろした。
「まったくいつも通りの2人よね。
二人共、その位にしておきなさい。
ヴェル、少し外の物音が静まったわ。
今のうちに外に放置してあった薪を室内に補充しなさい。
補助魔術を使用すれば、大丈夫でしょ」

キャロリーヌの声を聞いて、
誠一は少し落ち着いた。
言われてみれば、二人のやり取りは
いつも通りのような気がした。

二人のやり取りを受け取る自分が一番、
冷静でなかったのかもと反省した。
「キャロ、ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして。
何気にアルが一番、こういった環境に
慣れてないものね」
図星を突かれたアルは何も言い返せなく、
両手を組んで頭を垂れた。
いつの間にかシエンナも自分の隣に腰を下ろしていた。
外にはアミラがヴェルを心配して付いて行った。
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