上 下
648 / 718

638.神堕ちの儀14

しおりを挟む
「おっおう、アミラ、どうしたって、うぉおおっー」

「上書きするです。下品な胸を忘れるです」
アミラが真っ赤な顔でヴェルの手を掴んで、
服の上の小さなふくらみに当てた。

ほんの少しヴェルの手はアミラの胸を強く掴んだ。

「あっ」
アミラが小さく叫んだ。

「アミラ、すまん。それよりサリナを助けろって」
上気したアミラの顔は真っ赤のまま、
ヴェルの手を離して、加勢に再び向かった。

「まったく子供が」
真っ赤な顔のヴェルは気取った風に呟いた。

「あなたもね。急ぎなさい。
アルとシエンナが干からびたミイラになるわよ」

キャロリーヌにも『純潔の婚約者』の称号が
強く発動していた。
ヴェル、サリナ、そしてアミラにも
強く『絆の仲間』の称号が発動していた。

際限なく魔法陣に吸い上げられる魔力に
誠一は焦りを覚えていた。
しかし、ほんの僅かの時間だが、
ヴェルと仲間のしょうもない会話で気分が楽になった。

誠一は改めて気を引き締めた。

脳裏に浮かび上がる文言を誠一は唱えた。

「天空より我が世界を覗きし神よ。
この世界の地に囚われ、この世の理を枷として、生きよ」

一際、魔法陣が強く輝いた。
キャロリーヌが何度も誠一とシエンナに回復薬を含ませた。

「くそっ手持ちの魔石が尽きた。
仕方ね、やるしかないな。
俺は魔力移譲が苦手なんだよ。アル、我慢しろよ」
ヴェルは革の鎧脱ぎ、服を脱いで上半身裸になった。

ヴェルは洞窟の天井を見つめた。

そして、意を決したヴェルは、誠一を正面から抱きしめた。
「くそおう、アルの信じる神の為だ。
我、与える我が魔力と体力を。トランスファー」
ヴェルは一気に誠一へ魔力を供給した。
だが、それも一瞬で潰えた。
魔力の枯渇したヴェルは誠一から離れると仰向けに倒れた。
サリナやアミラはキャロリーヌに倒した魔獣の魔石を
放り投げてくるが、誠一とシエンナが触れると
瞬時に石ころのようになってしまった。

誠一を媒介にして魔法陣が魔力を吸い上げている様だった。

「ちときついが大物を倒すしかないな」

ヴェルは立ち上がると、槍を持って、湖の方へ向かった。
湖からは数匹の水蛇が這いだして来ていた。

「魔物相手に名乗るのもアレだな。変だ。まあいいか。
魔道槍兵ヴェルナー・エンゲルス、貴様らを倒す」
右腕で長槍を掲げて、名乗りを上げた。
水蛇たちはヴェルを無視して、引き寄せられるように
誠一の方へ向かおうとした。

「まったく必殺のフレイムチャージは無理か。
ならばこれしかないな。
陸に上がった水蛇なんぞ、俺の敵じゃねー。
いくぞ、闇に映し出せ三日月よ、三日月斬撃」

十分な遠心力を加えた槍による斬撃が水蛇を襲った。
死にはしなかったが、一匹の水蛇が致命傷を受けた。
その水蛇は傷口から血を流しながら、その場で身体を
痙攣させていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

王命を忘れた恋

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:201,792pt お気に入り:3,140

婚約者の義妹に結婚を大反対されています

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:56,148pt お気に入り:4,994

限界集落で暮らす専業主婦のお仕事は『今も』あやかし退治なのです

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:1,249pt お気に入り:1

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:36,513pt お気に入り:2,367

ちーちゃんのランドセルには白黒のお肉がつまっていた。

ホラー / 完結 24h.ポイント:596pt お気に入り:15

街角のパン屋さん

SF / 完結 24h.ポイント:1,278pt お気に入り:2

ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,977pt お気に入り:57

【立場逆転短編集】幸せを手に入れたのは、私の方でした。 

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:6,149pt お気に入り:825

処理中です...