転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組！だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業？それとも社畜？誰か助けて

849. 万能の霊薬2

「おまえさえ、おまえさえ、この地に来なければ、
こんなことにならなかった。その命を持って詫びよ」
その体躯からは、想像もつかない程の勢いと速さで
誠一に襲いかかった。
普段の誠一であれば、その程度の早さの攻撃を
避けることは造作もなかった。
だが、常軌を逸っている誠一は、刃を避けようともせずに
フォーニエに掴みかかろうとした。

「これはいけませんな」
剣豪が立っていた場所にその言葉と影が残っていた。
そして、剣豪本人は、誠一とフォーニエの間に
割って入っていた。

剣豪の脇腹に短刀が刺さっていた。

突き刺された短刀は剣豪の腹部を更にえぐった。
剣豪の表情は変らずであった。
普段通りの所作で木刀を一本、
アイテムボックスから取り出すと、
それで誠一の額を軽く打ち付けた。
「まだまだでござるな。精進なさい」

剣豪はフォーニエの方へ振り向いた。
「何か言い残すことは」

「ふふふ、無念ですが仕方ありませんね。
アルフレート・フォン・エスターライヒさえ居なければ。
黄泉への旅路の共は、名も知らぬあなたとしましょう」

「ご免こうむりたい。
そもそもアルフレート様を恨むのは筋違い」

「ええ、存じておりますわ。
でも誰でもいいから恨まずにいられないことが
人にはあるのですよ」

「ふむ、そこをつけこまれたでござるか。
最後に希望があれば聞くが」

「ええそうですね、痛いのは嫌いです。
ああ、お父様、お母様、フォーニエも参ります」

剣豪は何も言わずにフォーニエに木刀を振り下ろした。
木刀は粉々に砕けた。フォーニエは数メートル吹っ飛んだ。
即死だった。木刀を振り下ろした剣豪はその場に倒れた。

誠一は目の前で剣豪が地面に倒れるのを
見つめているだけだった。
その光景を受け入れることが出来なかった。

仲間が誠一に駆け寄って来た。

サリナが素早く短刀を剣豪から引き抜いた。

キャロリーヌが止血しようと試みた。

シエンナが水魔術で回復魔術をかけた。

ヴェルが上級回復薬を剣豪に含ませた。

アミラが解毒薬を剣豪へありったけ振りまいた。

マリアンヌが薬師と僧侶を呼んだ。

「ああああああ」
誠一は呻くだけだった。

「うるさい。喚くだけなら、どっか別のところへ行け」
マリアンヌが珍しく怒鳴った。

「くそっ！上級回復薬じゃ無理だ」
ヴェルが呻いた。ほんの僅かだが剣豪に意識が戻ったようだった。

「ふむふむ、絶対絶命でござる。これもまた、一興」

「あああっ先生、すみません。
僕が未熟なばかりにすみません」

誠一は額を地面に擦り付けた。

「まあ、いいのです。若者が未熟なのは当然。
幾多の経験を積んで成長なされ」
剣豪の声は震えていた。

顔色は見る見るうちに生気が失われ、土気色に変った。