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852. 思惑1
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城のバルコニーに立ち尽くすティモフェイ。
南方戦役勲功第一位を自ら任じていたティモフェイは
眼下の光景と雄叫びが苦々しかった。
自然と彼の表情は歪んだ。
ジェミロを逃したが、幾つもの城を落して
最大の拠点を陥落させた。
そのことが貴族界で賞賛、そして後々まで
人々に語り継がれる将来を夢想していた。
無論、神から下賜されたことなどが軍功として
評されることは、決してヴェルトゥール王国でない。
しかし、南方戦役が市井での語り草になるのは
この神の奇跡であることは間違いなかった。
こぞって吟遊詩人が脚色を加えて、広場、
飲み屋で飯の種に謳うだろう。
「ティモフェイ様は、天下無双の騎士でございます」
「南方戦役の勲功第一はティモフェイ様にございます」
「あのようなことは、一時的な噂になるに過ぎません」
「歴史に名を刻むのはティモフェイ様にございます」
普段、側近の阿諛追従に鷹揚に
頷くティモフェイであったが、
この時ばかりは心を見透かされたようで、
声を荒げた。
「うるさい、そのような分かり切ったことを一々、囀るな」
「中々、壮観な仕上がりだな。
そう思わぬか、ティモフェイよ。
何を不快になっておるのだ、ティモフェイよ。
大勝利の〆に相応し物語ではないか」
愉快そうに笑うドルレアン・ストラッツェールだった。
「父上、しかしながら世の評判は、
あの廃嫡されたエスターライヒ家の子倅に
持っていかれます」
「この程度の世評などどうでも良い。
王国民を楽しませる娯楽に丁度いい。
将来のために我がストラッツェール家は
実を取れればそれで良い」
ティモフェイはそれ以上、抗弁することを控えた。
ストラッツェール家現当主が方針を嫡子に
示した。
そのためティモフェイは苦々しい面持ちで従った。
「それにしてもあの金髪の坊やは話題に事欠かないな。
聖人君子という訳でもないだろう。
ティモフェイはそう思わないか?」
ドレルアンの言わんとすること、
意図をティモフェイは正確に理解した。
「ははっ、その通りです。
人は誰しも脛に傷を持つ者。
ましてや廃嫡されるような男です。
叩けば、埃は幾らでもでるかと」
ドレルアンは口元を吊り上げて眼下の光景を嘲笑した。
「ほどほどだぞ。やり過ぎは己の身を亡ぼす」
そう言い残して、ドレルアンは執務室と定めた部屋に戻った。
ティモフェイは愉悦に浸っていた。
「ふん、いずれ吠えづらをかかせてやる。
今のうちのその奇跡と称賛に浸っているがいい」
ティモフェイは眼下に向かって吐き捨てた。
南方戦役勲功第一位を自ら任じていたティモフェイは
眼下の光景と雄叫びが苦々しかった。
自然と彼の表情は歪んだ。
ジェミロを逃したが、幾つもの城を落して
最大の拠点を陥落させた。
そのことが貴族界で賞賛、そして後々まで
人々に語り継がれる将来を夢想していた。
無論、神から下賜されたことなどが軍功として
評されることは、決してヴェルトゥール王国でない。
しかし、南方戦役が市井での語り草になるのは
この神の奇跡であることは間違いなかった。
こぞって吟遊詩人が脚色を加えて、広場、
飲み屋で飯の種に謳うだろう。
「ティモフェイ様は、天下無双の騎士でございます」
「南方戦役の勲功第一はティモフェイ様にございます」
「あのようなことは、一時的な噂になるに過ぎません」
「歴史に名を刻むのはティモフェイ様にございます」
普段、側近の阿諛追従に鷹揚に
頷くティモフェイであったが、
この時ばかりは心を見透かされたようで、
声を荒げた。
「うるさい、そのような分かり切ったことを一々、囀るな」
「中々、壮観な仕上がりだな。
そう思わぬか、ティモフェイよ。
何を不快になっておるのだ、ティモフェイよ。
大勝利の〆に相応し物語ではないか」
愉快そうに笑うドルレアン・ストラッツェールだった。
「父上、しかしながら世の評判は、
あの廃嫡されたエスターライヒ家の子倅に
持っていかれます」
「この程度の世評などどうでも良い。
王国民を楽しませる娯楽に丁度いい。
将来のために我がストラッツェール家は
実を取れればそれで良い」
ティモフェイはそれ以上、抗弁することを控えた。
ストラッツェール家現当主が方針を嫡子に
示した。
そのためティモフェイは苦々しい面持ちで従った。
「それにしてもあの金髪の坊やは話題に事欠かないな。
聖人君子という訳でもないだろう。
ティモフェイはそう思わないか?」
ドレルアンの言わんとすること、
意図をティモフェイは正確に理解した。
「ははっ、その通りです。
人は誰しも脛に傷を持つ者。
ましてや廃嫡されるような男です。
叩けば、埃は幾らでもでるかと」
ドレルアンは口元を吊り上げて眼下の光景を嘲笑した。
「ほどほどだぞ。やり過ぎは己の身を亡ぼす」
そう言い残して、ドレルアンは執務室と定めた部屋に戻った。
ティモフェイは愉悦に浸っていた。
「ふん、いずれ吠えづらをかかせてやる。
今のうちのその奇跡と称賛に浸っているがいい」
ティモフェイは眼下に向かって吐き捨てた。
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