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元奴隷(騎士)×コミュ障受けシリーズ
番外編
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それは昼間の演習だった。
副団長に、『酷い顔色をしています』とルシウスは生まれて初めての指摘を受けた。
―――ただ、酷い顔色の意味が分からなかった。
「?」
健康診断は受けたばかりだった。心配せずとも俺は心身ともに健康体だと言えば副団長は失笑して、「いいえ。それでは部下に示しがつきません。どうか早めにお休みください」と頭を下げた。
(解せない…)
何度鏡を見ても普通の顔色だった。念のため医務室に行ったが体温にも異常はなく、風邪気味というわけでもない。
やはり副団長の見間違いだったのだろう
ただ、ルシウスを診察した医師から気になることを言われた。
『彼の言った顔色とは、心因的なものかもしれませんね』
心因的とはなんだ。
ルシウス自ら捕虜を拷問した時は笑う余裕すらあった。ドラゴンの群れの駆除、海賊の討伐では終わりの見えない連戦で部下を何名か失ったが勝利を収めたのだから死人も報われたというものだ。
そして誰よりも、剣を抜いたならば最期まで立つとルシウスは心に誓っていた。
―――団長サマは感情が欠落している。
元々そのような陰口があったことは承知していたが騎士である以上、迷いとは邪魔なモノ。
例え部下に裏切られゼノンに奴隷として送り込まれた時であったとしても、最終的に命があり戦利品まで手に入れたのだ。
国に戻れば王直々に誉を得て、民衆や部下からは帰還を歓迎された。
(まぁ、俺を陥れた彼奴らは処罰してやったが)
それも騎士として正しく、何も間違えてない。
普通の顔色だ。
* * *
他の部屋に比べ重いドアノブを捻れば、鉄格子の窓を見つめる青年の姿。
「ウィル様。ただいま戻りました」
「……おかえりなさい」
ゆっくりした動作で振り向く青年の顔に表情はない。
けれど主人には愛想よくしなければと思うようになったのか、最近では口端くらいは上げるようになった。まるで巧妙に作られた機械人形のように
その姿はとても哀しく、美しい…。
「………ルシウス?」
突っ立って動かないルシウスにウィルは困惑した。
どうしたのだろう、今朝は普通だったのに
目の色が光を映していないような気がして、………名前のあとに続く言葉はなくても、どうしたの?と思わず近寄った。
「――――!?」
突然、動いたルシウスにガッと強い力で抱きしめられた。
「………」
「………ル、シウス?」
条件反射だ。今夜は酷く抱かれるのだろうと身がすくんだが、不思議とルシウスは何も言わない。
ウィルを抱き締めたまま、何かを噛みしめているようだった。
「……だ、誰かに、イジメられたのか?」
「は?私が…ですか?
「……だ、だって…」
そんなワケあるはずがない。だってルシウスは、この国の王様の息子で騎士団長だ。
軽口程度でも不敬罪に問われ首が吹っ飛ぶ。
けれどルシウスは…権力やそんなものに甘えない性格だろ。
どんな貧乏貴族でも立場や肩書があればあるほど苦労も多い、父上も兄様もそうだった。
ルシウスも周囲から嫉みを買い、グッと堪えて本当の言いたいことは飲み込んできたんじゃないのかって…
「元気なさそうに見えた。そうじゃなきゃ疲れた?」
「……ほんとに貴方は……、」
やはり様子が変だ。
そう思った時、何故だか自然と伸びていた手がルシウスの頭をそっと撫でた。
――――これが正しい行為なのかはわからない。
「ウィル様…」
ルシウスの端整な顔がじっと、少々驚いた表情で抱きしめているウィルを見つめた。
「私を甘やかそうとする人間なんて貴方くらいです。珍しく機嫌なんかとって、欲しいものでもあるんですか?」
「……別にそんなつもりないけど、今夜は…」
歯切れが悪いのはお互い様だ。
それでもルシウスを優しく撫でるウィルの手は止まらない。
”今夜は抱かれたくない”。
言わなくてもいい。
彼の故郷では今、亡くなった領主とその家族の弔いが行われているのだから―――……
「駄目ですよ。貴方の役目は、…………」
役目は、ちゃんとある、… が途切れた。
まるで燃料の切れた機械のように。
「ルシウス?……え、寝た??」
寄りかかるように、ずっしり持たれてきた体重にウィルは困惑した。いや…疲れてそうな表情をしているとは思っていたがまさかの寝落ちだ。
いくら服従の首輪があるとはいえ、主人の寝首を掻くかもしれない奴隷の前で寝るなど―――……
(これで、よし)
体格差もだが、鍛えられたルシウスの体をベッドに抱き上げてやれるほどの筋力はない。
だから冷たくて硬い床を寝床に、ベッドから降ろした上等な布団は不釣り合いだが… 寒くないようルシウスと半分こだ。
”不本意だけれど主人に風邪を引かれてしまえば、俺が困る。”その言い訳を胸に。
「こうやって、床で一緒に寝るも久しぶりだな」
よほど疲れていたのか起きる気配はない。
「綺麗な顔…」
月の光に照らされるルシウスを見てグッと胸の奥が苦しくなった。
奴隷として連れてこられたルシウスは、ほっといたら明日死んでしまうくらい衰弱しきっていた。あの姿が演技でも…かつての俺にはそう見えた。
下手をすれば自分が死ぬことも計画だったのか…?
(……例えお前が死んでも、国(ルタ)は動いたもんな)
「ルシウス…」
掛ける言葉が見つからない
いくら同情したってルシウスの怒りも、虐げられた屈辱は癒えない。
そして―――俺が家族を亡くした傷も。悲しみも…
だけど 今日は―――今日だけは、人の温もりが欲しい
どんなに憎く思われてたって……、やっぱり一人は寂しい。
「おやすみ」
―――― 遠くの遠くで、
一緒に過ごした笑顔のルシウスが おやすみなさい。という声が聞こえた
―――――――――――――――――――――
過去のあなたに恋をしてしまう
副団長に、『酷い顔色をしています』とルシウスは生まれて初めての指摘を受けた。
―――ただ、酷い顔色の意味が分からなかった。
「?」
健康診断は受けたばかりだった。心配せずとも俺は心身ともに健康体だと言えば副団長は失笑して、「いいえ。それでは部下に示しがつきません。どうか早めにお休みください」と頭を下げた。
(解せない…)
何度鏡を見ても普通の顔色だった。念のため医務室に行ったが体温にも異常はなく、風邪気味というわけでもない。
やはり副団長の見間違いだったのだろう
ただ、ルシウスを診察した医師から気になることを言われた。
『彼の言った顔色とは、心因的なものかもしれませんね』
心因的とはなんだ。
ルシウス自ら捕虜を拷問した時は笑う余裕すらあった。ドラゴンの群れの駆除、海賊の討伐では終わりの見えない連戦で部下を何名か失ったが勝利を収めたのだから死人も報われたというものだ。
そして誰よりも、剣を抜いたならば最期まで立つとルシウスは心に誓っていた。
―――団長サマは感情が欠落している。
元々そのような陰口があったことは承知していたが騎士である以上、迷いとは邪魔なモノ。
例え部下に裏切られゼノンに奴隷として送り込まれた時であったとしても、最終的に命があり戦利品まで手に入れたのだ。
国に戻れば王直々に誉を得て、民衆や部下からは帰還を歓迎された。
(まぁ、俺を陥れた彼奴らは処罰してやったが)
それも騎士として正しく、何も間違えてない。
普通の顔色だ。
* * *
他の部屋に比べ重いドアノブを捻れば、鉄格子の窓を見つめる青年の姿。
「ウィル様。ただいま戻りました」
「……おかえりなさい」
ゆっくりした動作で振り向く青年の顔に表情はない。
けれど主人には愛想よくしなければと思うようになったのか、最近では口端くらいは上げるようになった。まるで巧妙に作られた機械人形のように
その姿はとても哀しく、美しい…。
「………ルシウス?」
突っ立って動かないルシウスにウィルは困惑した。
どうしたのだろう、今朝は普通だったのに
目の色が光を映していないような気がして、………名前のあとに続く言葉はなくても、どうしたの?と思わず近寄った。
「――――!?」
突然、動いたルシウスにガッと強い力で抱きしめられた。
「………」
「………ル、シウス?」
条件反射だ。今夜は酷く抱かれるのだろうと身がすくんだが、不思議とルシウスは何も言わない。
ウィルを抱き締めたまま、何かを噛みしめているようだった。
「……だ、誰かに、イジメられたのか?」
「は?私が…ですか?
「……だ、だって…」
そんなワケあるはずがない。だってルシウスは、この国の王様の息子で騎士団長だ。
軽口程度でも不敬罪に問われ首が吹っ飛ぶ。
けれどルシウスは…権力やそんなものに甘えない性格だろ。
どんな貧乏貴族でも立場や肩書があればあるほど苦労も多い、父上も兄様もそうだった。
ルシウスも周囲から嫉みを買い、グッと堪えて本当の言いたいことは飲み込んできたんじゃないのかって…
「元気なさそうに見えた。そうじゃなきゃ疲れた?」
「……ほんとに貴方は……、」
やはり様子が変だ。
そう思った時、何故だか自然と伸びていた手がルシウスの頭をそっと撫でた。
――――これが正しい行為なのかはわからない。
「ウィル様…」
ルシウスの端整な顔がじっと、少々驚いた表情で抱きしめているウィルを見つめた。
「私を甘やかそうとする人間なんて貴方くらいです。珍しく機嫌なんかとって、欲しいものでもあるんですか?」
「……別にそんなつもりないけど、今夜は…」
歯切れが悪いのはお互い様だ。
それでもルシウスを優しく撫でるウィルの手は止まらない。
”今夜は抱かれたくない”。
言わなくてもいい。
彼の故郷では今、亡くなった領主とその家族の弔いが行われているのだから―――……
「駄目ですよ。貴方の役目は、…………」
役目は、ちゃんとある、… が途切れた。
まるで燃料の切れた機械のように。
「ルシウス?……え、寝た??」
寄りかかるように、ずっしり持たれてきた体重にウィルは困惑した。いや…疲れてそうな表情をしているとは思っていたがまさかの寝落ちだ。
いくら服従の首輪があるとはいえ、主人の寝首を掻くかもしれない奴隷の前で寝るなど―――……
(これで、よし)
体格差もだが、鍛えられたルシウスの体をベッドに抱き上げてやれるほどの筋力はない。
だから冷たくて硬い床を寝床に、ベッドから降ろした上等な布団は不釣り合いだが… 寒くないようルシウスと半分こだ。
”不本意だけれど主人に風邪を引かれてしまえば、俺が困る。”その言い訳を胸に。
「こうやって、床で一緒に寝るも久しぶりだな」
よほど疲れていたのか起きる気配はない。
「綺麗な顔…」
月の光に照らされるルシウスを見てグッと胸の奥が苦しくなった。
奴隷として連れてこられたルシウスは、ほっといたら明日死んでしまうくらい衰弱しきっていた。あの姿が演技でも…かつての俺にはそう見えた。
下手をすれば自分が死ぬことも計画だったのか…?
(……例えお前が死んでも、国(ルタ)は動いたもんな)
「ルシウス…」
掛ける言葉が見つからない
いくら同情したってルシウスの怒りも、虐げられた屈辱は癒えない。
そして―――俺が家族を亡くした傷も。悲しみも…
だけど 今日は―――今日だけは、人の温もりが欲しい
どんなに憎く思われてたって……、やっぱり一人は寂しい。
「おやすみ」
―――― 遠くの遠くで、
一緒に過ごした笑顔のルシウスが おやすみなさい。という声が聞こえた
―――――――――――――――――――――
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