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11 最終話
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「竜人」と「人間」――
生まれた場所も、育った場所も異なる種族だ。
価値観も、生き方も、体質も違う。
二人はそれぞれの想いを告白した後、
リオは生まれ育った故郷の村へ、
ナガレは療養のため空界へと戻った。
以降、月に何度か竜人は地上へ降り、リオの家を訪ねた。
リオは弟を紹介した。それから自分の育った村や景色のいい場所、幼いころ秘密基地にしていた洞窟までナガレに案内したのだった。
精神が安定したおかげか、ナガレが以前のように凶暴化することはない。
「それで、オレは“お化けだー!”って騒いじゃって。へへへ、ただの木の陰なのに」
いつも無口で大人しいと思っていたリオは、よく笑い、よく話し、そして食べることが大好きだった。
”ずっと自分の感情を押し殺してきたのか――。”
申し訳なさからナガレが頭を下げようとすれば、リオはたちまち不機嫌な顔になる。
「―――本当に、違うんです!」
リオはナガレ様を尊敬していた。
暮らしは安定していたし、ナガレ様と一緒にいる時間は楽しかった。
「それに…オレもナガレ様に嫌われたくありませんでした。頑張って、猫を被ってたんです」
なんて――恥ずかしそうに明かされたその言葉に、ナガレはきょとんとした表情を見せた。
多くのことを話した。
きっと、一生話しても尽きることはないのだろう。
そして―― 幾度目かの春。
「リオ、本当によかったのか?」
「はい。もちろんです」
リオは結婚した。
空界で、竜人であるナガレとの再婚である。
それは兄竜ハクレイ、リオの弟、お世話になった使用人たちに見守られた、幸せな挙式だった。
やり直しの式を終えた後は、湯浴みをして、こうして寝室で二人きりになった。
「村でのオレの役目はもうありません。でしたら――ナガレ様のもとにいたいのです」
「ありがとう、リオ」
「いいえ。お礼は、オレも言いたいです」
寿命を延ばす「竜石」は、結婚したからといってすぐに受け取るものではない。
リオはまだそれを手にしておらず、ナガレも強要はしなかった。
―――短く終わってしまうかもしれない……が、それでもリオの人生なのだ。
これからは夫夫として、時間をかけて話し合っていこうと互いに決めていた。
「リオ、触れてもいいか」
「あ……、」
とても丁寧な人だと、リオは改めて思う。
湯浴みを終え、寝室で二人きりになっているというのに、なお確認してくれる。
互いに動きやすい薄着で、机の上には潤滑油が用意されている。……妊娠を避けるための薬も。
「き、聞かなくても、オレは」
「いや。同意は必要なのだろう?きちんと学んだぞ」
「うっ…、…はい」
小さくうなずくと、ナガレはリオをゆっくりとベッドに押し倒し、優しい口づけを交わす。
浅く、深く、ゆっくりと舌を受け入れ合い、時間をかけて。
「――― ん、はぁ」
「今まで見てきた中で、今夜のお前が一番美しい」
「うつくし……っ!? そんなこと、今まで一度も…」
「ああ。いつも思っていた。ただ、ハクレイ――兄に人間は褒め言葉に慣れていない、言いすぎないほうがいいと助言を受けていた」
安っぽくならないよう気を付けていたのだ。
――――驚きで、言葉が続かなかった。
(美しい……? 平凡で、普通の男のオレが!?)
それも、「いつも思っていた」 だなんて――心臓に悪すぎる!
「どうした? やけに心拍数が上がっているようだが」
こうして夜を共に明かすのは、初めてではない。
それなのに、久しぶりのせいか、心臓の音がやけにうるさい。
まるで――最初の頃に戻ったみたいに。
「き、緊張です……! すごく……、ドキドキしてます!」
「ならば無理をするな。俺は、お前と一緒にいられるだけでいい」
「ひぇ!?」
(な、ナガレ様が殺し文句を……!?)
何度目かの衝撃である。
それでも、やめてほしくはない。こうしてリオが空界にいるのも、結婚したのも、ナガレ一人の願いではないのだから。
「ナガレ様、オレも同じです……!」
「リオ?」
もっと触れてほしい。
あなたに触れていたい。
ちゃんと、確かめ合っていたいのです。
「そんなオレは、いやでしょうか?」
「まさか!何を言う!」
より一層、愛おしく思えてしょうがない。
それにナガレも。―――ようやく、ずっと 本当に探していたものが見つかった気分だった。
「やめはしない。その代わり―― やめてくれと言われても無理だぞ」
恨み言は朝、聞いてやる。
そうナガレは言って、少し申し訳なさそうに笑った。
* * *
挙式から二日半。
リオは布団の上で、むすっとしていた。
「恨み言は聞いてやる」
「……“二日”なんて、聞いてません」
「それは、すまなかった」
一方のナガレは涼しい顔だ。
かわいい、とリオの頭を撫で続け、起き上がる気配もない。
(―――こんなの、聞いてない)
発情期と同じで、長くても半日だろうと高を括っていた。
竜人の性欲の強さを、リオはまだ知らなかった。今までずっと、手加減されてきたのだと――。
どうやら、まだまだ知らない一面が多いらしい。
「リオ。まだ何かあれば、聞いてやるぞ」
「……一つ、言い忘れてました。少し、耳をお借りしても?」
「ん? なんだ?」
リオはそっと、ナガレの耳元へ顔を寄せる。
本当は初夜のときに言いたかった言葉だ。
その瞬間、ナガレの耳の先まで、真っ赤に染まった。
呆然とするナガレと、
『オレも貴方を、愛しています』
―― 誰にも見えないリオの笑顔を、泉だけが映していた。
(完)
生まれた場所も、育った場所も異なる種族だ。
価値観も、生き方も、体質も違う。
二人はそれぞれの想いを告白した後、
リオは生まれ育った故郷の村へ、
ナガレは療養のため空界へと戻った。
以降、月に何度か竜人は地上へ降り、リオの家を訪ねた。
リオは弟を紹介した。それから自分の育った村や景色のいい場所、幼いころ秘密基地にしていた洞窟までナガレに案内したのだった。
精神が安定したおかげか、ナガレが以前のように凶暴化することはない。
「それで、オレは“お化けだー!”って騒いじゃって。へへへ、ただの木の陰なのに」
いつも無口で大人しいと思っていたリオは、よく笑い、よく話し、そして食べることが大好きだった。
”ずっと自分の感情を押し殺してきたのか――。”
申し訳なさからナガレが頭を下げようとすれば、リオはたちまち不機嫌な顔になる。
「―――本当に、違うんです!」
リオはナガレ様を尊敬していた。
暮らしは安定していたし、ナガレ様と一緒にいる時間は楽しかった。
「それに…オレもナガレ様に嫌われたくありませんでした。頑張って、猫を被ってたんです」
なんて――恥ずかしそうに明かされたその言葉に、ナガレはきょとんとした表情を見せた。
多くのことを話した。
きっと、一生話しても尽きることはないのだろう。
そして―― 幾度目かの春。
「リオ、本当によかったのか?」
「はい。もちろんです」
リオは結婚した。
空界で、竜人であるナガレとの再婚である。
それは兄竜ハクレイ、リオの弟、お世話になった使用人たちに見守られた、幸せな挙式だった。
やり直しの式を終えた後は、湯浴みをして、こうして寝室で二人きりになった。
「村でのオレの役目はもうありません。でしたら――ナガレ様のもとにいたいのです」
「ありがとう、リオ」
「いいえ。お礼は、オレも言いたいです」
寿命を延ばす「竜石」は、結婚したからといってすぐに受け取るものではない。
リオはまだそれを手にしておらず、ナガレも強要はしなかった。
―――短く終わってしまうかもしれない……が、それでもリオの人生なのだ。
これからは夫夫として、時間をかけて話し合っていこうと互いに決めていた。
「リオ、触れてもいいか」
「あ……、」
とても丁寧な人だと、リオは改めて思う。
湯浴みを終え、寝室で二人きりになっているというのに、なお確認してくれる。
互いに動きやすい薄着で、机の上には潤滑油が用意されている。……妊娠を避けるための薬も。
「き、聞かなくても、オレは」
「いや。同意は必要なのだろう?きちんと学んだぞ」
「うっ…、…はい」
小さくうなずくと、ナガレはリオをゆっくりとベッドに押し倒し、優しい口づけを交わす。
浅く、深く、ゆっくりと舌を受け入れ合い、時間をかけて。
「――― ん、はぁ」
「今まで見てきた中で、今夜のお前が一番美しい」
「うつくし……っ!? そんなこと、今まで一度も…」
「ああ。いつも思っていた。ただ、ハクレイ――兄に人間は褒め言葉に慣れていない、言いすぎないほうがいいと助言を受けていた」
安っぽくならないよう気を付けていたのだ。
――――驚きで、言葉が続かなかった。
(美しい……? 平凡で、普通の男のオレが!?)
それも、「いつも思っていた」 だなんて――心臓に悪すぎる!
「どうした? やけに心拍数が上がっているようだが」
こうして夜を共に明かすのは、初めてではない。
それなのに、久しぶりのせいか、心臓の音がやけにうるさい。
まるで――最初の頃に戻ったみたいに。
「き、緊張です……! すごく……、ドキドキしてます!」
「ならば無理をするな。俺は、お前と一緒にいられるだけでいい」
「ひぇ!?」
(な、ナガレ様が殺し文句を……!?)
何度目かの衝撃である。
それでも、やめてほしくはない。こうしてリオが空界にいるのも、結婚したのも、ナガレ一人の願いではないのだから。
「ナガレ様、オレも同じです……!」
「リオ?」
もっと触れてほしい。
あなたに触れていたい。
ちゃんと、確かめ合っていたいのです。
「そんなオレは、いやでしょうか?」
「まさか!何を言う!」
より一層、愛おしく思えてしょうがない。
それにナガレも。―――ようやく、ずっと 本当に探していたものが見つかった気分だった。
「やめはしない。その代わり―― やめてくれと言われても無理だぞ」
恨み言は朝、聞いてやる。
そうナガレは言って、少し申し訳なさそうに笑った。
* * *
挙式から二日半。
リオは布団の上で、むすっとしていた。
「恨み言は聞いてやる」
「……“二日”なんて、聞いてません」
「それは、すまなかった」
一方のナガレは涼しい顔だ。
かわいい、とリオの頭を撫で続け、起き上がる気配もない。
(―――こんなの、聞いてない)
発情期と同じで、長くても半日だろうと高を括っていた。
竜人の性欲の強さを、リオはまだ知らなかった。今までずっと、手加減されてきたのだと――。
どうやら、まだまだ知らない一面が多いらしい。
「リオ。まだ何かあれば、聞いてやるぞ」
「……一つ、言い忘れてました。少し、耳をお借りしても?」
「ん? なんだ?」
リオはそっと、ナガレの耳元へ顔を寄せる。
本当は初夜のときに言いたかった言葉だ。
その瞬間、ナガレの耳の先まで、真っ赤に染まった。
呆然とするナガレと、
『オレも貴方を、愛しています』
―― 誰にも見えないリオの笑顔を、泉だけが映していた。
(完)
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