11 / 11
11 最終話
「竜人」と「人間」――
生まれた場所も、育った場所も異なる種族だ。
価値観も、生き方も、体質も違う。
二人はそれぞれの想いを告白した後、
リオは生まれ育った故郷の村へ、
ナガレは療養のため空界へと戻った。
以降、月に何度か竜人は地上へ降り、リオの家を訪ねた。
リオは弟を紹介した。それから自分の育った村や景色のいい場所、幼いころ秘密基地にしていた洞窟までナガレに案内したのだった。
精神が安定したおかげか、ナガレが以前のように凶暴化することはない。
「それで、オレは“お化けだー!”って騒いじゃって。へへへ、ただの木の陰なのに」
いつも無口で大人しいと思っていたリオは、よく笑い、よく話し、そして食べることが大好きだった。
”ずっと自分の感情を押し殺してきたのか――。”
申し訳なさからナガレが頭を下げようとすれば、リオはたちまち不機嫌な顔になる。
「―――本当に、違うんです!」
リオはナガレ様を尊敬していた。
暮らしは安定していたし、ナガレ様と一緒にいる時間は楽しかった。
「それに…オレもナガレ様に嫌われたくありませんでした。頑張って、猫を被ってたんです」
なんて――恥ずかしそうに明かされたその言葉に、ナガレはきょとんとした表情を見せた。
多くのことを話した。
きっと、一生話しても尽きることはないのだろう。
そして―― 幾度目かの春。
「リオ、本当によかったのか?」
「はい。もちろんです」
リオは結婚した。
空界で、竜人であるナガレとの再婚である。
それは兄竜ハクレイ、リオの弟、お世話になった使用人たちに見守られた、幸せな挙式だった。
やり直しの式を終えた後は、湯浴みをして、こうして寝室で二人きりになった。
「村でのオレの役目はもうありません。でしたら――ナガレ様のもとにいたいのです」
「ありがとう、リオ」
「いいえ。お礼は、オレも言いたいです」
寿命を延ばす「竜石」は、結婚したからといってすぐに受け取るものではない。
リオはまだそれを手にしておらず、ナガレも強要はしなかった。
―――短く終わってしまうかもしれない……が、それでもリオの人生なのだ。
これからは夫夫として、時間をかけて話し合っていこうと互いに決めていた。
「リオ、触れてもいいか」
「あ……、」
とても丁寧な人だと、リオは改めて思う。
湯浴みを終え、寝室で二人きりになっているというのに、なお確認してくれる。
互いに動きやすい薄着で、机の上には潤滑油が用意されている。……妊娠を避けるための薬も。
「き、聞かなくても、オレは」
「いや。同意は必要なのだろう?きちんと学んだぞ」
「うっ…、…はい」
小さくうなずくと、ナガレはリオをゆっくりとベッドに押し倒し、優しい口づけを交わす。
浅く、深く、ゆっくりと舌を受け入れ合い、時間をかけて。
「――― ん、はぁ」
「今まで見てきた中で、今夜のお前が一番美しい」
「うつくし……っ!? そんなこと、今まで一度も…」
「ああ。いつも思っていた。ただ、ハクレイ――兄に人間は褒め言葉に慣れていない、言いすぎないほうがいいと助言を受けていた」
安っぽくならないよう気を付けていたのだ。
――――驚きで、言葉が続かなかった。
(美しい……? 平凡で、普通の男のオレが!?)
それも、「いつも思っていた」 だなんて――心臓に悪すぎる!
「どうした? やけに心拍数が上がっているようだが」
こうして夜を共に明かすのは、初めてではない。
それなのに、久しぶりのせいか、心臓の音がやけにうるさい。
まるで――最初の頃に戻ったみたいに。
「き、緊張です……! すごく……、ドキドキしてます!」
「ならば無理をするな。俺は、お前と一緒にいられるだけでいい」
「ひぇ!?」
(な、ナガレ様が殺し文句を……!?)
何度目かの衝撃である。
それでも、やめてほしくはない。こうしてリオが空界にいるのも、結婚したのも、ナガレ一人の願いではないのだから。
「ナガレ様、オレも同じです……!」
「リオ?」
もっと触れてほしい。
あなたに触れていたい。
ちゃんと、確かめ合っていたいのです。
「そんなオレは、いやでしょうか?」
「まさか!何を言う!」
より一層、愛おしく思えてしょうがない。
それにナガレも。―――ようやく、ずっと 本当に探していたものが見つかった気分だった。
「やめはしない。その代わり―― やめてくれと言われても無理だぞ」
恨み言は朝、聞いてやる。
そうナガレは言って、少し申し訳なさそうに笑った。
* * *
挙式から二日半。
リオは布団の上で、むすっとしていた。
「恨み言は聞いてやる」
「……“二日”なんて、聞いてません」
「それは、すまなかった」
一方のナガレは涼しい顔だ。
かわいい、とリオの頭を撫で続け、起き上がる気配もない。
(―――こんなの、聞いてない)
発情期と同じで、長くても半日だろうと高を括っていた。
竜人の性欲の強さを、リオはまだ知らなかった。今までずっと、手加減されてきたのだと――。
どうやら、まだまだ知らない一面が多いらしい。
「リオ。まだ何かあれば、聞いてやるぞ」
「……一つ、言い忘れてました。少し、耳をお借りしても?」
「ん? なんだ?」
リオはそっと、ナガレの耳元へ顔を寄せる。
本当は初夜のときに言いたかった言葉だ。
その瞬間、ナガレの耳の先まで、真っ赤に染まった。
呆然とするナガレと、
『オレも貴方を、愛しています』
―― 誰にも見えないリオの笑顔を、泉だけが映していた。
(完)
生まれた場所も、育った場所も異なる種族だ。
価値観も、生き方も、体質も違う。
二人はそれぞれの想いを告白した後、
リオは生まれ育った故郷の村へ、
ナガレは療養のため空界へと戻った。
以降、月に何度か竜人は地上へ降り、リオの家を訪ねた。
リオは弟を紹介した。それから自分の育った村や景色のいい場所、幼いころ秘密基地にしていた洞窟までナガレに案内したのだった。
精神が安定したおかげか、ナガレが以前のように凶暴化することはない。
「それで、オレは“お化けだー!”って騒いじゃって。へへへ、ただの木の陰なのに」
いつも無口で大人しいと思っていたリオは、よく笑い、よく話し、そして食べることが大好きだった。
”ずっと自分の感情を押し殺してきたのか――。”
申し訳なさからナガレが頭を下げようとすれば、リオはたちまち不機嫌な顔になる。
「―――本当に、違うんです!」
リオはナガレ様を尊敬していた。
暮らしは安定していたし、ナガレ様と一緒にいる時間は楽しかった。
「それに…オレもナガレ様に嫌われたくありませんでした。頑張って、猫を被ってたんです」
なんて――恥ずかしそうに明かされたその言葉に、ナガレはきょとんとした表情を見せた。
多くのことを話した。
きっと、一生話しても尽きることはないのだろう。
そして―― 幾度目かの春。
「リオ、本当によかったのか?」
「はい。もちろんです」
リオは結婚した。
空界で、竜人であるナガレとの再婚である。
それは兄竜ハクレイ、リオの弟、お世話になった使用人たちに見守られた、幸せな挙式だった。
やり直しの式を終えた後は、湯浴みをして、こうして寝室で二人きりになった。
「村でのオレの役目はもうありません。でしたら――ナガレ様のもとにいたいのです」
「ありがとう、リオ」
「いいえ。お礼は、オレも言いたいです」
寿命を延ばす「竜石」は、結婚したからといってすぐに受け取るものではない。
リオはまだそれを手にしておらず、ナガレも強要はしなかった。
―――短く終わってしまうかもしれない……が、それでもリオの人生なのだ。
これからは夫夫として、時間をかけて話し合っていこうと互いに決めていた。
「リオ、触れてもいいか」
「あ……、」
とても丁寧な人だと、リオは改めて思う。
湯浴みを終え、寝室で二人きりになっているというのに、なお確認してくれる。
互いに動きやすい薄着で、机の上には潤滑油が用意されている。……妊娠を避けるための薬も。
「き、聞かなくても、オレは」
「いや。同意は必要なのだろう?きちんと学んだぞ」
「うっ…、…はい」
小さくうなずくと、ナガレはリオをゆっくりとベッドに押し倒し、優しい口づけを交わす。
浅く、深く、ゆっくりと舌を受け入れ合い、時間をかけて。
「――― ん、はぁ」
「今まで見てきた中で、今夜のお前が一番美しい」
「うつくし……っ!? そんなこと、今まで一度も…」
「ああ。いつも思っていた。ただ、ハクレイ――兄に人間は褒め言葉に慣れていない、言いすぎないほうがいいと助言を受けていた」
安っぽくならないよう気を付けていたのだ。
――――驚きで、言葉が続かなかった。
(美しい……? 平凡で、普通の男のオレが!?)
それも、「いつも思っていた」 だなんて――心臓に悪すぎる!
「どうした? やけに心拍数が上がっているようだが」
こうして夜を共に明かすのは、初めてではない。
それなのに、久しぶりのせいか、心臓の音がやけにうるさい。
まるで――最初の頃に戻ったみたいに。
「き、緊張です……! すごく……、ドキドキしてます!」
「ならば無理をするな。俺は、お前と一緒にいられるだけでいい」
「ひぇ!?」
(な、ナガレ様が殺し文句を……!?)
何度目かの衝撃である。
それでも、やめてほしくはない。こうしてリオが空界にいるのも、結婚したのも、ナガレ一人の願いではないのだから。
「ナガレ様、オレも同じです……!」
「リオ?」
もっと触れてほしい。
あなたに触れていたい。
ちゃんと、確かめ合っていたいのです。
「そんなオレは、いやでしょうか?」
「まさか!何を言う!」
より一層、愛おしく思えてしょうがない。
それにナガレも。―――ようやく、ずっと 本当に探していたものが見つかった気分だった。
「やめはしない。その代わり―― やめてくれと言われても無理だぞ」
恨み言は朝、聞いてやる。
そうナガレは言って、少し申し訳なさそうに笑った。
* * *
挙式から二日半。
リオは布団の上で、むすっとしていた。
「恨み言は聞いてやる」
「……“二日”なんて、聞いてません」
「それは、すまなかった」
一方のナガレは涼しい顔だ。
かわいい、とリオの頭を撫で続け、起き上がる気配もない。
(―――こんなの、聞いてない)
発情期と同じで、長くても半日だろうと高を括っていた。
竜人の性欲の強さを、リオはまだ知らなかった。今までずっと、手加減されてきたのだと――。
どうやら、まだまだ知らない一面が多いらしい。
「リオ。まだ何かあれば、聞いてやるぞ」
「……一つ、言い忘れてました。少し、耳をお借りしても?」
「ん? なんだ?」
リオはそっと、ナガレの耳元へ顔を寄せる。
本当は初夜のときに言いたかった言葉だ。
その瞬間、ナガレの耳の先まで、真っ赤に染まった。
呆然とするナガレと、
『オレも貴方を、愛しています』
―― 誰にも見えないリオの笑顔を、泉だけが映していた。
(完)
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
オメガなのにムキムキに成長したんだが?
未知 道
BL
オメガという存在は、庇護欲が湧く容姿に成長する。
なのに俺は背が高くてムキムキに育ってしまい、周囲のアルファから『間違っても手を出したくない』と言われたこともある。
お見合いパーティーにも行ったが、あまりに容姿重視なアルファ達に「ざっけんじゃねー!! ヤルことばかりのくそアルファ共がぁああーーー!!」とキレて帰り、幼なじみの和紗に愚痴を聞いてもらう始末。
発情期が近いからと、帰りに寄った病院で判明した事実に、衝撃と怒りが込み上げて――。
※攻めがけっこうなクズです。でも本人はそれに気が付いていないし、むしろ正当なことだと思っています。
同意なく薬を服用させる描写がありますので、不快になる方はブラウザバックをお願いします。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
最悪の婚姻から始まるただ一つの愛
統子
BL
最悪の婚姻だった。
皇太子の正室として迎えられながら、
与えられたのは祝福ではなく、冷たい部屋と拒絶だけ。
触れられることすら恐ろしく、
ただ静かに時間が過ぎるのを待つしかなかった。
けれど——
差し出された手は、思っていたものとは違っていた。
無理に触れない。
急がない。
ただ、こちらの様子を確かめるように、少しずつ距離を縮めてくる。
気づけば、隣に座ることが当たり前になり、
言葉を交わす時間が、夜の習慣になっていた。
触れられるたびに怖さは消え、
代わりに残るのは、離れがたい温もり。
これは、最悪の婚姻から始まった関係が、
やがて“ただ一人”へと変わっていく物語。
望まれなかったはずのはじまりが、
いつしか、何よりも大切なものになるまでの——
静かで、優しい、溺れるような愛の記録。
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
弟と妹より劣る僕が自信家を演じてたら、部下にバレた件
ゆきりんご
BL
【重い感情を隠している年下敬語攻め×自己肯定感低い年上受け】
イリアスは職場で「優秀で顔もそこそこ良くて頼りになる上司」を演じているが、本当は自信がない。付き合っていた相手に振られることが続いてさらに自信をなくした。自棄になろうとしていたところを、気になっていた部下に止められて、成り行きで体の関係を持つことになり……?
長年仮番として務めてきましたが、王子は正式な番を娶るそうです
けふ
BL
王都を守る巨大結界は、王族の魔力によって維持されている。
第二王子アデルの傍らには、常に一人の騎士がいた。
近衛騎士レオン。
彼は長年、王子の「仮番」として特別な任務を担っている。
しかし王子は、他国の王女との正式な番契約が決まってしまった。
仮番の役目は、そこで終わるはずだった。
だが結界塔で行われる儀式の中で、
二人の関係は次第に変わり始める。
王族と騎士。
主と臣下。
越えてはならない境界を前にしても、
王子は騎士の手を取る。
「共に立て」
※オメガバースではありません
※ふんわり読んでください
※なんでも許せる方向け
※イラストはChatGPTさん
伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き
メグエム
BL
伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。
竜と人間のすれ違いや、受けが攻めの元から逃げる、という展開大好きです。
リクの望みを受け入れて、一旦離婚に応じて離れて暮らしてみてからの再婚って珍しいパターンだなと思いました。
反省して変われる男、ナガレ様格好良い!!!!!
ナガレ様の限界突破の愛情表現で、リクの再婚生活も安心ですね♡
面白かったです。ありがとうございましたー!!
飴さま
感想――!?
後悔する系の攻めの物語ははじめて書いたのですが、感想ありがとうございます!!
受けに好き勝手しておいて――それを分かっていても諦められない攻めです。さらに未練がましい(笑) その変化を楽しめるような物語になれて嬉しいです🙌✨
一度、二人は離れてしまったけれど……その間にあったものがとても大切だったのだと思います。
本当にありがとうございます!
感想とっても嬉しいです(´;ω;`) この話を書いてよかったです!