巻き込まれた脇役は砂糖と塩と共に

田舎

文字の大きさ
58 / 90
2章 脇役と不死の王龍

唐揚げの妖精さんとユリア

しおりを挟む
瘴気に怯えてもどうすることもできなかった人々は、”聖女降臨”という大魔法を編み出した。
それは、『救済』という数多の願いを叶えるために、世界だけでなく宇宙をも駆け巡り、「聖女」として相応しい人物を探す。

そして今回、”日本”という国で「彼女」という人間を見つけた。
――――しかし、聖女を招こうとした時、あろうことか異物がくっついてきた。


「その異物って……もしかして俺、だよね?」
「……我らは異物を虚無に落とそうとした。しかし、できなかった。我らの一部を…身内と間違えて、ずっと手を握っていたから」

”絶対に、妹を離さない”と強く願う、純粋な気持ちだ。
異物シオウを排除しなければならないと判断する一方、無垢な感情が希望に湧いた。

誰かに救われたい願望の手前にあった、”誰かを救いたかった”、”守りたい”。どんな困難にだって立ち向かいたい。
――とっくの昔に挫折していた想いが、動いた。

「我らは、嬉しかった。嬉しくて嬉しくて…、サトシオウの中に入ったの。そうすれば、アナタという存在が虚無に落とされないと判断した」
「つまり、君が… 君たちが、俺をこの世界に連れてきたって事でいいんだよな?」
「うん。でもね、問題もあったの」

選ばれたのではなく、強引に連れてきたせいだ。
シオウは魔力がゼロになっただけでなく、言葉も理解できなくなってしまった。

「……それで? 俺を連れてきて、どうしてほしかったんだ?」
「何も」

聖女降臨を終えたことで本体は還った。このまま消えるまでシオウの中で眠るつもりだった。
しかしある日、強い力によって弾かれた。
マクミランでやったステータス鑑定。その魔石の力によって、シオウの中から追い出された。
「ソレ」は、最も小さな”微精霊”として新たに誕生した。

『おはよう、ママ』

微弱すぎて誰にも感知されない。
装置としての記憶もない。
唐揚げが大好きな存在として、ただシオウのそばにいたくて…。

「唐揚げの妖精さんなんて変な名前だと思うけど、大好きな名前」
「……」
「ずっと傍にいるつもりだったの。なのに悪者がママを、死の森の深層部に転送しようとした。二度と戻ってこられないように」

そして転移魔法の光を見たとき、シオウにしてしまった自分の”罪”を思い出した。
転移魔法の発動を止める魔力はなくとも、ありったけの力で転送先の位置と少しの時間をずらした。

僅かな調整でも……シオウが、助かるように願い

その後は、再びシオウの体の中で眠りについた。

「まってよ、罪だなんて…!全部、俺を助けようとしてくれたのに!」
「ちがう…っ、我は自我のない精霊だ。それに…娘なんて、嘘じゃ、嘘なのよ。すべてが、…模倣じゃ!」

首を振って否定する。
ユリアの嘆く声に、心臓が止まりそうだった。

――――模倣だと、繰り返す。

オルベリオンの眷属になり、大精霊として顕現できる力を得たユリアは、シオウの記憶を参考にして「自分」を作ったのだ。

シオウが大切にした肉親が妹だったから、”女”。
髪と目の色は、シオウが最も尊敬する人のものを選んだ。
ママとパパと呼ぶのは、幼い頃にそう呼びたい気持ちを抑えていた記憶から。
性格が高飛車なのも、”妹ならそうでもいい”と願っていたから。
――「健やかで、元気であってほしい」という願い。

すべてが、
再会したとき、シオウに親近感を持ってもらうために。


「我は、アナタたちの友でも家族や娘でもなく、なんでもないのに…っ!ただ…欲した。家族になりたい、欲しいって思っちゃった……」
「っ、いいんだよ!精霊でも妖精でも、当たり前に家族を願ったって悪くないじゃんか!?それにユリアが俺の境遇に合わせなくたって、俺はッ」

どうか、罪なんて感じなくていい!
強引だったとかも思わなくていい!

どうか、悲しい顔をしないでほしい。
泣かないでほしいんだ。

「涙が、止まらないの。我は、精霊…。構造もなにもかもが、人間とは違うのに…。ぱ…、ゼアロルドを、許せなくて、くるしいのっ」
「――――っ」
「なんで、我らを捨てたのか…!」

精霊は”感情を持たない”、”気まぐれで動く”――そう教えられてきた。
けれど違うんだ。
ユリアは唐揚げの妖精さんになってから、ずっと人間と暮らしてきた。

「人の気持ちに触れて、感情を覚えて、それが複雑すぎて分かんなくなっちゃったんだよな?」

ゼアロンさんが突然いなくなったことで、ユリアは”寂しさ”と”怒り”を学んだ。
マイナスの感情に触れて、怖くなってしまったんだ。
だから、前から抱えていた罪悪感や悲しみが、いま一気に溢れている。
だったら、俺は……。

「ありがとう。……俺を助けてくれて」

ありがとう。って伝えたい。

「君の中にたくさんの人の気持ちがあるんなら、俺はその全員に感謝するよ」
「―――っ、でも」
「大丈夫、怖くないよ。その感情はあっていいものだ」

だって、俺も同じこと思ってるし!
ほんとは、ゼアロンさんに枕でも投げつけてやりたいよ。

「君は俺の恩人で最高の友達"唐揚げの妖精さん"で、自慢のユリア”娘”だ!」

ゼアロンさんも同じことを言ってくれたと思うんだ。

そうだよ。俺がこの世界で一番尊敬した、あの人が

ユリアの存在を受け入れてた。


「……ほんと?我に力が足りなくて、ママに…いっぱい、いっぱい嫌な想いをさせちゃったのに…?」
「ううん、そんなことない」

いくらでも否定してやる。

「どこにも俺を傷つけた君はいないんだよ。いつも弱い俺を守ってくれて、助けてくれて本当にありがとう」
「ママッ」
「大好きだよ。俺もゼアロンさんも、君たちが大好きだ。絶対嫌ったりしない」

強く、抱きしめてくれる。

ゼアロンさんも、俺によくこうしてくれた。

俺は、そこまで大きな存在じゃないけど、ユリアくらいの体なら包みこんで抱きしめるくらい出来る。



「…う゛んっ、――――ママ!、わたしも、だいすき……」



鼻水と涙を浮かべながらも、

そこには、きれいに笑う少女がいてくれた。






しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希
BL
異世界転生したら子爵家に生まれたけれど自分以外一家全滅という惨事に見舞われたレオン。 貴族生活に恐れ慄いたレオンは自分を死んだことにして平民のリオとして生きることにした。 一方公爵家の長男であるフレドリックは当時流行っていた児童小説の影響で、公爵家に身を寄せていたレオンにひどい言葉をぶつけてしまう。その後すぐにレオンが死んだと知らされたフレドリックは、以降十年、ひたすらそのことを悔いて生活していた。 そして十年後、二人はフレドリックとリオとして再会することになる。   ・フレドリック視点は重め、レオン及びリオ視点は軽め ・異世界転生がちょいちょい発生する世界。色々な世界の色々な時代からの転生者の影響で文明が若干ちぐはぐ。 ・世界観ふんわり 細かいことは気にしないで読んでください。 ・CP固定・ご都合主義・ハピエン ・他サイト掲載予定あり

処理中です...