16 / 90
1章 脇役は砂糖と塩と共に
隊長だって陰で活躍する
しおりを挟む
とある魔法使いの視線。
――――それは、簡単な仕事内容だった。
手練れ揃いと名高いシュヴァルの王都騎士だが、得た情報によれば、今回小隊を率いているのは“平民から成り上がった”青二才。
やはり隊長という器ではない。策略にハマり、簡単に大転移魔法の発動を許したばかりか、不死の王龍《ドラゴンゾンビ》の逆鱗に触れ、早くも半壊状態に陥ったという。
魔術師への依頼は、死の森から抜け出した隣国の手負いの騎士たちに止めを刺す、という内容だった。
(さぁて、どう料理してやろうか)
さらに、“転移魔法”。
それには何人もの魔法使いの魔力が必要で、一度使用すれば術者の魔力を激しく消耗する。回復にも時間を要する。
聖女様降臨の儀に続く今回、通常の任務に比べ高位の魔法使いは少ない状況だった。
(何人か生け捕りにして、新しい魔術の実験に使うのも悪くない)
いい被検体になるだろう。
うまく他の魔法使いを出し抜き《異教徒》の首を持ち帰るだけで、多額の報酬が手に入る。
まさに絶好の好機だった。
男は目を細め、標的を探す。
そして、真夜中の森で、のんびりと寛ぐ一行を見つけた時―――
“化け物”が本性を現した。
――――――――――――――
「はっ、はっ…っ!」
「あまり無駄に動かないでもらえると助かる」
魔法使いの喉元に突き付けられた剣の刃。
向けられた殺意に、男の口からは浅く短い息しか漏れない。
(い、一体…何が起こっている……!?)
地面に尻餅をつき、悔しさに震える体。
十年以上かけて研ぎ澄ました攻撃魔法は、まるで紙のように隣国の騎士によって弾き飛ばされた。
剣を構える騎士の冷たく静かな眼差しは、氷のように鋭く男を貫く。
「刺客なんて、死の森を抜けてから三度目だ。いい加減、こちらが警戒しないとでも思っていたのか?」
「くっ、っ」
その声には魔法使いに向けた、吐き気がするほどの冷徹さと心底のうんざりが滲む。
白銀の鎧に、青き不死鳥の尾羽―――。
冷たい月光が鎧に反射し、刃先は淡く光る。
(ふ、――――ふざけるなっ!)
聞いていた情報とあまりに違う!違いすぎだ!
まさかこの《異教徒》、――能力を隠していたのか!?
「……このっ、卑怯者めがっ!!」
声も拳も震える。
しかし、目の前の騎士は微動だにせず、息一つ乱さず、冷たい光のように男を見据えていた。
――――今、ここで動けば終わる。
しかし、相手は手負いだ。動かないという選択肢はない。
『”閃光よ―――― !』
それが、魔法発動の合図だった。
杖も詠唱も必要としない新たな魔法技術――この術式で、何人もの敵を屠ってきた。
”――――掻き消せ!!”
騎士の背後を狙った光の閃光が、数発放たれる。
確かに、放たれた。
「なぜだ……!?」
気づかれるはずのない完璧な死角の攻撃。
それを、錆びた剣一つで、襲い掛かる全ての魔法を弾き払った。
息一つ乱さず、相手に逃げる隙も与えない。
再び剣先は、這いつくばる魔法使いの鼻先へ向けられていた。
「卑怯者とは心外だ。君はただ、俺のことを手負いの騎士と見くびっただけだ」
「貴様… な、ぜだ……?」
状況は正しく把握していた。
どうして、そこまでの受け流しと身の動きができるのか。
「貴様の肋骨は、三本折れているはずだ……」
「それを聞いたのも、三人目だ」
即席でも優秀な魔法使いの集まり。我らは少数でも実力を認められた精鋭部隊だった。
それが、こんな男一人に負けるはずが――――。
「! ま、まさか……“アレ”が生きて、貴様らといるのか!?」
「…………アレ?だと?」
ピクリと動いた騎士の反応。
しかし魔法使いは、それに気づかなかった。
あり得ない。
《こいつらよりも先に》、死の森に君臨する不死の王龍《ドラゴンゾンビ》の供物に捧げられた存在。
世界にとって不要の異物。
神の啓示も祝福も受けなかったくせに、加護を得た《双黒》の異端児。
「ふははははは! 今日の相手が私一人が相手だと思っているのなら甘いぞ!?今ごろ、他の暗殺者は貴様の仲間たちの元にいる頃だ!貴様がここで足止めを食らった今、他の連中の首は―――ヒィ!?」
「それは君と遭遇する道中に出会った、お仲間達のことか?」
その冷たい眼差しに、魔法使いは震えた。
目の前の男は、仲間が危険に遭っても一切動揺しない。
むしろ、もう終わったことだ、とでも言いたげに口端を上げていた。
「手加減ができなくてね、申し訳ない。でも、君には話が聞けそうでよかった」
「ば、化け物が……っ」
それを聞いたのも三度目だと、騎士は笑った。
――――それは、簡単な仕事内容だった。
手練れ揃いと名高いシュヴァルの王都騎士だが、得た情報によれば、今回小隊を率いているのは“平民から成り上がった”青二才。
やはり隊長という器ではない。策略にハマり、簡単に大転移魔法の発動を許したばかりか、不死の王龍《ドラゴンゾンビ》の逆鱗に触れ、早くも半壊状態に陥ったという。
魔術師への依頼は、死の森から抜け出した隣国の手負いの騎士たちに止めを刺す、という内容だった。
(さぁて、どう料理してやろうか)
さらに、“転移魔法”。
それには何人もの魔法使いの魔力が必要で、一度使用すれば術者の魔力を激しく消耗する。回復にも時間を要する。
聖女様降臨の儀に続く今回、通常の任務に比べ高位の魔法使いは少ない状況だった。
(何人か生け捕りにして、新しい魔術の実験に使うのも悪くない)
いい被検体になるだろう。
うまく他の魔法使いを出し抜き《異教徒》の首を持ち帰るだけで、多額の報酬が手に入る。
まさに絶好の好機だった。
男は目を細め、標的を探す。
そして、真夜中の森で、のんびりと寛ぐ一行を見つけた時―――
“化け物”が本性を現した。
――――――――――――――
「はっ、はっ…っ!」
「あまり無駄に動かないでもらえると助かる」
魔法使いの喉元に突き付けられた剣の刃。
向けられた殺意に、男の口からは浅く短い息しか漏れない。
(い、一体…何が起こっている……!?)
地面に尻餅をつき、悔しさに震える体。
十年以上かけて研ぎ澄ました攻撃魔法は、まるで紙のように隣国の騎士によって弾き飛ばされた。
剣を構える騎士の冷たく静かな眼差しは、氷のように鋭く男を貫く。
「刺客なんて、死の森を抜けてから三度目だ。いい加減、こちらが警戒しないとでも思っていたのか?」
「くっ、っ」
その声には魔法使いに向けた、吐き気がするほどの冷徹さと心底のうんざりが滲む。
白銀の鎧に、青き不死鳥の尾羽―――。
冷たい月光が鎧に反射し、刃先は淡く光る。
(ふ、――――ふざけるなっ!)
聞いていた情報とあまりに違う!違いすぎだ!
まさかこの《異教徒》、――能力を隠していたのか!?
「……このっ、卑怯者めがっ!!」
声も拳も震える。
しかし、目の前の騎士は微動だにせず、息一つ乱さず、冷たい光のように男を見据えていた。
――――今、ここで動けば終わる。
しかし、相手は手負いだ。動かないという選択肢はない。
『”閃光よ―――― !』
それが、魔法発動の合図だった。
杖も詠唱も必要としない新たな魔法技術――この術式で、何人もの敵を屠ってきた。
”――――掻き消せ!!”
騎士の背後を狙った光の閃光が、数発放たれる。
確かに、放たれた。
「なぜだ……!?」
気づかれるはずのない完璧な死角の攻撃。
それを、錆びた剣一つで、襲い掛かる全ての魔法を弾き払った。
息一つ乱さず、相手に逃げる隙も与えない。
再び剣先は、這いつくばる魔法使いの鼻先へ向けられていた。
「卑怯者とは心外だ。君はただ、俺のことを手負いの騎士と見くびっただけだ」
「貴様… な、ぜだ……?」
状況は正しく把握していた。
どうして、そこまでの受け流しと身の動きができるのか。
「貴様の肋骨は、三本折れているはずだ……」
「それを聞いたのも、三人目だ」
即席でも優秀な魔法使いの集まり。我らは少数でも実力を認められた精鋭部隊だった。
それが、こんな男一人に負けるはずが――――。
「! ま、まさか……“アレ”が生きて、貴様らといるのか!?」
「…………アレ?だと?」
ピクリと動いた騎士の反応。
しかし魔法使いは、それに気づかなかった。
あり得ない。
《こいつらよりも先に》、死の森に君臨する不死の王龍《ドラゴンゾンビ》の供物に捧げられた存在。
世界にとって不要の異物。
神の啓示も祝福も受けなかったくせに、加護を得た《双黒》の異端児。
「ふははははは! 今日の相手が私一人が相手だと思っているのなら甘いぞ!?今ごろ、他の暗殺者は貴様の仲間たちの元にいる頃だ!貴様がここで足止めを食らった今、他の連中の首は―――ヒィ!?」
「それは君と遭遇する道中に出会った、お仲間達のことか?」
その冷たい眼差しに、魔法使いは震えた。
目の前の男は、仲間が危険に遭っても一切動揺しない。
むしろ、もう終わったことだ、とでも言いたげに口端を上げていた。
「手加減ができなくてね、申し訳ない。でも、君には話が聞けそうでよかった」
「ば、化け物が……っ」
それを聞いたのも三度目だと、騎士は笑った。
451
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
贖罪公爵長男とのんきな俺
侑希
BL
異世界転生したら子爵家に生まれたけれど自分以外一家全滅という惨事に見舞われたレオン。
貴族生活に恐れ慄いたレオンは自分を死んだことにして平民のリオとして生きることにした。
一方公爵家の長男であるフレドリックは当時流行っていた児童小説の影響で、公爵家に身を寄せていたレオンにひどい言葉をぶつけてしまう。その後すぐにレオンが死んだと知らされたフレドリックは、以降十年、ひたすらそのことを悔いて生活していた。
そして十年後、二人はフレドリックとリオとして再会することになる。
・フレドリック視点は重め、レオン及びリオ視点は軽め
・異世界転生がちょいちょい発生する世界。色々な世界の色々な時代からの転生者の影響で文明が若干ちぐはぐ。
・世界観ふんわり 細かいことは気にしないで読んでください。
・CP固定・ご都合主義・ハピエン
・他サイト掲載予定あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる