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1章 脇役は砂糖と塩と共に
あんなに一緒だったので
しおりを挟む次の町――あるいは村まで、俺は騎士たちに同行を許された。
そして今の俺はというと、見事なまでに“腰巾着”になっていた。
(いや、当たり前だよね)
むしろそれが最適解だろう。
剣術の心得? なし。
弓術の心得? 飛んでる鳥どころか、的にも当たらない。
加護? 砂糖と塩。
使える魔法? ゼロ。
つまり俺は、戦闘職とは真逆の存在――完全なる一般人である。
「~~~~~ひ、ひぇっ……で、デカくない!?」
「シオウ!下がれ」
森の中で、ツノの生えた熊(しかも三メートルはありそうなやつ)に遭遇したときも。肉食兎の群れに取り囲まれたときも。
俺にできたのは、へっぴり腰になりながら避難指示に従うことだけだった。
……うん。
やっぱり俺には、その時々の拠点でおとなしく留守番をしているのが一番似合っている。
(それに今さらだけど、この人たち――めちゃくちゃ強いよな)
剣と魔法が当たり前の世界で、彼らは群を抜いていると何も知らない俺が思うほどだ。
初めて魔物と対峙したとき、その実力を思い知った。
どんなに恐ろしい姿の魔物が相手でも、誰一人取り乱さない。全員が息を合わせ、隊長の指示一つで滑らかに動くんだ。
まるで一つの生き物みたいに。
(……みんなを、あそこまでボロボロにした相手って何なんだ?)
人か? 魔物か?
それとも、まさか――ドラゴンなんてことは……。
「シオウ! 任せた!」
「――は、はいっ!!ありがとうございます、丹精込めて煮込みます!!」
全員が獲物の解体や警戒に動く中、下処理と血抜きの済んだ肉が俺に回ってくる。
まぁ、相変わらずのサバイバル環境だ。
俺にできるのは、せいぜい煮込むか焼くかくらい。
(……でも、食材を任せてもらえるってのは嬉しい。信頼の証だよね)
あの森を抜けてから食べられるものが増えた。
今日はミンデさんが採ってきた立派なキノコがある。
鳥肉も上物だし、スープだけでなく串焼きもいいかもしれない。
塩を軽くふって、こんがり焼いて……みんな、少しでも笑顔になればいいな。
「よーし、今日も頑張る……、ん??」
いつものように塩を出そうとした時、手に微かな違和感を覚えた。
なんだろう……指先に、今までとは違う圧の感触。押し出せそうな――そんな、奇妙な感覚。
「んん???」
試しに力を込めてみると、手のひらにざらりとした粒が落ちた。
……粗塩だ。
なんということでしょう。"粗塩"も出せるようになった。
(……これが俺の、レベルアップってやつ?)
けど、やっぱり地味なんだよなぁ~~~??
肉料理においてはとても喜ばれそうだけど… これって沢山加護を使ったからレベルが上がったってこと?
粗塩…… 次は岩塩なのか?それとも砂糖の方に変化が起きるのか?
そんなことを想像して、ぷっとこぼれた笑い。
「ふ、ふふ…!粗塩って……っ、みんなも笑ってくれるかなぁ」
いや~?あの人達って褒めて伸ばすタイプみたいだから案外、子どもの成長を喜ぶ親みたいな反応をされるかもしれない。
それでも… おかしくって…
はやく偵察に行った隊長さん達が戻ってこないかなぁと、料理をしながら俺は待つのだった。
◇ ◇ ◇
一昨日も昨日も今日も、ひたすら歩いて歩いて、それも闇雲な歩みなんかじゃない。獣道から人間の作った道に出て、川に掛けられた橋を渡った。
そしてーーーー、俺達はついに大きな門を越えたんだ。
そこにあったのは念願の、村!!
第一村人発見だ!!!
「やっと、やっとここまで…!!」
「シオウ」
"待て"、"ここで"。
待機のジェスチャーはとても分かりやすかった。
「はい!」
この大人数は宿屋に収まらず、案内されたのは広い納屋だった。そこで俺はイーリエさんを含む一部の人達とお留守番になった。
あー…すごい、しっかりとした木造の建物と他の人達のいる環境だぁ。
こうしてちゃんと屋根のある建物の安心感が凄い。
「……シオウ?」
「ううん。なんでもないよ、……えっと、えぇと…」
「ゆっくりで、いいよ」
「うん、ありがとうございます…」
じっと見てしまう痛々しい肌。
イーリエさんは、もの凄く綺麗な顔をしてたんじゃないのか…?
魔法、それこそ真里亜の奇跡の魔法で治せない??回復薬じゃ傷は治せても跡は残ってしまう気がして…。
(みんないい人なんだ。本当に…)
俺が最初に教えてもらったのは、“待機”と“避難”の言葉。そして、もし危険を感じたら“とにかく叫べ”ということ。
蛇と、でかい蜘蛛相手にしか叫んだことはないけど……。
何度もジェスチャーを交えながら、皆が根気強く教えてくれた。
そのおかげで俺はここまで生き延びられたんだ。
なのに――今の俺は、お礼の言葉すらロクに返せないままだ。
(これで終わりか……。すっごく壮大な冒険をしたよなぁ)
塩と砂糖で生き抜くなんて、もう二度とごめんだけど。
それでも、生きているからこそ“奇跡”を笑って振り返れる。
「だけど俺、これからどうしよ……」
この村で、言葉の拙い俺でもできる仕事はあるだろうか。
できたら住み込みで働けたら嬉しい。
それに――妹に会いに行くにも、まだ問題が山積みだ。
尽きない悩みに、思わず息を吐いた。
「でも……がんばれ、俺」
ここまで来たんだぞ!
日本語で小さく呟いたその声は、ほとんど音にならなかったのに――
隣で寝そべる淡い青の瞳が、確かにそれを聞いていた。
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