51 / 90
2章 脇役と不死の王龍
災いの足音
しおりを挟む【我が国の瘴気の濃度がより高くなった】
観測士からの報告だ。
枯れ続ける草木と川、いくら丁寧に育てても実りの少ない畑。
一方で、隣国マクミランにいる聖女。
密偵の報告によると彼女の浄化は順調であり、マクミランは長年滞っていた他国との貿易をまもなく再開する見通しである。
そして、各国が聖女様の救済を求め群がっている。
マクミランの聖教会には多額の寄付金が集まっているとの状況も…。
「相変わらず、状況は悪化する一方か…」
「……状況は分かった。で、何か対策はあるか」
「………」
対策などとっくに尽きている。
しかし、最初に会談を提案しておきながら約束を破ったのはマクミランの方だった。これに国王は激怒した。すぐさま隣国に激しく非難する手紙を送ったほどに。
しかし、マクミラン王は「そちらの騎士は約束の日時を過ぎても現れなかった」。と、しらっとした返事を寄越した。
マクミランはシュヴァルと対話も、和解をする気もない。
そもそも黙っていれば、いずれ国の瘴気に悩まされるシュヴァルが助けを求めてやってくるのだ。
頭を下げるシュヴァルに対し、向こうは「聖女保護条約」の撤回をはじめ、無茶ぶりを要求するに違いない。
「―――そうなれば、歴史の繰り返しだ」
国力など関係ない。聖女一人にすべての国の存続が左右されてしまう。
どの国もこぞって聖女降臨の儀を執り行う。
成功するまで。何百人という犠牲を払ってでも………。
「性悪国めっ…!」
「"シオウ"とやらも信用はできぬぞ。アレがマクミランの仕向けた罠の可能性もある」
「なにを言いますか!あの方は我々を救うべく神が与えた御方だ!一刻も早く神殿へお招きせねば!」
「これだから盲信とは恐ろしい。ただ稀有な加護なだけであって、神聖とは別物だぞ」
「きっ…、貴方は神のご意思を冒涜するつもりか!?」
「―――よせ、見苦しい!!」
第一王子の怒りの一声で、場は静まり返る。
しかし、悪い知らせはこればかりではない。
「王よ。死の森で騎士が遭遇したというドラゴンゾンビですが… 深層部から中層部へと移動し、そこからは動かずにただ毎日、同じ方向を睨んでいるとの事です」
「その方角は?」
「一直線に線をなぞったところ、最終的には首都かと…」
「なんと…っ、という…」
ますます重い静寂と動揺が場を支配する。
どれだけ探しても、その歴史はシュヴァル国に残されていなかった。
それほど遠い昔、かつて“王龍”と呼ばれ、人々から尊敬と畏怖を一身に受けた存在があった。
彼がどこから来て、どう生きたのかも、今となっては知る術もない。
ただ一つ確かなことは――
「死後にまで瘴気を纏うほど、彼は人間への恨みを抱いて最期を迎えた」
王の称号を持った気高い龍には重く、痛々しい末路があった。
魂が消えても肉体は残り、何百年という長い歳月を経て、死の森という新たな禍を生んだ。
汚れの毒を纏っても長らく動かなかった“不死の王龍”が、今になって、歩みを進めようとしている。
それが向かう先が、自分たちの国である――その事実を、誰一人受け入れたくなかった。
【我が国が、滅ぶ――】
重苦しい空気が議場の隅々まで押し寄せ、呼吸すらも苦しいほどだった。
「と、討伐隊を向かわせましょう……すぐにでも!」
焦りと恐怖に支配されながら、かすれた声がようやく上がった。
しかし――討伐隊の編成はどうする?
誰を、あの森に派遣するのか。
立ちはだかるのは、”不死の王龍”――。
その脅威に怯まず、真正面から立ち向かえる者など――――……
「いるではありませぬか、一人」
動揺が走る中で、重く、冷静な声が上がった。
「平民から成り上がり、今は将来の神子を守る親衛隊隊長を名乗る――騎士ゼアロルドが」
推薦の手を挙げたのは、第二騎士団団長である。
その瞳には、恐怖ではなく、決意の炎が宿っていた。
349
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
贖罪公爵長男とのんきな俺
侑希
BL
異世界転生したら子爵家に生まれたけれど自分以外一家全滅という惨事に見舞われたレオン。
貴族生活に恐れ慄いたレオンは自分を死んだことにして平民のリオとして生きることにした。
一方公爵家の長男であるフレドリックは当時流行っていた児童小説の影響で、公爵家に身を寄せていたレオンにひどい言葉をぶつけてしまう。その後すぐにレオンが死んだと知らされたフレドリックは、以降十年、ひたすらそのことを悔いて生活していた。
そして十年後、二人はフレドリックとリオとして再会することになる。
・フレドリック視点は重め、レオン及びリオ視点は軽め
・異世界転生がちょいちょい発生する世界。色々な世界の色々な時代からの転生者の影響で文明が若干ちぐはぐ。
・世界観ふんわり 細かいことは気にしないで読んでください。
・CP固定・ご都合主義・ハピエン
・他サイト掲載予定あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる