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未来の勇者ですが敵幹部に惚れまして!

後編

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12歳にもなれば主人公の剣技スキルも早々に開花したし、魔法だってちょっと使ったくらいじゃバテなくなった。
さらにゲーム内での知識をフル活用してレアアイテムの回収もちゃんもやってその効果も確認した。
もちろんストーリー上全部アイテムはとれないが…一昨日手に入れた全ステータスが大幅UPする指輪は嬉しいな。

(………)

うん、これとんのすっっっごい苦労した。
キャンプだって嘘をついて挑んだ三日三晩の死闘だ。ドラゴンゾンビなんて臭いし汚いし見た目のインパクトも強烈だった…二度と相手したくないけど得たものは大きかった。
まさに原作レイプだと同じゲームをやったファンから後ろ指をさされたって仕方ない。

(ドラゴンゾンビってゲームだと四天王のアースラより強いんだよな)

やり込み要素のひとつだけあって事前準備も大変だった。しかもパーティーメンバーなんていないソロだぞ??
ベッドにもぐり、まだとれない全身の疲れにくあぁと欠伸をした。


『のんきに魔王サタンの誕生を待つ必要なくない??』

その天才的発想にカッと目が開いた。
四天王のアースラより強いドラゴンゾンビを俺だけで討伐した、できてしまったじゃん!?

(いやでもなぁ…)

さすがに腕試しにしては命懸けかもしれない…ん??まてよ、今なら魔王ですらない存在だよな?
なんなら彼らを率いる魔王が存在してないんだから四天王だって不在の可能性だってある。

(もしやイケるんじゃないか…?)

イケるどころかドラゴンゾンビを倒した主人公(俺)の思考は完全にイキりだしていた。







こうして俺は、堂々と魔王城にひとりで攻め込んでみたもんだが…


「は、はじめまして俺はナツオです!貴方の名前は!?」
「ニンゲンに名乗る名前などありません!」

麗しのエルフは厳しい表情を崩さない。
えー…さすがにショックだけどこの塩対応も悪くない。
つか、ほんと誰だろ??魔王軍にエルフはいなかったし、もしかして隠しキャラ??

「こんな綺麗なエルフさん、忘れそうにないのに…」
「っ、!!私はエルフなどではない!ダークエルフです!!」
「え!?」

ダークエルフ!?!?
でも肌白いし、この人からは邪悪なオーラも感じない。
もしかしてアルビノ、なんだろうか?

アルビノのエルフ…エルフ…と、ひゅんひゅんと飛んでくる風魔法をかわしながら必死に記憶にあるゲームの情報を探ったが……ないものはない。

「くそっ、ちょこまかと…っ」
「あ、ごめん。卵があるから大技出せないんだよね?サクッと壊すから待ってて」
「やめろっ、その方に触れるな!!」

ぐわぁっと怒鳴られて思わず手が止まってしまった。
や…俺は世界平和のためサクッと魔王倒したいだけなのに、そんなに激しく見られると恥ずかしい。もじもじしちゃう。

「お兄さんがお名前教えてくれたらちょっとコレから離れるよ?」

俺は危険な存在じゃないよ!と卵から離れると少し悩んでエルフのお兄さんは口を開いてくれた。

「っ、オリヴィア…だ」
「オリヴィア、さん…」

素敵だなぁと褒める前にようやく思い出した。
サタンは最後に「…、ヴィア…、何故…」と謎の言葉を発して消滅した。
その存在はどこにもいなかったし、物語は冒険と復讐がテーマで冷酷なサタンにスポットがあたることはなかったが、その後に発売されたファンブックにオリヴィアの名前だけがあった。

『オリヴィア、サタンの育ての親であり側近だったが魔族と人間との戦いの最中で命を落としてしまう。"何故、"の詳細は不明だが、その死はサタンの心残りだったのかもしれない』。

よーーく思い出したらこんな感じで、3行くらいダークエルフについて触れられていた。つまり彼は本編が始まる前あたりにいなくなるモブだ。

「…は?こんな美人が!?」
「はい??」
「こんな美人で尊くてか弱い存在のオリヴィアさんの説明が3行で終わるとかある!?!?」
「ーーー!!っ、子供だと思ってみれば好き放題言うか!調子に乗るんじゃない!!」

あ、やばい
さすがにブチ切れてしまったのか、触れたものを一瞬で灰にしてしまう極大魔法なんてものをぶっ放してきた。
まぁそれも四天王の一人がバンバン打ってくるレーザータイプの魔法だし、しっかり対策してマジックカウンター機能のついた指輪を装着してある。
ピンッと指でレーザーを弾き返すとそれは真っ直ぐ術者のオリヴィアさんへと… あ、しまった。


「………ッッ、」
「大丈夫?怪我はない?」

よかった、寸前でも防護壁が間に合った。
どさくさに紛れてオリヴィアの肩を引き寄せてるように見えるかもしれないが不可抗力だ、はーん…いい匂いする。妖精さんかな?

「なぜ、私を…?」
「ナツオ、って呼んで?」
「……っ、ナツオ、なぜ私を助けたんですか?」
「もちろん、君のような美人が傷つくのは耐えられないからさ」

さいっこうのキラキラ笑顔だろ、近所でも評判のお姉さんキラーの眼差しだ。
さぁ愛しいオリヴィアさん!いくらでも俺に靡いてくれていいよ!?

「………」

スンッ…とされてしまった。
うん、ちょっとキザ過ぎた??マセたガキと思われたかもしれない…つらっ!!!

「じゃあ今日は帰るね」
「は?帰る…んです?」
「うん。明日は牧場のバイトで朝早いんだぁ、小遣いもらえるから頑張るんだけどね」

さすがに12歳の未冒険者がギルドにレアから高級素材を提供してくるなんて怖すぎるだろ。
ミントポーション(栄養剤)をせっせと作って売るか、大人しく手伝いをするくらいしか子供の小遣い稼ぎはない。

「ば、バイ………貴方、そんなに強いのに?」
「ひんっ!!マイエンジェルに褒められて心臓止まりぞゔっ!!無理可愛い死ぬ、君の側が俺の墓か…っ」
「???」
「じゃ、また来るね!」
「………」

離れるのは名残惜しいけど怪我もなくてよかった、さすがにあの魔法を連発されたら防護壁じゃ厳しかったもんね。オリヴィアさんの玉肌に傷一つでもついてたらショックで寝込むよ俺?

「ごめんなさい、どうしても魔王倒したいから俺」
「っ、私がいる限り魔王様への手出しはさせませんがっ」
「でも君を泣かせたくないな」
「………は、?」
「あ、ベッドの上では泣かせたいけどね?でもまだ俺の体って貧相だからさ、あと5、6年くらい待ってくれない?めっちゃいい男に成長するからさ!!」
「ちょっと、ずっと貴方なに言ってるんですか?」

名残惜しいけど潮時は大事だ。
ふわっと風魔法で俺の体を宙に浮かせると、そのまま割れた窓から外にでた。
へへ、オリヴィアさん驚いた??俺の得意な浮遊魔法だよ。


「俺は未来の勇者で魔王を倒す男、ナツオ!そして君の旦那になる男さ!」


「…………は?え、どうゆう、」
「オリヴィアさん、また週末に会おうね!」
「っ、しゅ、終末だと…!?」


「じゃまたね~」


来た時にも思ったが立派な魔王城だった。
けれど魔王もだけれど、オリヴィアさんより強い魔族はあそこにはいなかった。
俺が強すぎるのか、それとも今の魔族が弱すぎるのか…

(うまくいけば原作レイプや改変どころか、全員がハッピーエンドっていかないかな?)


いや、俺なら……出来るかもしれない。

願うのはそれだけだった。













「クソッ、将来魔王様の側近になる私が…、あんな人間の子供に負けて…っ」

美人だの天使だの尊い存在!?
穢れた血と呼ばれるダークエルフの私が!?今まで血の滲む努力をして魔王様の卵をお守りしている、私が!?


(お…お嫁さんになるなんて…っ)


わぁぁぁあと熱くなる顔をぶんぶんと振り払っては、また来ると言った人間… ナツオへの対策に頭を抱えた。










end


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