上 下
1 / 5
未来の勇者ですが敵幹部に惚れまして!

前編

しおりを挟む








ボロボロに引き裂かれたカーテンに窓ガラスの割れた拾い部屋。
キョロキョロと見渡さなくても部屋の中央には堂々とお目当てのものがあった。
それは巨竜が産んだかのような、大きくて立派な卵。
見つけた瞬間、「やっとここまで…」とまだ声変わりのしていない声を歓喜に振るわせていた。が、バンッッと勢いよく部屋の扉が開かれた。


「それ以上魔王様に近づくな!!」


俺は、初めて見た存在に全てが奪われた。
白くて長い銀髪に赤い瞳、尖った長い耳。
ニンゲンの、それも子供なんかに…!と湧き上がる怒りと屈辱に塗れても美しいと思える美貌の持ち主に


「え、だれこのキャラ!?」


少年は思わず顔を真っ赤にしてそう叫んだ。










さぁて時は遡る遡る。



国に街の名前、中世のヨーロッパ風の景色、剣に魔法の存在。そして見たことのない幻想的な生き物と、大きな壁で隔たれた魔族の住む国。
ーーーなにもかもが、中学生時代にやり込んだRPGゲーム【ファイナルストーリー】の世界観まんまだった。

そして俺こと、ナツオ=ハーバルト。
この世界じゃちょっとだけ珍しい響の名前と黒い髪に黒い瞳、俺にとってはどれも馴染み深いんだけど顔立ちは前世とは程遠い。
そんな俺は順調に育てば勇者になるらしい。
らしいってのいまの俺は7つといたいけな子どもなんだ。まだ物語が始まるずっと前の時点。なんならこの記憶だって先日、バナナの皮を踏んですってんころりん、頭を強打したことで思い出したものだった。

(まーじでロクなもんじゃないな…)

その前世の死因てのも、気まぐれに実家に帰省してみれば不運にも空き巣に遭遇してしまった。
鉢合わせした俺にパニクった犯人(男)に腹をブッ刺されたとこまで覚えてるんだが… まぁ以後の記憶がないんだからそういうことなんだろうと納得はしてる。いや、殺された件に関しては微塵もしてないが…。

ーーー兎に角!!
近い将来に魔族に国に新たな魔王、人々からは"サタン"と畏怖される者が誕生する。
そしてサタンは主人公(俺)が18歳になる日に魔族を率いて人間達の住む国を蹂躙しようと攻め込んでくる。
そうなったら悲劇だ、俺の生まれ育った村は焼かれて家族も友人もみんな死ぬ。
そして、生き残った主人公(俺)一人が長い旅をするのだけど魔族に荒らされた国はほぼ皆殺しと酷い目に遭っている。

「………」

理不尽な殺され方をしたからこそ分かる。
痛くて怖くて心細くて、後悔の中で死んでいく虚しさと恐怖が―――。
誰もあんな目に遭ってほしくない。だけど俺だって死ぬと分かっていて勇者になんぞなりたくない。
だってサタンと主人公は相打ちという形で人生の幕を閉じるんだから…


(あ、なら魔王よりも強かったらよくない??)

あとちょっとが足りなかったのなら今から身につけたらいい!?
まだまだ幼くて未熟だけれど、この世界がゲームを模範したような世界なら武器や装備品よりもまずレベルUPだ!
最初は基礎中の基礎をやればいい。


(命は大事に!!攻め込まれる前にとにかく力をつけるんだ!!)



「うおりやぁ!!」

良さげな木の棒を持って素振り素振り、筋トレにランニング!!!
齢7つにして己を鍛え上げることにした。

「まぁ将来は衛兵にでもなる気かしらねぇ、うふふ」
「いやぁナツオは俺たちの自慢の子だ、城を守る騎士になるかもしれんぞ」

畑作業をする両親には微笑ましく映るみたいでなによりだが、俺の目標は衛兵でも騎士でもなんでもない!!
ーーーおらおらおらぁああ!!
俺の肩に人の命、自分の命も危ういのだから必死にもなる。

こうして雨にも負けず風にも負けない体力作りをしているうちに大人の目も少しずつ変わってくるもんで、なんと今日は親父が訓練の相手をしてやると腰を上げてくれた。


「さぁ、かかってこい!」
「たぁ!!」

ステータス画面なんてないけど未来の勇者様(俺)だ、当然剣のセンスはある……つもりだったが父とはいえ大人相手にうまくいくはずもない。
俺の攻撃は簡単に避けられ、時にはぽすっと親父が持つ細い木の棒で刺された。

「うぅー…」

悔しくて思わず唸りもする。
しかもなんか、親父には隙が一切なくないか?
いつもは豪快に笑う農夫なのに今日は厳しい真剣な眼差しが怖いつーか、片手に待ってる鍋蓋が盾に見える気もする。
(あ。そうだった、すっかり忘れてた…)

「もうアナタ、ちょっとは手加減してあげなさいよ」
「すまんすまん。しかし我が子に稽古をつけるのはなぁ冒険者時代ずっと憧れてたんだぜ?……ナツオはセンスがありそうだ、こりゃ俺の勝ちだな?」
「そ、そんなことないわよ??ナツオだって魔道に興味あるかもしれないじゃない!」

夫婦の会話から察するに、子供から言い出すまで訓練をつける気がなかったんだろ。
そうだ。いまは農家なんてやってるがこの両親、元凄腕冒険者っていう肩書き(設定)があった。
サラブレッドだというのに本来は弱気で内気な性格だ。近所の悪ガキどもに馬鹿にされ、いじめられる側の主人公だった。
『はぁ、今日もダメだったな…』
とぼとぼと家に帰る姿と、ゲーム序盤の台詞。

そもそもゲームの物語は主人公の村が襲われたとこからはじまるんだ。主人公が師匠になる男とはその先で出会う。

………でも、覆せると可能性が今うまれた。

 

「ぼく、剣と魔法、どっちも覚えたい!!」


目を輝かせて俺はお願いをした。









そして月日は流れて俺は10歳になった。

この頃になると反抗期というパワーワードが許される。
今日も学校帰り、両親に黙って村の外にいるモンスター…といっても通常攻撃くらいしかしてこない雑魚狩りをした。


(ファイアボール3回かぁ…)

魔法はまずイメージが大事だと母さんから教わった。
相性のいい属性はすぐ扱えるようになるけど相性の悪い属性は習得に時間がかかる。さらに大きな魔法を扱えるかは本人のセンスと潜在的な魔力量にもよるらしい。

落胆すんな、これも成長だ。
ゲームじゃ剣技(スキル)に炎や光属性はあっても魔法は覚えなかった主人公のことを俺は使える…

それだけでもかなりの励ましにはなった。




「ナツオ~?またアナタ、ミル草原にファイアボール打ったわね??」

ゴゴゴゴゴ…と不穏なオーラを漂わせ、満面の笑顔で出迎えてくれた俺の魔法の師匠兼母さん。
俺はいま反抗期なんだ… そっと目をそらした。

「や、やってません…」
「嘘をおっしゃい!!うちは野菜を作る農家で焼畑農業に手を出す気はありませんよ!」
「まぁ母さん、そう辛くあたるな。ナツオも怪我がないんだろ?お前の炎に驚いた毒キノコワームが飛び出してきたって、ソイツを討伐中だった若手冒険が喜んでたぞ」

よくやった!と喜んでる親父と「もぉそうやって甘やかさないでよ」と母さんが怒っている、なんとも微笑ましい光景だ。

……すいません、経験値のおこぼれをもらってました。
パーティーを組んでいなくとも俺が傷つけた敵を誰かがすぐ討伐してくれると微々たるもんでも経験値がもらえると知った。

(お♡今日も新人くんたちがいんじゃん!俺の養分になっておくれ!)

ステータスが目には見えずともちゃんとチリも積もれば山となるもので、今日試してみたら新たに氷魔法が使えるようになった。
あとその毒キノコワームはもう一体いて、おっきい方を俺が仕留めときました…とは明かせない。



「ナツオ、明後日あたり父さんと一狩りいくか!」
「いく~~~!!!」
「ちょっと!次は母さんといく約束でしょ!?」


反抗期とは一体なんなのか
ただの血の気の多い冒険者一家だろ。


こうして訓練と修行に明け暮れるうちに実力もついてきて、俺は若気の至りというかすっかり調子に乗ってしまった。




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

🔥煙崎(デカチン)センパイは禁煙できない!🔥

BL / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:67

少年は大きなネコを愛でる

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:135

上の階のおにいちゃん

BL / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:473

妄想日記7<<DAYDREAM>>

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:38

あと百年は君と生きたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:1

処理中です...