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2章
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しおりを挟む水族館では楽しかった。なんて言葉にするつもりはなかったけど、
『今日はありがとう』と菊池が言うから
『俺の方こそ…気分転換になったよ』と小さく返した。
その目は一瞬驚いたように見開かれたけど、すぐ嬉しそうで…でも、少し悲しい色をしていた。
(やっぱり、菊池は寂しいのか?)
けど彼には、たくさんの取り巻き達がいる。
体力もあるし、見た目もいい。実力テストでは常にトップだからか教師達も菊池には甘い。
将来を約束された、そして傲慢なαだ。
(俺はいるだけで周りの輪を乱すって…嫌われるΩとは違って、お前は恵まれているはずなのに…)
本当は不器用なだけで、もっと大声で笑ったり泣いたりしたいんじゃないのかな。
もしかすると、俺との関係も後悔してるんじゃないのだろうか…?
『ねぇ、菊池…』
『んー?なぁに?』
水族館で癒されたのか、今なら機嫌も良さそうだ。
俺の我儘くらいで聞き流してくれるかもしれない。
だから、せめてこの間違った関係をリセットできないだろうか。
そう願って訴えた。
「や、だっ…ゃ、!!」
腰をがっしりと掴み、強く腰を動かす菊池に悲痛な叫びを漏らし訴える。
怖い。
肌に触れる熱も、唾液も
這わされる舌の感覚、あの人のものじゃない。
ないのに…
「自分で強請った癖に、嫌はないだろ?」
「っ、は…、お前が、無理やりっ…」
「ん、でも、気持ちよさそう」
「ひぃ、あっ!」
パンッと腰を打ち付けられるたび、悲鳴から甘い嬌声のようなものに変わる。
(なんで、こんな無理やりなのにっ…!)
暴力で組み敷かれるなんて、屈辱でしかない。
快楽なんかいらない。と拒絶を繰り返すのに
でも、どうしようもなく俺はΩだからーーーー
目の前にいるαを感じてしまう…
孔は自然と濡れ、全身が求めるように容易く受け入れてしまう。
「ひゃ…あ、ぁあ!」
「嫌なら勃たないでしょう、普通?」
「ー、っ・ん、ぅ」
これが苦痛しかない行為だったら、どれほど救われただろう。
奥を擦られるたびに、ゾクゾクと体が震え声が溢れる。
あの人のものじゃないなら
あの人じゃないなら、お前なんか…
「ーーっ、痛!」
正気を保ちたくて自分の手を噛む。
籠もる苦しげな声に気づいたのか、雅之の動きが止まった。
「…ちょっと、血でてる」
「あ、触るな…っ、触ら、ないで…」
こんな時でも彼は俺自身が傷を作る事を嫌う。
行為を中断してまで、そっと手の甲に触れて優しく撫でまわしてくる。
「ダメだ。歩に傷作っていいのは、俺だけだろ」
「……なに、勝手な事…」
「勝手なんかじゃない。俺が決めたんだから、…ゆうこと聞けよ」
ふざけるな
お前は一体何様のつもりだ。
「散々、殴っておいて…、気にしてるわけ?」
また殴られるかもしれないけど、気遣われるくらいならそっちの方がマシだ。
水族館で絆されたのは俺だけだった
なんて、今更気づいても遅い。
「…ごめん」
聞こえない。
お前の謝罪なんて、耳に入れたくない!
「好きだよ、歩…」
こんな醜い行為に、愛なんて感じない。
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