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幕臣
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ミケは終日、俺から離れなくなった。
俺が出かける時は、肩に乗っている。
左肩に乗るのが大好きなのだ。
外出する時に、玄関で待っていると必ず俺の肩に飛び乗る。
それを合図に俺は出かける。
すると近所の子供たちが集まった来て大騒ぎする。
動物が人間の肩に乗っているのは、正月にやって来る猿回ししかないからだ。
しかし、別に驚かれることではない。
俺とミケにとっては、ごくごく日常的なことなんだ。
たまにミケは外出中、俺の気持ちを確かめるように左の肩から首を伸ばして俺の顔に頬ずりする。
まるで人間の女と同じだ。
俺とミケは恋人同士なんだ。
この格好で、伊東たちが御陵衛士として新選組屯所を出て行くのを、俺は見送った。
近藤さんと土方さんの姿はなかった。
伊東の孝明帝の御霊を護り奉ると言う言葉に嘘はない。
が、近藤さんと土方さんはそうは取らなかった。
猜疑心の目で見るのが、むしろ新選組創設以来、幹部の習性となっていた。
悲しいことだが、そうやって新選組と言う組織は時代を生き抜いて来た。
俺には、伊東の孝明帝にたいする誠心誠意の誠は分かっていた。
ほとんど時を同じくして、幕府が新選組を幕臣とすると発表した。
その旨が会津から近藤さんに伝えられた。
ついに多摩以来の近藤さんの夢が実現したのだ。
しかし、喜んだのは近藤さんと土方さんのみで、隊士でこれを歓迎するものはほとんどなかった。
すでに大政奉還が発せられ、薩長同盟が成立している。
落日の幕府と運命を共にする大義名分が、大部分の新選組隊士にはなかった。
それどころか幕臣になることで地位と給金上がっているのは、近藤さんのみなのだ。
近藤さんの新しい役職は見廻り組支配頭格、直参旗本である。
御目見えー即ち将軍に直接会うことが出来る地位だ。
それに比べて、土方さんは見廻り組肝煎格。
俺など助勤は単なる見回り格。
むろん、御目見え以下である。
給金に至っては近藤さんのみが六百両から千二百両へ倍増したのに対し、土方さん以下の隊士は、半分かそれ以下に減額されている。
俺は三百六十両から百七十両に下げられた。
なぜ、こんなことが起きたのか。
幕府は近藤さんを大名とし、土方さん以下をその家臣とみなしたと理解できる。
幕府組織には仲間と言う概念がない。
あるのは上下関係のみである。
かつて永倉や原田たちがもっとも憤激したことを、幕府が自らの手で組織化し固定化してしまったのだ。
土方さんに取って近藤さんは、親友であり刎頚の友である。
近藤さんの夢が叶ったことを、土方さんは素直に喜んだ。
だが、隊士たちは違った。
我々がなぜ、幕命で近藤さんの家来にならなければならんのか!
なぜ給金を、大幅に下げられなければならんのか!
不満と激情が渦巻いた。
そして、ついに出されたのが、茨木司ら十四名の新選組離反と伊東たち御陵衛士への合流願いである。
悲劇の幕は、願いを出した会津本陣奥の間で切って落とされた。
怒涛の時代の流れは、否応なく新選組を飲み込もうとしていた。
それらと関係なく、いつもと変わらぬ日常を楽しんでいたのは俺とミケだけだった。
俺が出かける時は、肩に乗っている。
左肩に乗るのが大好きなのだ。
外出する時に、玄関で待っていると必ず俺の肩に飛び乗る。
それを合図に俺は出かける。
すると近所の子供たちが集まった来て大騒ぎする。
動物が人間の肩に乗っているのは、正月にやって来る猿回ししかないからだ。
しかし、別に驚かれることではない。
俺とミケにとっては、ごくごく日常的なことなんだ。
たまにミケは外出中、俺の気持ちを確かめるように左の肩から首を伸ばして俺の顔に頬ずりする。
まるで人間の女と同じだ。
俺とミケは恋人同士なんだ。
この格好で、伊東たちが御陵衛士として新選組屯所を出て行くのを、俺は見送った。
近藤さんと土方さんの姿はなかった。
伊東の孝明帝の御霊を護り奉ると言う言葉に嘘はない。
が、近藤さんと土方さんはそうは取らなかった。
猜疑心の目で見るのが、むしろ新選組創設以来、幹部の習性となっていた。
悲しいことだが、そうやって新選組と言う組織は時代を生き抜いて来た。
俺には、伊東の孝明帝にたいする誠心誠意の誠は分かっていた。
ほとんど時を同じくして、幕府が新選組を幕臣とすると発表した。
その旨が会津から近藤さんに伝えられた。
ついに多摩以来の近藤さんの夢が実現したのだ。
しかし、喜んだのは近藤さんと土方さんのみで、隊士でこれを歓迎するものはほとんどなかった。
すでに大政奉還が発せられ、薩長同盟が成立している。
落日の幕府と運命を共にする大義名分が、大部分の新選組隊士にはなかった。
それどころか幕臣になることで地位と給金上がっているのは、近藤さんのみなのだ。
近藤さんの新しい役職は見廻り組支配頭格、直参旗本である。
御目見えー即ち将軍に直接会うことが出来る地位だ。
それに比べて、土方さんは見廻り組肝煎格。
俺など助勤は単なる見回り格。
むろん、御目見え以下である。
給金に至っては近藤さんのみが六百両から千二百両へ倍増したのに対し、土方さん以下の隊士は、半分かそれ以下に減額されている。
俺は三百六十両から百七十両に下げられた。
なぜ、こんなことが起きたのか。
幕府は近藤さんを大名とし、土方さん以下をその家臣とみなしたと理解できる。
幕府組織には仲間と言う概念がない。
あるのは上下関係のみである。
かつて永倉や原田たちがもっとも憤激したことを、幕府が自らの手で組織化し固定化してしまったのだ。
土方さんに取って近藤さんは、親友であり刎頚の友である。
近藤さんの夢が叶ったことを、土方さんは素直に喜んだ。
だが、隊士たちは違った。
我々がなぜ、幕命で近藤さんの家来にならなければならんのか!
なぜ給金を、大幅に下げられなければならんのか!
不満と激情が渦巻いた。
そして、ついに出されたのが、茨木司ら十四名の新選組離反と伊東たち御陵衛士への合流願いである。
悲劇の幕は、願いを出した会津本陣奥の間で切って落とされた。
怒涛の時代の流れは、否応なく新選組を飲み込もうとしていた。
それらと関係なく、いつもと変わらぬ日常を楽しんでいたのは俺とミケだけだった。
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