54 / 56
土方歳三の嘘
しおりを挟む
神田和泉橋の医学所に入院施設はない。
だが、良順が特別に俺を三日間泊めてくれた。
三食の食事とミケの飯まで用意してくれて。
医学所は人間の病院だ。
猫なんか泊めていいのかよ。
もっともだめだと言われたら、俺はミケを連れて出て行くだけだが。
良順がわざわざ俺をここまで連れて来たのだから、なにか労咳の治療法があるのだろう。
俺はそれに期待していた。
ところが詳しく聞いて見ると何もないと言う。
「空気の良いところでのんびりして、栄養のつくものを食う。それ以外、労咳の治療法はない」と断言する。
なら、なんでこんな神田くんだりまで連れて来る。
富士山丸の上で断言すれば済むことだろう。
俺はどこでだってのんびり出来る。
なのに労咳になった。
これ以上、どうのんびりしろってんだ。
そんな治療法は当てにならん。
千駄ヶ谷の植木屋の離れは良順が用意したものだから、いずれは移らなければならない。
三日目に、なんと土方さんが訪ねてきた。
十八万両から離れて大丈夫なのかよ、と心配になる。
近藤さんたち新選組の残党が幕府に願い出て、甲州へ進撃すると言う。
人数は農民、町人、職人、やくざまでかき集めて二百数十人。
甲州へは、京から中山道を官軍の別働隊板垣隊が進行中だという。
どっちが先に甲府へ行き着くか、競争になるらしい。
あほらしい!
近藤さんも、そんなことをやるようになったんか。
隊の名前は甲陽鎮撫隊と近藤さん好みだ。
こりゃ近藤さんの負けだ。
どっちが先に着くかなんて、戦争でも何でもないだろうが!
飛脚を集めて走らせろや!
俺はそんな競争は御免だ。
ミケと千駄ヶ谷の離れで昼寝している。
すると土方さんが突然言った。
「あの話はなしになった」
十八万両だなと、俺はすぐにピンと来た。
「あの金は富士山丸に積んだまま函館へ行き、独立戦争の軍資金にすることになった」
独立戦争って、北海道を日本から独立させるのか。
「榎本の希望だ。俺も賛成だ。だから、千駄ヶ谷の植木屋離れの下には何もない。安心して養生しろ」
俺は土方さんの顔をじっと見つめた。
そして、嘘だと思った。
土方さんと榎本は俺まで騙そうとしている。
敵を騙すにはまず味方からと言うが、俺には通じない。
官軍と幕府の目を富士山丸の十八万両に集め、北海道まで持って行こうってのか。
狙いは悪くないが、これからの北の海は荒れに荒れる。
万一船が沈んだら、十八万両も永遠に地上から消える。
それとも・・・土方さんと榎本は本気で富士山丸を沈めるつもりか?
だとしたら、その慧眼に俺は舌を巻く!
富士山丸の沈没とともに、十八万両も永久に世間の目から消える。
いずれ、俺は千駄ヶ谷の植木屋離れで朽ち果てる。
世間は新選組のなれの果ての俺と、その下に眠る十八万両になどには目もくれない。
それで万々歳よ!
近藤さんと土方さんはその時、どこでどうしているか知らないが二人で新しい時代の新選組を最初から作るんだ。
俺の遺骸の下の十八万両で!
剣ではなく、銭で新しい世の中に生まれ変わる新選組を!!
そう勝手に考えてたら、涙が出てきやがった!
だが、良順が特別に俺を三日間泊めてくれた。
三食の食事とミケの飯まで用意してくれて。
医学所は人間の病院だ。
猫なんか泊めていいのかよ。
もっともだめだと言われたら、俺はミケを連れて出て行くだけだが。
良順がわざわざ俺をここまで連れて来たのだから、なにか労咳の治療法があるのだろう。
俺はそれに期待していた。
ところが詳しく聞いて見ると何もないと言う。
「空気の良いところでのんびりして、栄養のつくものを食う。それ以外、労咳の治療法はない」と断言する。
なら、なんでこんな神田くんだりまで連れて来る。
富士山丸の上で断言すれば済むことだろう。
俺はどこでだってのんびり出来る。
なのに労咳になった。
これ以上、どうのんびりしろってんだ。
そんな治療法は当てにならん。
千駄ヶ谷の植木屋の離れは良順が用意したものだから、いずれは移らなければならない。
三日目に、なんと土方さんが訪ねてきた。
十八万両から離れて大丈夫なのかよ、と心配になる。
近藤さんたち新選組の残党が幕府に願い出て、甲州へ進撃すると言う。
人数は農民、町人、職人、やくざまでかき集めて二百数十人。
甲州へは、京から中山道を官軍の別働隊板垣隊が進行中だという。
どっちが先に甲府へ行き着くか、競争になるらしい。
あほらしい!
近藤さんも、そんなことをやるようになったんか。
隊の名前は甲陽鎮撫隊と近藤さん好みだ。
こりゃ近藤さんの負けだ。
どっちが先に着くかなんて、戦争でも何でもないだろうが!
飛脚を集めて走らせろや!
俺はそんな競争は御免だ。
ミケと千駄ヶ谷の離れで昼寝している。
すると土方さんが突然言った。
「あの話はなしになった」
十八万両だなと、俺はすぐにピンと来た。
「あの金は富士山丸に積んだまま函館へ行き、独立戦争の軍資金にすることになった」
独立戦争って、北海道を日本から独立させるのか。
「榎本の希望だ。俺も賛成だ。だから、千駄ヶ谷の植木屋離れの下には何もない。安心して養生しろ」
俺は土方さんの顔をじっと見つめた。
そして、嘘だと思った。
土方さんと榎本は俺まで騙そうとしている。
敵を騙すにはまず味方からと言うが、俺には通じない。
官軍と幕府の目を富士山丸の十八万両に集め、北海道まで持って行こうってのか。
狙いは悪くないが、これからの北の海は荒れに荒れる。
万一船が沈んだら、十八万両も永遠に地上から消える。
それとも・・・土方さんと榎本は本気で富士山丸を沈めるつもりか?
だとしたら、その慧眼に俺は舌を巻く!
富士山丸の沈没とともに、十八万両も永久に世間の目から消える。
いずれ、俺は千駄ヶ谷の植木屋離れで朽ち果てる。
世間は新選組のなれの果ての俺と、その下に眠る十八万両になどには目もくれない。
それで万々歳よ!
近藤さんと土方さんはその時、どこでどうしているか知らないが二人で新しい時代の新選組を最初から作るんだ。
俺の遺骸の下の十八万両で!
剣ではなく、銭で新しい世の中に生まれ変わる新選組を!!
そう勝手に考えてたら、涙が出てきやがった!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる