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8 龍馬の遺産
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土方たちは急いで前線を離れ、五台の荷車を引いて木津川河畔へと移動した。
土方とお慶を先頭に永倉、原田、斎藤らの各中隊長が続く。
戦闘中に、隊士百五十名全員にスペンサーの撃ち方を説明するのは無理なので、平隊士は荷車を引く十名のみが加わっている。
遠くで砲声とと銃声がかすかに聞こえる。
戦闘員が少なくなった分、京松坂屋の店員たちがスペンサーを手に戦っている。
木津川の川辺に近い場所まで降りて、土方とお慶を中心に円陣となる。
川の流れの方向のみが、お慶の指示で開けてある。
荷車の箱が開封され、油紙に包まれた真新しいスペンサー銃が現れる。
ゲーベルやスナイドルに比べて銃身が短い。
騎兵銃として馬上で撃つためであろう。
お慶から土方はじめ各中隊長に、一挺づつ銃が渡された。
「時間がありませんので、実戦で使う要点のみを説明します。銃については言うまでもなく、たとえ弾が入ってなくても銃口を味方に向けてはなりません!これは絶対に守ってもらいます!」
まさか女のお慶から、銃器の説明を受けようとは思わなかった。大した女だ!
土方は心の中で苦笑した。時代は激変しつつある。
剣の時代ではなく、銃の時代へと変化しているのだ。
指で引き金を引くだけで、女子供でも敵を倒せる時代になったのだ。
だからと言って、土方は兼定が無用になったとは思わない。
刀が武士たる者の魂であることに変わりはない。
おそらく銃や戦いだけでなく、時代そのものが変貌しつつあるのだろう。
近藤さんの時代は終わったのだ。
お慶は銃を全員に見えるように高く上げた。
「スペンサーは初期の頃は不発弾が多く、戦場でも悩まされました。今では少なくなったとはいえ、皆無ではありません」
お慶は引き金の下にあるレバーを素早く引いて見せる。
「しかし、仮に不発弾があっても、こうしてレバーを引けば不発弾は薬室からはじき出され、次の弾が装填されます。だから、決して慌てないでください!慌てることは戦場では禁物です!」
ハーフコックだった撃鉄をフルコックにする。
「スペンサーは七連発ですから、この動作を繰り返せば次々と後の六発が発射されます」
お慶に感嘆の声を挙げる永倉たち。
「これは凄い!!」
「では弾の装填と撃ち方をご説明します」
ストック(台尻)下部の金属片を回転させ、金属棒をストックから引き抜く。
「詳しい銃の用語などは省き、実戦に必要なことのみを説明します」
土方は注意深くお慶の手の動きを凝視していた。
慣れている。これなら銃手として使える!
グラバーはお慶の素質を見抜いて、戦闘訓練を施したのであろう。
撃鉄をまたハーフコック(半起こし)に戻して、ストックの穴へ弾を充填した専用チューブから弾を移動させていく。七発を送り込んで外してあった金属棒で穴を塞ぎ、金属片でロックする。
引き金下のレバーを引き、突端部に雷管をはめ込む。
「これで引き金を引く準備が終わりました」
撃鉄をフルコック(全起こし)にして、川面にわずかに出ている岩に狙いをつける。
鈍い銃声が轟き、岩の上部が砕ける。
中隊長たちに歓声が上がる。
レバーを引いて二弾目を薬室へ送る。
再び、銃声音がして岩が砕ける。
六発を撃ち、射撃をやめる。
全弾命中している。
「無事に六発を撃ちましたが、七発目が不発弾だとします」
素早く引き金下のレバーを引く。
薬室から弾がはじき出されて飛ぶ。
「この操作で、再び新しい弾七発を装填して射撃ができます」
銃を脇に挟んで、お慶はパン!と一つ手拍子を打つ。
「この手拍子を六つ、すなわ六拍子打つ間にゲベールとスナイドルは一発ですが、スペンサーは六発撃つことが可能です」
土方はじめ全員に言う。
「これで、もうスペンサーが撃てす。私がやった手順で川に向かって撃ってください」
次々と川面の岩を標的に銃を撃ち出す隊士たち
土方と永倉、原田、斎藤たちは苦もなく、銃を発射させる。
手順がわからない隊士、弾が出ない隊士もいる。
「銃口を決して味方に向けないこと。不発弾処理の手順に習熟すること。それさえ出来さえすれば、撃っている内に命中精度は自然と上がります」
土方に言う。
「以上です。戦場へ戻りましよう」
「隊士たちへは永倉らが教えるのか」
「そうです。撃ちながら銃に習熟していくのです。新しい銃器が戦場へ登場した時は、常にそうです」」
銃の腕もさることながら、このお慶の肝の座り方はただ事ではない。そういえば俺が兄を斬った時も、彼女は涙一つ見せなかった。
これは戦士として使える!
お慶が店へ戻るのを引き止めようと、土方は密かに決意した。
戦場はお慶の配下のスペンサー登場で、有利に展開していた。しかし、薩摩の兵力は新選組の十倍ある。
これを粉砕するには、銃の力に頼るだけでなく戦術そのものを変えなければだめた。
スペンサー使用の新しい戦術とは何か。
土方は模索した。
この銃は竜馬が遺して行った彼の遺産だ!
何としても役に立てる!
土方とお慶を先頭に永倉、原田、斎藤らの各中隊長が続く。
戦闘中に、隊士百五十名全員にスペンサーの撃ち方を説明するのは無理なので、平隊士は荷車を引く十名のみが加わっている。
遠くで砲声とと銃声がかすかに聞こえる。
戦闘員が少なくなった分、京松坂屋の店員たちがスペンサーを手に戦っている。
木津川の川辺に近い場所まで降りて、土方とお慶を中心に円陣となる。
川の流れの方向のみが、お慶の指示で開けてある。
荷車の箱が開封され、油紙に包まれた真新しいスペンサー銃が現れる。
ゲーベルやスナイドルに比べて銃身が短い。
騎兵銃として馬上で撃つためであろう。
お慶から土方はじめ各中隊長に、一挺づつ銃が渡された。
「時間がありませんので、実戦で使う要点のみを説明します。銃については言うまでもなく、たとえ弾が入ってなくても銃口を味方に向けてはなりません!これは絶対に守ってもらいます!」
まさか女のお慶から、銃器の説明を受けようとは思わなかった。大した女だ!
土方は心の中で苦笑した。時代は激変しつつある。
剣の時代ではなく、銃の時代へと変化しているのだ。
指で引き金を引くだけで、女子供でも敵を倒せる時代になったのだ。
だからと言って、土方は兼定が無用になったとは思わない。
刀が武士たる者の魂であることに変わりはない。
おそらく銃や戦いだけでなく、時代そのものが変貌しつつあるのだろう。
近藤さんの時代は終わったのだ。
お慶は銃を全員に見えるように高く上げた。
「スペンサーは初期の頃は不発弾が多く、戦場でも悩まされました。今では少なくなったとはいえ、皆無ではありません」
お慶は引き金の下にあるレバーを素早く引いて見せる。
「しかし、仮に不発弾があっても、こうしてレバーを引けば不発弾は薬室からはじき出され、次の弾が装填されます。だから、決して慌てないでください!慌てることは戦場では禁物です!」
ハーフコックだった撃鉄をフルコックにする。
「スペンサーは七連発ですから、この動作を繰り返せば次々と後の六発が発射されます」
お慶に感嘆の声を挙げる永倉たち。
「これは凄い!!」
「では弾の装填と撃ち方をご説明します」
ストック(台尻)下部の金属片を回転させ、金属棒をストックから引き抜く。
「詳しい銃の用語などは省き、実戦に必要なことのみを説明します」
土方は注意深くお慶の手の動きを凝視していた。
慣れている。これなら銃手として使える!
グラバーはお慶の素質を見抜いて、戦闘訓練を施したのであろう。
撃鉄をまたハーフコック(半起こし)に戻して、ストックの穴へ弾を充填した専用チューブから弾を移動させていく。七発を送り込んで外してあった金属棒で穴を塞ぎ、金属片でロックする。
引き金下のレバーを引き、突端部に雷管をはめ込む。
「これで引き金を引く準備が終わりました」
撃鉄をフルコック(全起こし)にして、川面にわずかに出ている岩に狙いをつける。
鈍い銃声が轟き、岩の上部が砕ける。
中隊長たちに歓声が上がる。
レバーを引いて二弾目を薬室へ送る。
再び、銃声音がして岩が砕ける。
六発を撃ち、射撃をやめる。
全弾命中している。
「無事に六発を撃ちましたが、七発目が不発弾だとします」
素早く引き金下のレバーを引く。
薬室から弾がはじき出されて飛ぶ。
「この操作で、再び新しい弾七発を装填して射撃ができます」
銃を脇に挟んで、お慶はパン!と一つ手拍子を打つ。
「この手拍子を六つ、すなわ六拍子打つ間にゲベールとスナイドルは一発ですが、スペンサーは六発撃つことが可能です」
土方はじめ全員に言う。
「これで、もうスペンサーが撃てす。私がやった手順で川に向かって撃ってください」
次々と川面の岩を標的に銃を撃ち出す隊士たち
土方と永倉、原田、斎藤たちは苦もなく、銃を発射させる。
手順がわからない隊士、弾が出ない隊士もいる。
「銃口を決して味方に向けないこと。不発弾処理の手順に習熟すること。それさえ出来さえすれば、撃っている内に命中精度は自然と上がります」
土方に言う。
「以上です。戦場へ戻りましよう」
「隊士たちへは永倉らが教えるのか」
「そうです。撃ちながら銃に習熟していくのです。新しい銃器が戦場へ登場した時は、常にそうです」」
銃の腕もさることながら、このお慶の肝の座り方はただ事ではない。そういえば俺が兄を斬った時も、彼女は涙一つ見せなかった。
これは戦士として使える!
お慶が店へ戻るのを引き止めようと、土方は密かに決意した。
戦場はお慶の配下のスペンサー登場で、有利に展開していた。しかし、薩摩の兵力は新選組の十倍ある。
これを粉砕するには、銃の力に頼るだけでなく戦術そのものを変えなければだめた。
スペンサー使用の新しい戦術とは何か。
土方は模索した。
この銃は竜馬が遺して行った彼の遺産だ!
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