私は大好きなお姉様をざまぁする

池中織奈

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何故、妹は姉をざまぁするに至ったか⑪

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「前世の、記憶?」
 私はウーログの独白に、正直言って意味が分からなかった。前世、という言葉の意味は知っている。そういう概念があるのも知っている。けれども——実際にそんなものが存在していると断言している人なんて知らない。だってそういうものはないといわれている。私だって、私になる前の私の記憶なんてない。
 だけど、ウーログは真剣な瞳をしている。いつもよりも大人びた表情で言うのだ。
「そう。生まれる前の記憶が僕にはある。とはいっても前世の記憶があるとはいっても僕は僕だ。ただ昔生きていた記憶があって、その影響を少なからず受けている。それが、僕、ウーログ・カイドィシェフ。僕は僕であるのは事実だけど、確かに別の人生を歩んだ記憶を持っている。だから結果的に言えば僕の精神はずっと大人で、見た目よりも心は成熟している」
 ウーログは私の方を向いてそう言って、告げる。
「そういうの、気持ち悪いと思う? 僕、イエルノから見たら大分おっさんだと思うけど」
「……そうなの。でも、私はあんまり気にならないわ」
「イエルノ……」
「だってウーログが今言ったじゃない。僕は僕だって。その、前世の記憶というものがあって、それに影響されているからこそ、ウーログは今のウーログなんでしょう? ……もし、その前世の記憶がなければウーログは今とは違うのでしょう。なら、私は……貴方に前世の記憶があって良かったと思う。だって、そ、その……今のウーログが、こ、好ましいとは思っているもの」
 こんなこというつもりなかったのに。いつか変わってしまうかもしれないこの気持ちを伝えるつもりなんてなかったのに。
 ――ウーログがあまりにも、悲しそうな、不安そうな顔をしているから。いつも大人びていて、私よりもずっと先を見ているようなそんな人なのに。それなのに私に気持ち悪いと言われたらどうしようって、それを考えて不安そうな顔をしているんだもの。何だか、胸がきゅってなった。
 でも恥ずかしいし、言うつもりはなかったけれど、口から零れ落ちた言葉は私にとっての紛れもない本心だった。だって、私はウーログが好きだと思っている。でもそれはウーログがウーログだからだと思う。もし、今のウーログじゃなかったら私はこんな風に、ウーログに対して好ましいという感情を抱かなかっただろう。だからこそ、私にとって、前世の記憶があろうとなかろうと、今のウーログがウーログなんだって、なんだろうこう考えると私ウーログの事が大好きなんだなって自分で自覚して恥ずかしくなった。思わずウーログから視線を外してしまう。だって、恥ずかしい。
 そしたら、「イエルノ!!」ってウーログは叫んではしたない事に私に抱きついたの。
「ちょ、ななななにを、していらっしゃるの!」
「イエルノ、本当に、可愛いよね」
「は、はい!?」
「絵姿見た時からずっと可愛いなって。こんな可愛い子が婚約者とか本当にいいの!? マジかよって思ってたけどさ、本当に、イエルノ可愛いよ」
「……え、ええっと?」
「――僕ね、自分に前世の記憶があること、言ったのイエルノが初めてなんだ。こんなこと言う子供なんて不気味だろうし。父様や母様だって僕の事を変な子供だと思っているだろうけど、でも流石にさ、別の人生を生きた記憶があるなんて気味悪いって思われるんじゃないかってそう思ってたから。だから、ありがとう。イエルノ。僕の事、本当の意味で受け入れてくれてありがとう。前世の記憶を含めての僕を、好ましいって言ってくれてありがとう。僕は、イエルノが婚約者で良かったよ」
 ぎゅって私に抱きついて、耳元でそんな言葉をささやくウーログ。恥ずかしかったけれど、嫌じゃなかった。
 それに、ウーログの言葉を聞いてウーログの事を大切にしたいという気持ちに溢れてしまった。ああ、もう——、お姉様と私の関係みたいに崩れてしまったらってそればかり考えていたのに。だからこそ、ウーログが好きだという気持ちも伝えるつもりなかったのに。でもどうしても、こう、好きだなって思ってしまっている。
 ウーログはそれから私から離れて、「突現、抱きついちゃってごめんね?」と笑った。……もっと抱きついててもよかったのにと思ったけど言えなかった。
「それで、脱線してごめんね。話を戻すね。それでさ、僕が生きていたのってそもそもこの世界じゃないんだよ」
「はい?」
 また突拍子もない事を言われて怪訝な顔をしてしまった。
「此処とは違う別の世界。そこに僕は生きていた。文字も文化も違う世界だ。僕はそこで生きていて、事故で死んで、この世界に生まれ落ちた。さっきイエルノのお姉さんが書いたという文字だけど、それはその僕が生きていた前世の文字だよ」
「え?」
「だから多分、君のお姉さんは僕と同じ転生者なんだと思う。異世界からの転生者で、前世の記憶を持っている」
 ウーログはそう言い切った。


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