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何故、妹は姉をざまぁするに至ったか㉒
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お姉様に、この世界が乙女げぇむではないと言いにいく。
そう決意したものの、中々タイミングを掴めなかった。だって、誰かがいる前でお姉様にそんなことを言えるはずがない。王侯貴族というのは基本的に一人になるという事はない。誰かが傍にいるものである。
お姉様に乙女げぇむの事を言いに行くのであれば、本当に二人っきりになれるタイミングで言う必要があった。だって、お姉様がおかしくなっている事実を誰にも知られずにどうにかしたかった。
それで考えた結果、赤ちゃんの頃からずっとそばにいる侍女であるジアだけをドアの外に控えて、お姉様と二人でお話をすることにした。ジアに、私はお姉様に伝えたい事があると告げた時、ジアは何か考えるような仕草をした。けれど、私の目を見て頷いてくれた。ジアがこうして傍にいてくれて、私は心強い。
お姉様の部屋をノックする。
「イエルノ、どうしたの?」
お姉様は何故、私が此処にやってきたのか分からないようで笑みを浮かべていった。相変わらず、張り付けたような笑みを浮かべている。
「お姉様とお話がしたかったの。少しいいですか?」
「ええ」
お姉様は頷きながらも、やっぱり、私の事は見ていない。ずっと距離を置いていた妹が突然部屋に訪れてきた。そんな状況にも関わらず、お姉様は一切動揺する事はないのだ。本当に、お姉様は私を見ていない。
最初は当たり障りのはない話をした。
その深緑の瞳は、やはり私自身を映してくれない。私が矛盾した事を口にしたとしても、お姉様はただ聞いているだけだ。私の話を聞き流しているというか、本当の意味で聞いていないのだ。
これで私が怒ったとしても、お姉様は何もしないだろう。お姉様にとってあくまでイエルノ・カプラッドという妹は姉を慕う妹でしかない。
「――ねぇ、お姉様、私は生きてるわ」
「ええ」
「お姉様も、ちゃんと生きているわ」
「ええ」
「ねぇ、お姉様、あのね」
こんな不自然な言葉を、私が口にしてもお姉様はただ穏やかに微笑んでいるだけだ。――ああ、私を見て。ちゃんと私を見て。私の声をちゃんと聞いて。
そう願って、私は口を開く。
「此処は、乙女げぇむの世界ではないのです。――だから、ちゃんと私を見て」
私がそう口にした瞬間、空気が張り詰めた。
お姉様を恐る恐るみれば、お姉様は固まっていた。信じられないものを聞いたような目で私を見た。……今までの無関心とは違う瞳に、私は希望を抱いた。
「ねぇ、おねえ――」
「ああああああああああああぁ」
私が声をかけようとした瞬間、頬に痛みが走った。そして、声にもならない声をお姉様が上げた。
私がお姉様にぶたれたと知るのは、すぐだった。
お姉様の目が、おかしい。虚ろな瞳が、よろけて膝をついた私を見下ろす。そして、また、私に痛みが走る。ああ、でもよかった。ジア以外はお姉様の部屋に近づかないように手配していたから、おかしくなったお姉様を他の人が見る事はないだろう。
痛みを感じながらもそんなことを考えていた私はおろかなのかもしれない。
お姉様の声と、私に降りかかる音にジアが慌てた様子で入ってくる。そして私をたたくお姉様を見て目を見開き、慌てて間に入った。
「アクノール様、何をっ――」
そう言って声をあげたジアの事を、お姉様は見てない。ただ、乙女げぇむという単語を口にした私をジア越しに見降ろして、そして次の瞬間には――なぜかベッドに向かった。
そして、私の事も、ジアの事も見えていないといった様子で、ベッドに横になった目を閉じた。
「……ア、アクノール様、何を」
「ジア、いいわ。一度、引き下がりましょう」
頬が痛む。服に隠れた腕が痛む。何か所か思いっきりたたかれてしまった。こんな風にたたかれたのは初めてで、正直理解が追い付かない。ただ、一つ分かったのは、お姉様は私が乙女げぇむの単語を口にしても理解してくれなかったという事だろうか。
その後、私は頬の赤みに驚く周りに転んだと告げて、治療を受けた。
……ジアだけは、何とも言えない目で私を見ていて、「アクノール様はどうしたのですか」と説明を求めてきた。でも私はそれに対して首を振った。
乙女げぇむの事をジアに言っても理解されると思えなかった。それに、私自身もお姉様にぶたれて、冷静でなんていられなかった。ただ誰にも言わないでほしいとは頼んだ。まぁ、雇い主はお父様なのでお父様に問い詰められたらジアはお父様に言うしかないわけだけど。
それにしても、お姉様にぶたれるなんて、少し泣きたい。
お姉様がもうすぐ学園に入ってしまうからその前にどうにかしたいと思って口にしたのだけれどうまくいかなかった。
眠りについたお姉様は何を考えているのだろうか。目を覚ましたお姉様はどんな態度をするだろうか。そう思いながら、私はただ自室で先ほどの件の事を考えていた。
――そして目を覚ましたお姉様は、何事もなかったかのようにそこにいた。どうやらお姉様の中では夢として先ほどの件は処理され、記憶の彼方に行ったようだった。
そう決意したものの、中々タイミングを掴めなかった。だって、誰かがいる前でお姉様にそんなことを言えるはずがない。王侯貴族というのは基本的に一人になるという事はない。誰かが傍にいるものである。
お姉様に乙女げぇむの事を言いに行くのであれば、本当に二人っきりになれるタイミングで言う必要があった。だって、お姉様がおかしくなっている事実を誰にも知られずにどうにかしたかった。
それで考えた結果、赤ちゃんの頃からずっとそばにいる侍女であるジアだけをドアの外に控えて、お姉様と二人でお話をすることにした。ジアに、私はお姉様に伝えたい事があると告げた時、ジアは何か考えるような仕草をした。けれど、私の目を見て頷いてくれた。ジアがこうして傍にいてくれて、私は心強い。
お姉様の部屋をノックする。
「イエルノ、どうしたの?」
お姉様は何故、私が此処にやってきたのか分からないようで笑みを浮かべていった。相変わらず、張り付けたような笑みを浮かべている。
「お姉様とお話がしたかったの。少しいいですか?」
「ええ」
お姉様は頷きながらも、やっぱり、私の事は見ていない。ずっと距離を置いていた妹が突然部屋に訪れてきた。そんな状況にも関わらず、お姉様は一切動揺する事はないのだ。本当に、お姉様は私を見ていない。
最初は当たり障りのはない話をした。
その深緑の瞳は、やはり私自身を映してくれない。私が矛盾した事を口にしたとしても、お姉様はただ聞いているだけだ。私の話を聞き流しているというか、本当の意味で聞いていないのだ。
これで私が怒ったとしても、お姉様は何もしないだろう。お姉様にとってあくまでイエルノ・カプラッドという妹は姉を慕う妹でしかない。
「――ねぇ、お姉様、私は生きてるわ」
「ええ」
「お姉様も、ちゃんと生きているわ」
「ええ」
「ねぇ、お姉様、あのね」
こんな不自然な言葉を、私が口にしてもお姉様はただ穏やかに微笑んでいるだけだ。――ああ、私を見て。ちゃんと私を見て。私の声をちゃんと聞いて。
そう願って、私は口を開く。
「此処は、乙女げぇむの世界ではないのです。――だから、ちゃんと私を見て」
私がそう口にした瞬間、空気が張り詰めた。
お姉様を恐る恐るみれば、お姉様は固まっていた。信じられないものを聞いたような目で私を見た。……今までの無関心とは違う瞳に、私は希望を抱いた。
「ねぇ、おねえ――」
「ああああああああああああぁ」
私が声をかけようとした瞬間、頬に痛みが走った。そして、声にもならない声をお姉様が上げた。
私がお姉様にぶたれたと知るのは、すぐだった。
お姉様の目が、おかしい。虚ろな瞳が、よろけて膝をついた私を見下ろす。そして、また、私に痛みが走る。ああ、でもよかった。ジア以外はお姉様の部屋に近づかないように手配していたから、おかしくなったお姉様を他の人が見る事はないだろう。
痛みを感じながらもそんなことを考えていた私はおろかなのかもしれない。
お姉様の声と、私に降りかかる音にジアが慌てた様子で入ってくる。そして私をたたくお姉様を見て目を見開き、慌てて間に入った。
「アクノール様、何をっ――」
そう言って声をあげたジアの事を、お姉様は見てない。ただ、乙女げぇむという単語を口にした私をジア越しに見降ろして、そして次の瞬間には――なぜかベッドに向かった。
そして、私の事も、ジアの事も見えていないといった様子で、ベッドに横になった目を閉じた。
「……ア、アクノール様、何を」
「ジア、いいわ。一度、引き下がりましょう」
頬が痛む。服に隠れた腕が痛む。何か所か思いっきりたたかれてしまった。こんな風にたたかれたのは初めてで、正直理解が追い付かない。ただ、一つ分かったのは、お姉様は私が乙女げぇむの単語を口にしても理解してくれなかったという事だろうか。
その後、私は頬の赤みに驚く周りに転んだと告げて、治療を受けた。
……ジアだけは、何とも言えない目で私を見ていて、「アクノール様はどうしたのですか」と説明を求めてきた。でも私はそれに対して首を振った。
乙女げぇむの事をジアに言っても理解されると思えなかった。それに、私自身もお姉様にぶたれて、冷静でなんていられなかった。ただ誰にも言わないでほしいとは頼んだ。まぁ、雇い主はお父様なのでお父様に問い詰められたらジアはお父様に言うしかないわけだけど。
それにしても、お姉様にぶたれるなんて、少し泣きたい。
お姉様がもうすぐ学園に入ってしまうからその前にどうにかしたいと思って口にしたのだけれどうまくいかなかった。
眠りについたお姉様は何を考えているのだろうか。目を覚ましたお姉様はどんな態度をするだろうか。そう思いながら、私はただ自室で先ほどの件の事を考えていた。
――そして目を覚ましたお姉様は、何事もなかったかのようにそこにいた。どうやらお姉様の中では夢として先ほどの件は処理され、記憶の彼方に行ったようだった。
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