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「そういえばアデミル様は聖人ではないのですか?」
「は?」
私の問いにアデミル様はぽかんとこちらを見た。
「だってほら、聖女って植物を育てられるんでしょう?アデミル様も植物を育てようとなさったじゃないですか」
「ああ、あれか。あれはあくまで芽を出すだけだ。それ以上はできない。あのように一気に開花まで持っていけるのは聖女だけだ」
「そうなんですね」
そもそも、とアデミル様は羊皮紙を開くとそこにすらすらと文字を書いていった。あ、カタカナだ。読める文字で良かった。
「この世界では七つの属性がある。火、水、雷、土、風が基本属性。そこにレア属性である光と闇が加わって七属性だ。聖女はこの七属性すべてを使えると言われている」
「アデミル様は?」
「私は水、雷、土、闇の四属性だ。先程の芽を出す魔法は土属性になる。きみが使った花を開花まで持っていくのは光属性だ。光属性は基本的に聖女しか持っていない」
「普通の人も四つくらい持っているものなんですか?」
「いや、普通は一つか二つだ。私は獣人だからな。そういう能力も長けているんだ」
ふうん、そうなのか。
「獣人って人口の大体どれくらいの割合を占めているんですか?」
「一割にも満たないな。私が治めるこの街には比較的獣人は多く集まっているがそれでも少ない」
獣人は、とアデミル様はため息と共に言う。
「腕力も魔力も常人とは桁違いだ。だから軍では重用されるし私のような身でも辺境伯になれた。だがみなが噂するように粗野な者が多いのも事実だ。多くは己の力に振り回されて自滅していく。私は運が良かったのだ」
ふむ、と思う。ではアデミル様と他の獣人の何が違ったのだろう。
「アデミル様はここが人生の分かれ目だったと思うところはありますか?これがなかったらきっと自分は辺境伯まで上り詰めなかっただろう、みたいな」
すると彼は少し考え込んで、師に会えたことだろうか、と告げた。
「今はもう亡き師と出会えたことが私にとって大きな分岐点だったかもしれん。あの方が私に貴族としての振る舞い方やそもそもの文字の読み書きを教えてくれた。私は獣人ということで親から忌み嫌われていてろくな勉強もさせてもらってなかったからな。そんな私に声をかけてくれたのがあの方だ。毎日あの方の家に行っては様々なことを学んだよ」
遠い目で懐かしそうに語るアデミル様にそれですよ、と私は言う。
「ここには学校はないんですか?人が集まって学ぶ場です」
「アカデミーのことか?それならあるぞ」
「獣人の子は入れないんですか?」
アデミル様は難しい顔で入れない、と言った。
「アカデミーは人間のみだ。獣人は軍にしか入れない」
「どうしてですか」
「現王が獣人嫌いだからだ。私が今の地位にいるのも実力でのし上がってきてどうしようもなくなったからとりあえず辺境地に飛ばしておけ、という措置だ。発言力も無いようなものだ。先代までは辺境伯とはそれなりの発言権を持っていたものだが私の代になってからは王城に呼ばれることもなくなった。だからきみの召喚の儀の場にも呼ばれなかった」
「そんな……」
「勝手に獣人のアカデミーを作ってみようかとも計画した。けれど教師が集まらなかった。教えられるほどの者となると教師はどうしても人間になる。私の領地は獣人である私が治めているから比較的獣人への風当たりは良いがそれでも教師にまでなろうという人間はいない。これが現実だ」
「勝手に獣人を人間のアカデミーに入れることはできないんですか?ここまでなら王都からの目も届かないし……」
「アカデミーで迫害を受けるとわかっていて入りたがる子供はいない」
それもそうか。うーん、と考え込む。あ、と名案がひらめいた。
「じゃあ、私が教師になります!」
「きみが?」
「はい!ただ、私の知識とこちらの知識がどこまで同じものなのかそのすり合わせは必要だと思いますし魔法も使えるようにならないとなりません。だからまずは私に家庭教師をつけてもらえませんか?そうしたら私が子どもたちに勉強を教えます」
私の提案は受け入れてもらえるかと思ったのだが、それはできない、と言われた。
「どうしてですか?」
「獣人は子どもでも凶暴な子は凶暴だ。平気で噛みついてくる。そんな子たちの相手をきみにさせるわけにはいかない」
「そう、ですか……」
しゅんと萎れるとアデミル様はそれでもありがとう、と言ってくれた。
「もう一度、教師になってくれる人間を探してみる。あの時駄目でも今は気持ちが変わった者もいるかもしれない」
「きっといますよ。アデミル様、とても良い方ですもん。アデミル様を見て獣人への偏見を無くす人だってきっといます」
私が笑いかけるとアデミル様はそうか、と視線をさまよわせた。
おや?これは……。
「アデミル様、もしかして照れてます?」
「なっ、べ、別にそういうわけでは……!」
「そうですか?だったらかわいいなって思ったんですけど」
にまっと笑ってみせると彼はぐるると低く唸ってきみは意外といい性格をしているのだな、と悔しそうに言った。
「大人しいだけの女のほうがよかったです?」
「……いや、ただ」
「ただ?」
「……私に怯えず意見する女性は初めてだと思っただけだ」
「許していただけるならもっといろいろ本音でアデミル様とお話したいです」
私の言葉に彼は苦笑すると許そう、と言った。
「私で良ければ何でも言ってくれ」
「そうですか?じゃあやっぱり家庭教師はつけてください。この世界のことを知りたいので」
「わかった。手配しよう。一般教養と魔法学について教師を呼んでおく」
私はありがとうございます!と頭を下げた。
(続く)
「は?」
私の問いにアデミル様はぽかんとこちらを見た。
「だってほら、聖女って植物を育てられるんでしょう?アデミル様も植物を育てようとなさったじゃないですか」
「ああ、あれか。あれはあくまで芽を出すだけだ。それ以上はできない。あのように一気に開花まで持っていけるのは聖女だけだ」
「そうなんですね」
そもそも、とアデミル様は羊皮紙を開くとそこにすらすらと文字を書いていった。あ、カタカナだ。読める文字で良かった。
「この世界では七つの属性がある。火、水、雷、土、風が基本属性。そこにレア属性である光と闇が加わって七属性だ。聖女はこの七属性すべてを使えると言われている」
「アデミル様は?」
「私は水、雷、土、闇の四属性だ。先程の芽を出す魔法は土属性になる。きみが使った花を開花まで持っていくのは光属性だ。光属性は基本的に聖女しか持っていない」
「普通の人も四つくらい持っているものなんですか?」
「いや、普通は一つか二つだ。私は獣人だからな。そういう能力も長けているんだ」
ふうん、そうなのか。
「獣人って人口の大体どれくらいの割合を占めているんですか?」
「一割にも満たないな。私が治めるこの街には比較的獣人は多く集まっているがそれでも少ない」
獣人は、とアデミル様はため息と共に言う。
「腕力も魔力も常人とは桁違いだ。だから軍では重用されるし私のような身でも辺境伯になれた。だがみなが噂するように粗野な者が多いのも事実だ。多くは己の力に振り回されて自滅していく。私は運が良かったのだ」
ふむ、と思う。ではアデミル様と他の獣人の何が違ったのだろう。
「アデミル様はここが人生の分かれ目だったと思うところはありますか?これがなかったらきっと自分は辺境伯まで上り詰めなかっただろう、みたいな」
すると彼は少し考え込んで、師に会えたことだろうか、と告げた。
「今はもう亡き師と出会えたことが私にとって大きな分岐点だったかもしれん。あの方が私に貴族としての振る舞い方やそもそもの文字の読み書きを教えてくれた。私は獣人ということで親から忌み嫌われていてろくな勉強もさせてもらってなかったからな。そんな私に声をかけてくれたのがあの方だ。毎日あの方の家に行っては様々なことを学んだよ」
遠い目で懐かしそうに語るアデミル様にそれですよ、と私は言う。
「ここには学校はないんですか?人が集まって学ぶ場です」
「アカデミーのことか?それならあるぞ」
「獣人の子は入れないんですか?」
アデミル様は難しい顔で入れない、と言った。
「アカデミーは人間のみだ。獣人は軍にしか入れない」
「どうしてですか」
「現王が獣人嫌いだからだ。私が今の地位にいるのも実力でのし上がってきてどうしようもなくなったからとりあえず辺境地に飛ばしておけ、という措置だ。発言力も無いようなものだ。先代までは辺境伯とはそれなりの発言権を持っていたものだが私の代になってからは王城に呼ばれることもなくなった。だからきみの召喚の儀の場にも呼ばれなかった」
「そんな……」
「勝手に獣人のアカデミーを作ってみようかとも計画した。けれど教師が集まらなかった。教えられるほどの者となると教師はどうしても人間になる。私の領地は獣人である私が治めているから比較的獣人への風当たりは良いがそれでも教師にまでなろうという人間はいない。これが現実だ」
「勝手に獣人を人間のアカデミーに入れることはできないんですか?ここまでなら王都からの目も届かないし……」
「アカデミーで迫害を受けるとわかっていて入りたがる子供はいない」
それもそうか。うーん、と考え込む。あ、と名案がひらめいた。
「じゃあ、私が教師になります!」
「きみが?」
「はい!ただ、私の知識とこちらの知識がどこまで同じものなのかそのすり合わせは必要だと思いますし魔法も使えるようにならないとなりません。だからまずは私に家庭教師をつけてもらえませんか?そうしたら私が子どもたちに勉強を教えます」
私の提案は受け入れてもらえるかと思ったのだが、それはできない、と言われた。
「どうしてですか?」
「獣人は子どもでも凶暴な子は凶暴だ。平気で噛みついてくる。そんな子たちの相手をきみにさせるわけにはいかない」
「そう、ですか……」
しゅんと萎れるとアデミル様はそれでもありがとう、と言ってくれた。
「もう一度、教師になってくれる人間を探してみる。あの時駄目でも今は気持ちが変わった者もいるかもしれない」
「きっといますよ。アデミル様、とても良い方ですもん。アデミル様を見て獣人への偏見を無くす人だってきっといます」
私が笑いかけるとアデミル様はそうか、と視線をさまよわせた。
おや?これは……。
「アデミル様、もしかして照れてます?」
「なっ、べ、別にそういうわけでは……!」
「そうですか?だったらかわいいなって思ったんですけど」
にまっと笑ってみせると彼はぐるると低く唸ってきみは意外といい性格をしているのだな、と悔しそうに言った。
「大人しいだけの女のほうがよかったです?」
「……いや、ただ」
「ただ?」
「……私に怯えず意見する女性は初めてだと思っただけだ」
「許していただけるならもっといろいろ本音でアデミル様とお話したいです」
私の言葉に彼は苦笑すると許そう、と言った。
「私で良ければ何でも言ってくれ」
「そうですか?じゃあやっぱり家庭教師はつけてください。この世界のことを知りたいので」
「わかった。手配しよう。一般教養と魔法学について教師を呼んでおく」
私はありがとうございます!と頭を下げた。
(続く)
応援ありがとうございます!
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