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通りに人通りが途絶えた町外れ、木々に囲まれて墓地はあった。朔也の脳に保存されていた記憶に忠実な道の果て、記憶に忠実な場所にあった、と言い換えてもいい。
森や林を切り拓いたというよりも、敷地の周囲に植樹したといった風情だ。真新しい墓があれば、忘れ去られたように朽ち果てた墓もある。通路は狭く、ごちゃついている。人気はなく、静まり返っている。眺め、雰囲気、人出、いずれも記憶どおりだ。
唯一明らかな相違点が墓地のほぼ中央にある。観察の目を光らせるまでもなく、朔也はそれを発見していた。
塔が建っているのだ。
敷地を囲う木々よりも頭一つ高く、全高四・五メートルほどだろうか。笠が退化した角張った茸、とでも形容したくなる形状で、朔也は灯台を連想した。ボディは白一色で、日射しを浴びて淡く金色に輝いている。
朔也は腕の中の遺骸さえ忘れて塔を見つめた。
前回墓地を訪れたときは、塔はもちろん、類似するものも見かけた記憶はない。訪れないあいだに建立されたと現実的な解釈をしても、塔の用途はそもそもなんなのか、という疑問が解消されるわけではない。中に人がいるのか、物をおさめているのか、想像もつかない。
姉が亡くなってから断続的に現れている、非現実が現実になる歪みが、この墓地でも出現したのだ。朔也は比較的速やかにそう断定する。
とにもかくにも塔を目指して通路を進む。
直後に気がついたのは、塔は木花家の墓があるあたりに建っている、ということだった。
木花家の墓があるはずの場所に、木花家の墓はなかった。平凡な外観だから、場所を勘違いしているのかもしれないと考えて周囲を見回してみたが、「木花家之墓」の五文字を刻んだ墓石はどこにも見当たらない。
墓があった場所に、墓ではなく、灯台のような塔が建っているのだ。
朔也は塔を観察する。周囲を巡り、外壁に触れ、てっぺんを見上げて。
高さはやはり五メートル程度。直径は二メートル弱。上に向かう階段は外側には設けられておらず、中に入るための入口もない。元あった墓が塔に差し替えられたと解釈するのが妥当なのだろうが、木花家の墓であることを示す情報はどこにも記されていない。焦りが滲み、抱いた輝夜の体が重く感じられてきた。
遺骸をいったん地面に下ろし、いっそう入念に塔を観察する。するとすぐに、外壁の下部に、長方形を横向きにした窪みを見つけた。
引き出しの取っ手を思わせるそれを、逡巡なく手前に引っ張ると、本体の一部分がせり出してきた。石材の上を岩が転がるような重厚な音が奏でられたが、手応えは驚くほど軽かった。朔也には種類の判別できない淡い花香が、ドライアイスのようにふんだんにあふれ出してきた。
すぐにこれ以上は引き出せなくなった。奥行きと幅がともに二メートル弱、深さは六十センチの引き出しだ。塔を構成するのと同じ石製で、中には色とりどりの花々が敷き詰められている。色彩は豊かだが、野に咲き誇るよりも、死者の褥にするのに誂え向きの品種だと感じる。
ようするに、そういうことらしい。
森や林を切り拓いたというよりも、敷地の周囲に植樹したといった風情だ。真新しい墓があれば、忘れ去られたように朽ち果てた墓もある。通路は狭く、ごちゃついている。人気はなく、静まり返っている。眺め、雰囲気、人出、いずれも記憶どおりだ。
唯一明らかな相違点が墓地のほぼ中央にある。観察の目を光らせるまでもなく、朔也はそれを発見していた。
塔が建っているのだ。
敷地を囲う木々よりも頭一つ高く、全高四・五メートルほどだろうか。笠が退化した角張った茸、とでも形容したくなる形状で、朔也は灯台を連想した。ボディは白一色で、日射しを浴びて淡く金色に輝いている。
朔也は腕の中の遺骸さえ忘れて塔を見つめた。
前回墓地を訪れたときは、塔はもちろん、類似するものも見かけた記憶はない。訪れないあいだに建立されたと現実的な解釈をしても、塔の用途はそもそもなんなのか、という疑問が解消されるわけではない。中に人がいるのか、物をおさめているのか、想像もつかない。
姉が亡くなってから断続的に現れている、非現実が現実になる歪みが、この墓地でも出現したのだ。朔也は比較的速やかにそう断定する。
とにもかくにも塔を目指して通路を進む。
直後に気がついたのは、塔は木花家の墓があるあたりに建っている、ということだった。
木花家の墓があるはずの場所に、木花家の墓はなかった。平凡な外観だから、場所を勘違いしているのかもしれないと考えて周囲を見回してみたが、「木花家之墓」の五文字を刻んだ墓石はどこにも見当たらない。
墓があった場所に、墓ではなく、灯台のような塔が建っているのだ。
朔也は塔を観察する。周囲を巡り、外壁に触れ、てっぺんを見上げて。
高さはやはり五メートル程度。直径は二メートル弱。上に向かう階段は外側には設けられておらず、中に入るための入口もない。元あった墓が塔に差し替えられたと解釈するのが妥当なのだろうが、木花家の墓であることを示す情報はどこにも記されていない。焦りが滲み、抱いた輝夜の体が重く感じられてきた。
遺骸をいったん地面に下ろし、いっそう入念に塔を観察する。するとすぐに、外壁の下部に、長方形を横向きにした窪みを見つけた。
引き出しの取っ手を思わせるそれを、逡巡なく手前に引っ張ると、本体の一部分がせり出してきた。石材の上を岩が転がるような重厚な音が奏でられたが、手応えは驚くほど軽かった。朔也には種類の判別できない淡い花香が、ドライアイスのようにふんだんにあふれ出してきた。
すぐにこれ以上は引き出せなくなった。奥行きと幅がともに二メートル弱、深さは六十センチの引き出しだ。塔を構成するのと同じ石製で、中には色とりどりの花々が敷き詰められている。色彩は豊かだが、野に咲き誇るよりも、死者の褥にするのに誂え向きの品種だと感じる。
ようするに、そういうことらしい。
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