少女王とその奴隷

阿波野治

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家と食事①

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 幹が進路に立ちはだかり、葉が通り道を隠し、蔓が体に絡みついてくる。
 むせ返るように濃密な草いきれ、それ自体も立派な障害物だ。
 鬱蒼としていてほの暗いから、足元に常に注意を払っていなければ、石ころや木の根にたちまち足をとられる。
 樹上から、葉陰から、今にも肉食獣や蛇が飛びかかってきそうな気配が色濃い。
 寂然としていて鳥の鳴き声の一つ聞こえてこないのが、かえって恐怖を煽るようだ。
 仮に一人で足を踏み入れていたとしたら、十歩も歩かないうちに悲鳴を上げて引き返していたに違いない。

 そんな道を、シルヴァーは迷いのない、落ち着き払った足取りで突き進む。

 二人と一匹が横並びに歩いていたのはジャングルに入るまでで、すぐに僕が彼女たちの後ろをついていく形になった。道幅が狭いから肩を並べて歩くのは難しいし、そうでなくても悪路だから、歩き慣れていない僕はどうしても遅れをとってしまう。華奢なシルヴァーも通れない狭い隙間を潜り、ときには主人に先行するほど足取りが軽快なシロとは、雲泥の差だ。

『食らいついてこいよ。お前には今後一人で「外れの浜」まで行ってもらうこともあるだろうから、道をちゃんと覚えながら歩くようにな』

 足を踏み入れる直前、シルヴァーは僕にそんな言葉をかけた。彼女のことはまだよく知らないが、突き放すような厳しい言葉が目立つ。もともとそういう性格? 島の支配者だから? 現時点では判断を下せない。

 少女に記憶を奪われたこと。
 隷属しなければならないこと。
 今はそのことについてあまり考えたくないし、考える余裕もない。

「陛下。陛下はどちらへ向かわれているのですか」
 ジャングルを歩きはじめて二十分くらい経ったころ、僕は質問をぶつけた。
 シルヴァーは、カーテンさながらに垂れ下がった巨大な葉を手でどかしながら肩越しに振り返り、

「ああ、そういえば言っていなかったな。ついいつもと同じ調子で、ただ普通に家に帰っていたよ」
「家、ですか」
「あたしが『まん丸原っぱ』と呼んでいる小さな平原が島の中央にあって、その真ん中に小屋が建っている。それが我が家だ」
「どのくらい歩けば着きますか?」
「あと十分もかからない。空腹か? 疲れは?」
「どちらもありますが、我慢できる範囲内です」
「一歩も歩けません、などとたわけたことを言うようだったら、殴り飛ばすところだったぞ。しっかりしてくれよ。お前は今日から馬車馬のように働いてもらわなければならないのだからな」

 シルヴァーの体が葉っぱのカーテンの向こうに消えた。
 僕は三歩遅れてその葉に手をかけ、持ち上げて潜る。この大きさなら衣服代わりにできそうだな、などと思いながら。

 全裸だと発覚して以来、僕は常に頭の片隅で、なにか着るものが欲しいと思っている。
 ただ、シルヴァーが服装について言及しないため、切り出しづらかった。女王に気軽に意見するのは危険だ、という思いも当然ある。
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