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家と食事②
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潜り抜けたとたん、独特の濃厚な匂いが鼻孔に訴えかけてきた。
「外れの浜」で嗅いだ死臭に似ている。
唯一の明らかな違いは、独特の甘やかさを孕んでいること。
周囲を見回すと、薄暗がりの中に赤っぽい塊がぶらさがっているのを見つけた。果実だ。いくつもの房がひと塊になっているようで、シルエットは歪だ。
「島の形としては、クロワッサンをイメージするといい」
いきなりシルヴァーが話頭を転じた。
「分かるか? パンの一種なのだが」
「はい、分かります。食べたことがある気がします」
自分の名前も憶えていないのに、パンの種類について知っているというのは、我ながら奇妙だ。
ただ、記憶を奪った張本人はなんとも思っていないようで、
「クロワッサンの左右が、方角でいうと東と西だ。お前が漂着した『外れの浜』は南にあって、自宅がある『まん丸原っぱ』はちょうど中央。原っぱを突っ切るともう一つの海岸、すなわち『三日月浜』がある。クロワッサンの北だな。『まん丸原っぱ』の周囲は、今も歩いているようなジャングルが広範囲にわたって広がっている」
言葉を切り、肩越しに僕の方を振り向く。どこか冷ややか無表情。女王は顔をすぐに進行方向に戻した。
「ジャングルには他にもいくつかの特徴的な場所があるのだが、紹介はのちほどにしようか」
* * *
やがて樹々の密集地帯が尽き、開けた場所に出た。
形としてはほぼ正円。空間の端をスタート地点にして、もう一方の端まで全力疾走したとしても、なんとか息を切らすことなく走り切れそうな広さだ。
平坦な地面は芝生のような短い草に一面覆われていて、中央に木造の平屋が建っている。
外壁に沿っていくつもの物が置かれている。大きなものから小さなものまで、四角いものから細長いものまで、様々だ。
「これがあたしの我が家だ。女王は女王でも島の女王だから、このとおりみすぼらしいがな」
小屋の入口のドアを前にしての言葉だ。造り自体は立派に見え、真新しくはないが老朽化してもいない。
小屋の外に置かれた物は、工具類と資材が大半を占めている。
ただ、彼女が自らの手で工作を行っているかは怪しいな、と一目見て思った。工具も資材も使われた形跡がないし、シルヴァーが自ら大工仕事に励む絵は想像しにくい。
「陛下。もしかして、この島に住んでいるのは陛下一人なのですか?」
「当たり前だろう。召使いが一人でもいるなら、女王自ら『外れの浜』へ向かうはずがないではないか。クロよ。お前という人間は、言わずに済むことを人に言わせなければ気が済まないようだな」
呆れ返ったようにそう答え、銀髪に指を挿し入れて二度三度と梳く。
「あたし一人で暮らしているからこそ、たまたま流れ着いた馬の骨にも需要があるんだ。さあ、入れ」
シルヴァーはドアを開けて小屋の中に入る。すぐさまシロが続き、僕もそれに倣う。
「外れの浜」で嗅いだ死臭に似ている。
唯一の明らかな違いは、独特の甘やかさを孕んでいること。
周囲を見回すと、薄暗がりの中に赤っぽい塊がぶらさがっているのを見つけた。果実だ。いくつもの房がひと塊になっているようで、シルエットは歪だ。
「島の形としては、クロワッサンをイメージするといい」
いきなりシルヴァーが話頭を転じた。
「分かるか? パンの一種なのだが」
「はい、分かります。食べたことがある気がします」
自分の名前も憶えていないのに、パンの種類について知っているというのは、我ながら奇妙だ。
ただ、記憶を奪った張本人はなんとも思っていないようで、
「クロワッサンの左右が、方角でいうと東と西だ。お前が漂着した『外れの浜』は南にあって、自宅がある『まん丸原っぱ』はちょうど中央。原っぱを突っ切るともう一つの海岸、すなわち『三日月浜』がある。クロワッサンの北だな。『まん丸原っぱ』の周囲は、今も歩いているようなジャングルが広範囲にわたって広がっている」
言葉を切り、肩越しに僕の方を振り向く。どこか冷ややか無表情。女王は顔をすぐに進行方向に戻した。
「ジャングルには他にもいくつかの特徴的な場所があるのだが、紹介はのちほどにしようか」
* * *
やがて樹々の密集地帯が尽き、開けた場所に出た。
形としてはほぼ正円。空間の端をスタート地点にして、もう一方の端まで全力疾走したとしても、なんとか息を切らすことなく走り切れそうな広さだ。
平坦な地面は芝生のような短い草に一面覆われていて、中央に木造の平屋が建っている。
外壁に沿っていくつもの物が置かれている。大きなものから小さなものまで、四角いものから細長いものまで、様々だ。
「これがあたしの我が家だ。女王は女王でも島の女王だから、このとおりみすぼらしいがな」
小屋の入口のドアを前にしての言葉だ。造り自体は立派に見え、真新しくはないが老朽化してもいない。
小屋の外に置かれた物は、工具類と資材が大半を占めている。
ただ、彼女が自らの手で工作を行っているかは怪しいな、と一目見て思った。工具も資材も使われた形跡がないし、シルヴァーが自ら大工仕事に励む絵は想像しにくい。
「陛下。もしかして、この島に住んでいるのは陛下一人なのですか?」
「当たり前だろう。召使いが一人でもいるなら、女王自ら『外れの浜』へ向かうはずがないではないか。クロよ。お前という人間は、言わずに済むことを人に言わせなければ気が済まないようだな」
呆れ返ったようにそう答え、銀髪に指を挿し入れて二度三度と梳く。
「あたし一人で暮らしているからこそ、たまたま流れ着いた馬の骨にも需要があるんだ。さあ、入れ」
シルヴァーはドアを開けて小屋の中に入る。すぐさまシロが続き、僕もそれに倣う。
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