少女王とその奴隷

阿波野治

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家と食事④

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「どちらに置けばよろしいでしょうか」
 目の前に跪いて指示を求める。シロが食べ物に鼻を寄せて鼻孔を蠢かせた。シルヴァーは舌打ちし、

「組み立て式のテーブルがあっただろう。甕の真後ろの壁に立てかけて。あたしはお前の視力まで奪った覚えはないぞ」
「あ……。確かに、板のようなものがあったのは見ました」
「ならばそれを持ってこないか。食料を持ってこいと言われたら、食料だけしか持ってこない? 食器もいるしテーブルもいるに決まっとるだろうが。気が回らんやつだな。馬鹿が」

 テーブルは分かりにくい場所に分かりにくい形で置かれていたのだから、見落としたのも仕方ないでしょう。馬鹿呼ばわりするのは、ちょっと酷すぎるんじゃないですか。
 反発心と反論の言葉が胸に浮かんだが、ぐっと押し殺す。
 思っていたよりも簡単に鎮圧できたが、入れ替わるように「自分は気がきかない無能な奴隷だ」という思いが湧き、気分が沈んだ。

「まあいい。お前が無能なのは、記憶を奪った時点で分かりきったことだからな。仕方ない。テーブルなしで食事をするから、お前は食料を持ったまま跪いておれ」
「承知しました」

 返事がワンテンポ遅れたことに不満そうな目を向け、鼻を鳴らしてコップを手にとる。胡散臭げな目で水面を二秒ほど見つめ、一口飲む。コップの取っ手を再び僕に握らせ、まずはソーセージを掴みとる。先端をちぎり、シロへ投げてやる。シロはジャンプして見事に空中でキャッチした。シルヴァーは笑みをこぼし、自分も一口かじる。そしてもう一度ソーセージをちぎり、今度は部屋の隅に向かって投げる。シロは藁と草花を蹴散らして追いかける。壁際まで転がったそれを胃の腑に収めて戻ってくるまでの間に、彼女はソーセージの残りを平らげた。口の中のものを咀嚼しながら、今度は白パンと蜂蜜を選び取り、瓶の中の黄金色に直接浸しながら食べる。

 シルヴァーの食べかたは上品とはいえない。手づかみで食べる。食べながら僕にしゃべりかける。咀嚼音を立てる。一度、干し肉の破片が彼女の口からこぼれ、唾液にうっすらと光るそれを、目敏く見つけたシロがすかさず拾い食いをしたときなどは、思わず顔を背けてしまった。
 そもそも、裸の男に食物を持たせて食事している時点で普通ではない。異性の裸を前にしてなにかを食べるなんて、常人はやらない。僕の認識が歪んでいるのか、彼女のほうに問題があるのか。残念ながら、僕には後者に思える。

 高貴な家出身の人間は行儀がいいイメージがある。彼女は女王を自称しているが、実際は庶民階級の出身なのだろうか? それとも、咎める者が誰もいない環境のせいで堕落した?
 そもそも、シルヴァーはなぜ、この島で一人暮らしをしているのだろう。
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