少女王とその奴隷

阿波野治

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家と食事⑤

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「すっかり忘れておったが、お前の食事がまだだったな」
 指に付着した蜂蜜を音を立てながら吸って、シルヴァーがおもむろに言った。

「腹は減っておるか。正直に言ってみろ」
「はい、すいています。食べたいです」
「そうか。では、お前も食事だな」
 シルヴァーの口角に意味深な笑みが浮かび、一瞬で消え去る。

「先ほどの場所にあった革袋を探ってこい。干した骨つきのチキンがあったから、それを本日のお前の昼食にしよう。チキンは好きか?」
「はい。肉は好きです」
 記憶を失っているので、実際に好きかどうかは食べてみないと分からない。ただ、革袋の中に肉の塊を見つけたとき、嫌悪感は抱かなかったから、返答としては間違っていないはずだ。

「そうか。チキンはシロも好物でな。さあ、とってくるんだ」
 骨つきチキンは速やかに見つかった。それを手に戻ってきた僕に、シルヴァーは告げる。
「男なら闘え。競争だ。強い者だけが栄光を掴む権利が与えられる。クロよ、シロと勝負をするがいい」
「勝負?」
「あたしが遠くに向かってチキンを投げるから、お前たちは投げられたチキンを目指して走るがいい。先に咥えたものだけがそれを食べられる。負けたほうはおあずけだ。在庫処分として、堅くなって歯も立たないようなパンを食べてもらう」

 室温がぐっと低くなった。というよりも、僕の周囲の空気が。
 僕は現状、シロにはどちらかというと好感を抱いている。しかし、彼と同じフィールドで競い合うのは違う気がする。
 奴隷にとって女王の命令は絶対。戯れとしてなら喜んで付き合った。しかし、食事を賭けるというのは。

「どうした? その不満そうな顔、まさか、奴隷ごときが女王に逆らうつもりか?」
 シルヴァーは僕の手からチキンをひったくり、それを小屋の出口に向かって突きつけた。外に出ろ、と言っているのだ。
 否も応もない。僕、シロ、シルヴァーの順番で小屋から出る。

「さっさと位置につけ。シロよりも前に出るんじゃないぞ。競争にならんからな」
 シロをおすわりさせておいて、手振りで僕に指示を下す。
 シロを基準にして設定されたスタートライン。まるで愛犬のほうが地位が上みたいではないか。

 負け戦とはこのことだろう。シルヴァーいわく「特別屈強ではない」体格の僕が、徒競走で犬に勝つのは無理だ。投げられたものを走って捕るだけの単純なルールだから、小細工を弄する余地はない。

「それっ」
 骨つきチキンが宙へと放たれた。
 思いのほか、それは遠くへと飛んでいく。
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