少女王とその奴隷

阿波野治

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散歩①

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 よい意味で予想を裏切られた。
 シルヴァーが昼食を食べるのを許可してくれたのだ。
 さらに驚くべきことに、一応という注釈つきにはなるが、まともな食事が提供された。
 パンは昨日食べたものに負けず劣らず堅い。干し肉はパンに勝る堅さな上に少なすぎる。オレンジは腐りかけていた。
 それでも、僕の心と胃袋は高らかに喜びを歌い上げた。

 昼食を終えたシルヴァーは外に出た。
 堅すぎる黒パンを黙々と咀嚼しながら、僕は彼女を目で追う。午前中に僕が作った道具は、小屋の近くにひとまとめにしてあるのだが、彼女はそれを見ている。

「それなりのものが出来ているようだな」
「はい。失敗から得られるものもありますので」
 パンの破片を大急ぎで飲み込んで、そう答えた。実際は弓矢と同じで、使ってみると襤褸が出るかもしれないが、自分から否定的なことは言いたくない。

「では、食事が終わり次第出発するぞ。五分後に世界が滅びるものと思って、至急胃の腑に詰め込むがいい」
「どちらへ行かれるご予定ですか?」
「『ふたご湖』だ。文字どおり、双子のように寄り添い合った二つの湖で――とにかく、行ってみれば分かる。余計な口をきく暇があるなら、食事のために動かせ」

 大急ぎで食事を済ませ、日陰でシロと戯れているシルヴァーに合流する。女王は道具を持つように僕に指示し、ジャングルに向かって歩き出す。「外れの浜」は小屋から見て南にあったが、彼女が進むのは西だ。

「それでは、ジャングルの中を優雅に散歩といこうじゃないか」

 熱帯の樹木が生い茂る世界に入ってすぐ、シルヴァーは足を止めた。僕が両腕に抱えている道具の中から、ロープ状の一品を手にとる。
 リードを作れ、との命を受けて、今日僕が作った。太くて頑丈そうな蔓を適当な長さに切り、太短い木切れを一端に括りつけて持ち手にした、という代物だ。

 命じられたときは、シロ用だと信じて疑わなかった。
 しかし、よくよく考えてみれば、おかしい。もともと放し飼いにしていて、飼い犬も飼い主も自由奔放な暮らしを望んでいるのに、なぜ束縛するための道具をわざわざ新調するのか。
 遅まきながら抱いた嫌な予感は、見事に的中することとなる。

「クロ、これを自分の首につけろ。女王自らがリードを握って、お前を散歩させてやる。ありがたいと思え」

 心が急速に冷却され、一面の銀世界に様変わりした。
 視界の端で、シロがいつものように舌を出して呼吸しながら僕を見ている。その無関心な瞳に、嘲笑われるよりも深く絶望を感じた。

「お前はいつもいつも行動が遅いな。『はい、陛下』と返事をしろ。そして速やかに行動に移れ。さあ、早く」
 否も応もない。自主的に、リードの先端を自らの首に巻きつけ、さらには四つん這いになる。朽葉の湿った感触が掌に伝わってくる。

「よおし、いい子だ。さあ、行くぞ。進め!」
 こうして、シルヴァーによる僕の散歩が始まった。
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