22 / 85
散歩①
しおりを挟む
よい意味で予想を裏切られた。
シルヴァーが昼食を食べるのを許可してくれたのだ。
さらに驚くべきことに、一応という注釈つきにはなるが、まともな食事が提供された。
パンは昨日食べたものに負けず劣らず堅い。干し肉はパンに勝る堅さな上に少なすぎる。オレンジは腐りかけていた。
それでも、僕の心と胃袋は高らかに喜びを歌い上げた。
昼食を終えたシルヴァーは外に出た。
堅すぎる黒パンを黙々と咀嚼しながら、僕は彼女を目で追う。午前中に僕が作った道具は、小屋の近くにひとまとめにしてあるのだが、彼女はそれを見ている。
「それなりのものが出来ているようだな」
「はい。失敗から得られるものもありますので」
パンの破片を大急ぎで飲み込んで、そう答えた。実際は弓矢と同じで、使ってみると襤褸が出るかもしれないが、自分から否定的なことは言いたくない。
「では、食事が終わり次第出発するぞ。五分後に世界が滅びるものと思って、至急胃の腑に詰め込むがいい」
「どちらへ行かれるご予定ですか?」
「『ふたご湖』だ。文字どおり、双子のように寄り添い合った二つの湖で――とにかく、行ってみれば分かる。余計な口をきく暇があるなら、食事のために動かせ」
大急ぎで食事を済ませ、日陰でシロと戯れているシルヴァーに合流する。女王は道具を持つように僕に指示し、ジャングルに向かって歩き出す。「外れの浜」は小屋から見て南にあったが、彼女が進むのは西だ。
「それでは、ジャングルの中を優雅に散歩といこうじゃないか」
熱帯の樹木が生い茂る世界に入ってすぐ、シルヴァーは足を止めた。僕が両腕に抱えている道具の中から、ロープ状の一品を手にとる。
リードを作れ、との命を受けて、今日僕が作った。太くて頑丈そうな蔓を適当な長さに切り、太短い木切れを一端に括りつけて持ち手にした、という代物だ。
命じられたときは、シロ用だと信じて疑わなかった。
しかし、よくよく考えてみれば、おかしい。もともと放し飼いにしていて、飼い犬も飼い主も自由奔放な暮らしを望んでいるのに、なぜ束縛するための道具をわざわざ新調するのか。
遅まきながら抱いた嫌な予感は、見事に的中することとなる。
「クロ、これを自分の首につけろ。女王自らがリードを握って、お前を散歩させてやる。ありがたいと思え」
心が急速に冷却され、一面の銀世界に様変わりした。
視界の端で、シロがいつものように舌を出して呼吸しながら僕を見ている。その無関心な瞳に、嘲笑われるよりも深く絶望を感じた。
「お前はいつもいつも行動が遅いな。『はい、陛下』と返事をしろ。そして速やかに行動に移れ。さあ、早く」
否も応もない。自主的に、リードの先端を自らの首に巻きつけ、さらには四つん這いになる。朽葉の湿った感触が掌に伝わってくる。
「よおし、いい子だ。さあ、行くぞ。進め!」
こうして、シルヴァーによる僕の散歩が始まった。
シルヴァーが昼食を食べるのを許可してくれたのだ。
さらに驚くべきことに、一応という注釈つきにはなるが、まともな食事が提供された。
パンは昨日食べたものに負けず劣らず堅い。干し肉はパンに勝る堅さな上に少なすぎる。オレンジは腐りかけていた。
それでも、僕の心と胃袋は高らかに喜びを歌い上げた。
昼食を終えたシルヴァーは外に出た。
堅すぎる黒パンを黙々と咀嚼しながら、僕は彼女を目で追う。午前中に僕が作った道具は、小屋の近くにひとまとめにしてあるのだが、彼女はそれを見ている。
「それなりのものが出来ているようだな」
「はい。失敗から得られるものもありますので」
パンの破片を大急ぎで飲み込んで、そう答えた。実際は弓矢と同じで、使ってみると襤褸が出るかもしれないが、自分から否定的なことは言いたくない。
「では、食事が終わり次第出発するぞ。五分後に世界が滅びるものと思って、至急胃の腑に詰め込むがいい」
「どちらへ行かれるご予定ですか?」
「『ふたご湖』だ。文字どおり、双子のように寄り添い合った二つの湖で――とにかく、行ってみれば分かる。余計な口をきく暇があるなら、食事のために動かせ」
大急ぎで食事を済ませ、日陰でシロと戯れているシルヴァーに合流する。女王は道具を持つように僕に指示し、ジャングルに向かって歩き出す。「外れの浜」は小屋から見て南にあったが、彼女が進むのは西だ。
「それでは、ジャングルの中を優雅に散歩といこうじゃないか」
熱帯の樹木が生い茂る世界に入ってすぐ、シルヴァーは足を止めた。僕が両腕に抱えている道具の中から、ロープ状の一品を手にとる。
リードを作れ、との命を受けて、今日僕が作った。太くて頑丈そうな蔓を適当な長さに切り、太短い木切れを一端に括りつけて持ち手にした、という代物だ。
命じられたときは、シロ用だと信じて疑わなかった。
しかし、よくよく考えてみれば、おかしい。もともと放し飼いにしていて、飼い犬も飼い主も自由奔放な暮らしを望んでいるのに、なぜ束縛するための道具をわざわざ新調するのか。
遅まきながら抱いた嫌な予感は、見事に的中することとなる。
「クロ、これを自分の首につけろ。女王自らがリードを握って、お前を散歩させてやる。ありがたいと思え」
心が急速に冷却され、一面の銀世界に様変わりした。
視界の端で、シロがいつものように舌を出して呼吸しながら僕を見ている。その無関心な瞳に、嘲笑われるよりも深く絶望を感じた。
「お前はいつもいつも行動が遅いな。『はい、陛下』と返事をしろ。そして速やかに行動に移れ。さあ、早く」
否も応もない。自主的に、リードの先端を自らの首に巻きつけ、さらには四つん這いになる。朽葉の湿った感触が掌に伝わってくる。
「よおし、いい子だ。さあ、行くぞ。進め!」
こうして、シルヴァーによる僕の散歩が始まった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる