少女王とその奴隷

阿波野治

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もう一つの顔③

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 僕の性的欲望は萎えていた。シロとともに死んでしまった。
 動かないのはシルヴァーも同じだ。まるで本当にしたかったのは性行為ではなく睡眠だったから、ベッドに横になったとたん眠りに落ちたとでもいうように。

 シロの体に触れてみた。まだ温かい
 心臓の上に手を置いてみた。鼓動は感じ取れない。場所が悪かったのかもしれないと考えて、少しずつ位置を変えて十回ほど試してみた。結果は全て同じだった。

 シロは死んだ。
 誰よりも信頼していた、長年の友でもある飼い主の棍棒の一振りで、永遠に命を失ってしまった。

 いつまでもシロに構っているのを知ったら、シルヴァーが怒り出すかもしれないので、僕も寝床に横になる。とたんに全身が震え出した。
 シロの未来は、僕の未来でもあるような気がしたから。


* * *


 眠れない。
 当たり前だ。
 島に流れ着いて以来、ずっと生活をともにしてきたシロが死んだのだから。殺されたのだから。

 そう親しいわけではなかった。シロが愛しているのは、あくまでも飼い主のシルヴァーであって、僕は彼女が飼育しているもう一匹の動物に過ぎない。交流する機会は乏しく、あったとしても密なものではなかった。近くて遠いと呼ぶのがぴったりな関係だったと言える。
 そうはいっても、僕とシロは生活をともにしてきた。ふと顔を上げると、視界に映る。視界に入っていなくても、常にすぐ近くに気配を感じる。そんな環境で僕たちは暮らしてきた。

 小屋の外で作業をしていると、暇を持て余したシロが見学に来ることがよくあった。
 シロが近くにいるときは、声をかけてやったり、頭を撫でてやったりすることもあった。
 ささやかな交流ではあったが、着実に積み重なることで、相手に対する好感と親愛の念は高まった。
 嫉妬などのマイナスの感情もあるにはあったが、仲違いに直結するほど激しくはなかった。
 近くて遠いが、将来的に掛け替えのない友人に昇格する余地は充分にあった――と思う。

 ただの同居人くらいにしか思っていなかったシロに、実はかなり好感を持っていたことに、彼を失って初めて気がついた。
 悲しかったが、しかし涙は出なかった。シロが好きなのは確かだが、あくまでも「好き」止まりで、「大好き」ではないからだ。

 僕は悲しみよりもむしろ警戒感を覚えた。自らが二の舞を演じることを恐れた。次に女王の魔手にかかるとすれば僕しかいないぞ、と。
 シルヴァーは長年生活をともにしたパートナーを、衝動的とも軽はずみともいえる動機で処分した。モノを殺した前科もある。そして、場合によっては僕を殺すと警告済みでもある。

 ――殺すしかない。
 すでに芽生えていながらも、諸々の事情に邪魔をされて揺らぎ続けていた意思が、シロ殺害を機に安定した感がある。

 シルヴァーを殺そう。
 彼女の手によって殺されてしまう前に、僕の手で彼女を殺そう。
 僕が生存するための方法は、きっとそれしかない。
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