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もう一つの顔④
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決意を胸に眠りに就いた記憶が残っている。
しかしその決意は、目覚めた直後に揺らぐことになる。
浅い眠りだった。小屋の中は、夜が明けきっていない時間帯の薄暗さに包まれている。
頭の芯が重い。シロが殺されるという小さな大事件があり、自分自身が次の犠牲者になる可能性や、生き残る方法について散々考えていたから、ろくに眠れなかったせいだ。
そのような肉体の状態で、今日も一日、愛犬を簡単に殺すような人間にへつらいながら生きなければならないのかと思うと、気が滅入った。
救いは、平時のシルヴァーの起床時間を考えれば、もう少し体を横たえていられることだろう。
二度寝は不可能だとしても、大人しく横になっているだけでも体力は回復する。半分開けていた瞼を閉ざした。
直後、気がかりな音を耳にした。
シロが飼い主に哀願するときの哀れっぽい声にも似ているが、彼は昨夜死んでいる。寝ぼけているせいで幻聴を聴いた、と言いたいところだが、寝起きではあるが意識は比較的はっきりしている。
心を空にして耳を澄ませると、その音は現実世界で、小屋の中で発生していると判明した。
だとすれば、あの人しかいない。
顔を振り向けて、視界に映し出された光景は衝撃的だった。
シルヴァーはベッドの上ではなく、足元にいた。
生前はシロの寝る場所だったその地点にしゃがみ、しゃくり上げるように泣いている。
その顔は醜悪なまでに歪み、双眸から流れ落ちる涙は絶え間なく、かつ膨大だ。
シロの哀願の鳴き声にも似た声の正体は、堪えきれない嗚咽だったのだ。
他者を虐待することに喜びを感じ、人間や愛犬を殺すことも厭わない、悪逆非道、冷酷無比な女王が、泣いている――。
あまりにも衝撃的すぎて、理解が追いつかない。
唯一確かなのは、視界に映るその光景は、夢でも幻でもなく、厳然たる現実ということだ。
シルヴァーは泣いている。友人のようにかわいがっていた愛犬の死を、心から悲しみ、悼んでいる。
僕はシルヴァーを、血も涙もない無慈悲な女王だと思っていたが、その認識は誤りだったのだろうか?
シルヴァーはやがて泣きやむと、シロの死体を元あった場所に戻した。死んだ愛犬への思いやりと愛情が感じられる、穏やかな挙動だった。僕には見向きもせずに踵を返し、ベッドに潜り込む。
心の整理がつかない。なにについて考えるべきなのかさえも掴めない。二度寝など、できるはずもなかった。
やがて起床時間を迎え、シルヴァーは目覚めた。伸びの仕方が、いかにも今目が覚めたばかりを装っているようで、僕の目にはわざとらしく映った。
主人が目覚めた気配を察知して目を覚ました、という体を装って、こちらも寝床から出る。すると女王はすかさず、忌々しそうに眉をひそめて命じた。
「この薄汚い犬ころの死体、『地獄の穴』に捨ててこい。この暑さだとすぐに腐って臭い出すからな。朝食にありつきたければ、速やかに作業を済ませて、あたしが食べ終わるまでに帰ってくることだ。捨て場所を忘れたとは言わさんぞ」
承知しました、と答えてシロの死体を抱え上げる。思ったよりも軽い。死後硬直していて、もう冷たかった。
シルヴァーはこの感触を自らの体で確かめたのだ、と思う。
朝食抜きにされたくなくて慌てているように見せかけるために、僕は急ぎ足で小屋を出た。
しかしその決意は、目覚めた直後に揺らぐことになる。
浅い眠りだった。小屋の中は、夜が明けきっていない時間帯の薄暗さに包まれている。
頭の芯が重い。シロが殺されるという小さな大事件があり、自分自身が次の犠牲者になる可能性や、生き残る方法について散々考えていたから、ろくに眠れなかったせいだ。
そのような肉体の状態で、今日も一日、愛犬を簡単に殺すような人間にへつらいながら生きなければならないのかと思うと、気が滅入った。
救いは、平時のシルヴァーの起床時間を考えれば、もう少し体を横たえていられることだろう。
二度寝は不可能だとしても、大人しく横になっているだけでも体力は回復する。半分開けていた瞼を閉ざした。
直後、気がかりな音を耳にした。
シロが飼い主に哀願するときの哀れっぽい声にも似ているが、彼は昨夜死んでいる。寝ぼけているせいで幻聴を聴いた、と言いたいところだが、寝起きではあるが意識は比較的はっきりしている。
心を空にして耳を澄ませると、その音は現実世界で、小屋の中で発生していると判明した。
だとすれば、あの人しかいない。
顔を振り向けて、視界に映し出された光景は衝撃的だった。
シルヴァーはベッドの上ではなく、足元にいた。
生前はシロの寝る場所だったその地点にしゃがみ、しゃくり上げるように泣いている。
その顔は醜悪なまでに歪み、双眸から流れ落ちる涙は絶え間なく、かつ膨大だ。
シロの哀願の鳴き声にも似た声の正体は、堪えきれない嗚咽だったのだ。
他者を虐待することに喜びを感じ、人間や愛犬を殺すことも厭わない、悪逆非道、冷酷無比な女王が、泣いている――。
あまりにも衝撃的すぎて、理解が追いつかない。
唯一確かなのは、視界に映るその光景は、夢でも幻でもなく、厳然たる現実ということだ。
シルヴァーは泣いている。友人のようにかわいがっていた愛犬の死を、心から悲しみ、悼んでいる。
僕はシルヴァーを、血も涙もない無慈悲な女王だと思っていたが、その認識は誤りだったのだろうか?
シルヴァーはやがて泣きやむと、シロの死体を元あった場所に戻した。死んだ愛犬への思いやりと愛情が感じられる、穏やかな挙動だった。僕には見向きもせずに踵を返し、ベッドに潜り込む。
心の整理がつかない。なにについて考えるべきなのかさえも掴めない。二度寝など、できるはずもなかった。
やがて起床時間を迎え、シルヴァーは目覚めた。伸びの仕方が、いかにも今目が覚めたばかりを装っているようで、僕の目にはわざとらしく映った。
主人が目覚めた気配を察知して目を覚ました、という体を装って、こちらも寝床から出る。すると女王はすかさず、忌々しそうに眉をひそめて命じた。
「この薄汚い犬ころの死体、『地獄の穴』に捨ててこい。この暑さだとすぐに腐って臭い出すからな。朝食にありつきたければ、速やかに作業を済ませて、あたしが食べ終わるまでに帰ってくることだ。捨て場所を忘れたとは言わさんぞ」
承知しました、と答えてシロの死体を抱え上げる。思ったよりも軽い。死後硬直していて、もう冷たかった。
シルヴァーはこの感触を自らの体で確かめたのだ、と思う。
朝食抜きにされたくなくて慌てているように見せかけるために、僕は急ぎ足で小屋を出た。
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