少女王とその奴隷

阿波野治

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もう一つの顔⑤

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 とりあえず、道を急いではいる。
 ただ、急ぐといっても走るのではなく、せいぜい早歩き程度に抑えている。
 シルヴァーがシロの死を心から悲しんでいた事実について、じっくりと思案したかったからだ。

 冷酷非情な表の顔。
 愛犬の死を悲しむ裏の顔。
 両者はあまりにもかけ離れすぎていて、考えても、考えても、真実を見つけ出すのは難しい。せっかく思案のために時間を割いたというのに、空回りばかりしている。

 腐臭の濃度が頂点に達し、「地獄の穴」に到着した。
 当たり前だが、モノの遺体はまだ白骨の山頂に横たわっている。温暖な気候だけに腐食の進行は早いようで、顔などは早くも生前の姿からは程遠い。

 死んだ者は生き返らせられない。
 仕方ない。
 諦めるしかない。
 受け入れるしかない。そんな当たり前の事実を反芻するだけでは解消されない、緩和すらもされない感情が胸中で渦巻いている。

 当たり前だ。
 好きだったのだから。
 交わったのだから。
 奴隷生活における最初で、現時点では最後の、純然たる救いと癒しの光だったのだから。
 血の通った人間である以上は、愛する人の死を前にしてこの感情と無縁でいるなど、到底不可能。

 僕が今抱いている感情と、死んだシロを前に泣いているシルヴァーが抱いていた感情とは、どれくらい似ているのだろう? どれくらい違うのだろう?
 問いかけに答えてくれる存在は、誰もいない。

 シルヴァーに思いが及んだことで、彼女が僕のあとをつけてきた可能性に思い当たった。背中のあたりが急に冷え込んだ。
 周囲を入念に見回す。目に映るのは植物ばかりだ。尾行されているわけではないらしいと分かり、胸を撫で下ろす。
 彼女はつい二・三時間前まで泣いていた。彼女はむしろ、一人きりで過ごす時間のほうが欲しいのかもしれない。

 墓穴を掘ろう、と僕は心に決める。
 今すぐに、シロの分も合わせて掘ろう。時間が許す限り泣いたり悲しんだりすることが許されない立場の僕が、死者のためにしてやれることは、多分それくらいしかない。

 適度な大きさと硬さの枝を拾い上げ、それを使って地面に穴を掘る。素手も素足も使った。
 人が横たわれるだけの大きさに掘らねばならないから、決して楽な作業ではない。ただ、排泄用の穴を掘る役目を担っている僕には経験がある。ジャングルの土は湿っていて柔らかく、比較的掘りやすいのも幸いだった。

 流れる汗は誇張ではなく滝のようで、肌を伝う感触が不愉快だ。
 ――構うものか。

 土に汚れた手や体を見れば、シルヴァーは怪しむだろう。
 ――構うものか。
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