少女王とその奴隷

阿波野治

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もう一つの顔⑥

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 朝食はまだだが、体力も気力も不思議と充実している。掘れば掘るほど要領を掴み、効率よく掘れるようになってきた。
 とはいえ、一人と一匹分の墓穴を完成させるのはやはり時間がかかりそうだ。
 帰りが遅くなれば、女王から雷が落とされるだろう。それは重々承知している。重々承知はしていたが、それでも我慢強く、ていねいに掘り続ける。

 作業を終えたときには、全身が汗と泥でぐちゃぐちゃだった。
 実際に遺体を穴に納めてみると、少し深さが足りない。土をかけると少し盛り上がる形となったが、大目に見てもらおう。

 死者を悼むにはいかに振る舞えばいいのだろう?
 少し考えて、目を瞑って頭を垂れ、胸の前で両手を組み合わせた。
 忘れていた記憶を思い出し、それを参考にしたのではない。右も左も分からない僕が最も相応しいと考えた死者を悼む方法、それがこれだった。
 細かい部分では違うのだろうが、大まかな作法は間違っていない。そんな根拠のない確信があった。

 一人と一匹の死はあまりにも突然で、それが意味するものは計り知れなくて、心から納得がいく答えを見つけるのは難しい。
 しかしとにかく、僕の人生にとってあなたたちは、大いに意味のある存在だった。もう苦しまなくてもいい。ただただ、安らかに。

 やがてポーズを解除する。白骨とゴミの山を視界に映したとたん、眩暈がしそうな悪臭が鼻孔に流れ込んできて、長期にわたってこの場に留まり続けられた奇跡を思った。そして、早く小屋に戻る必要性も。

「……さようなら」
 僕は「地獄の穴」をあとにした。


* * *


 帰宅した僕をシルヴァーは憤怒の形相で殴打した。罵倒の言葉を吐き散らしながら握り拳で右左右左右と連打した。罰を与えている理由を説明する代わりに、聞くに堪えない悪罵を吐きながら、ただひたすらに殴り続けた。

 やがて殴り疲れたのか、これ以上の罰は不要だと判断したのか、唐突にも思えるタイミングで拳を振るうのをやめた。
 そして、「朝食だけではなく昼食も食べてはならない」と一方的に命じ、「夜になるまで帰ってくるな」と怒鳴りつけて小屋の外に僕を蹴り出し、ドアを乱暴に閉ざした。

 僕は外にいる間、様々な方面に考えを巡らせた。
 そうする中で明らかになったのは、シルヴァーがたとえ本当は善良な心根の持ち主で、深い理由があって冷酷に振る舞っているのだとしても、その振る舞いによって僕が傷つき、のみならず死ぬ可能性まである以上、それをやめさせなければならない、ということだった。
 しかし、高慢な女王は聞く耳を持たない。話し合いの機会を持ったとしても、こちらがさらけ出した胸の内に対して怒りを爆発させ、一気に殺人にまで雪崩れ込む懸念がなくもない。

 やはり、僕が進むべき道は一つのようだ。
 殺そう。奴隷の僕の手で、女王の命を奪おう。
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