少女王とその奴隷

阿波野治

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女王の過去①

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 この島から西に向かって海を進むと、大陸がある。
 その海岸沿いに領地を持つ王国は、二百年ほど前からシュナイダー家が支配しているのだが、その二十二代目当主とその正妻との間に生まれたのが、このあたしだ。
 お前にはシルヴァーと名乗ったが、本名はプリシラ・シュナイダーという。

 王家に生まれた者の必然として、あたしは周りの人間から大いに甘やかされて育った。大勢の使用人にかしずかれ、表明した欲求を即座に、完璧に満たされる環境だから、甘ったれた、わがままな子どもに育ったのは当然だ。

 あたしは使用人に無謀な要求を突きつけて、困ったり苦しんだりする姿を眺めるのが好きでね。印象に残っているエピソードはいくつもあるが、いちいち語ってはきりがないから、手がかかるおてんば娘だったとだけ言っておくよ。
 あたしの兄も、姉も、妹たちも、揃いも揃ってわがままな甘ったればかりだったが、人を虐めて喜ぶのはあたし一人だった。あたしたちの一族に流れる血のせいではなく、あたし個人の性癖、心の歪みということだな。

 異常な人間だと自覚した当初は、悪行を慎むように努めたが、すぐにその目標を擲った。使用人を虐めるのがあまりにも楽しかったからだ。唯一の趣味といっても過言ではない。兄はお父さまといっしょによく狩りに出かけていたし、妹たちは人形遊びに熱心だったが、あたしはそんなものには微塵も興味が湧かなかった。
 親は我が子には甘かったし、あたしも経験を重ねることで匙加減を掴んでいったから、やりすぎて両親から叱られたり、使用人から報復されたりすることはない。安心安全に、なおかつ楽しく、あたしは歪んだ遊びに耽っていた。

 しかし、次第に呑気に楽しんでばかりもいられなくなった。
 敵対する王国が攻勢を強め、あたしたちの王国は苦境に立たされたのだ。

 広大な城内は隅々まで緊迫した空気に満たされ、常に息苦しかった。
 両親と、そのころには政治家としての一歩を踏み出していた長兄の言動からは、日に日に余裕が抜け落ちていった。
 あたしを含む年下のきょうだい、そして使用人、つまりは目下の人間に対するお父さまや兄の態度は、日を追うごとに刺々しくなった。

 その八つ当たりと憂さ晴らしの意味から、あたしの虐待遊びは次第に苛烈さを増した。
 ――と言いたいところだが、実際には、むしろ大人しくなっていった。
 両親や兄の目には、我が家が置かれている状況を踏まえて、空気を読んで、馬鹿を慎んでいるのだと映っただろう。
 実際、当時のあたしもそう自己分析した。それはとんだ的外れな分析だったわけだが――今は話を先に進めるとしよう。
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