秘密

阿波野治

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 話をするたびに思う。由佳は話をしていて楽しいやつだ、と。
「楽しい」のあとに「女の子」でも「少女」でもなくて、「やつ」という言葉がくっつくほうがしっくりくるのは、異性としてあまり意識していないから、だろう。
 だからこそ、異性と話すのが苦手な僕でも仲よくなれた。

 ただ、通っている学校が別なので、昼食をともにはできない。だから、たまにある通話ができない日に、人気のない場所で一人弁当を頬張っている最中に、さびしさを感じることもある。
 今日みたいに心を落ちこませる出来事があった日には、その気分から逃れられなくなることだって珍しくない。

 住友みのりさん。
 ほんとうに、彼女は大丈夫なのだろうか。
 なにか、彼女のためにできることはないだろうか。

 これ以上由佳にアドバイスを求めれば、住友さんへの執着心を指摘されて、冷やかされたり、気持ち悪がられたりするのは避けられないだろう。
 なんだかんだ言って由佳は僕には優しいし、僕と比べれば圧倒的に頭が回る。屈辱に耐えたうえで、住友さんを助けたい気持ち、由佳に助けてもらいたい気持ちを伝えたなら、必ずや力になってくれる。なおかつ、一定の結果を出してくれる。そんな期待感がある。
 ただ、懸念材料としては、

「……留守電、か」
 通話を諦めてスマホをポケットに仕舞う。つく予定のなかった陰気なため息が、思わず唇からこぼれた。
 由佳は僕とは違って交友関係が広いから、いつでも相手になってくれるとは限らない。僕のことはある程度特別扱いしてくれるけど、常に特権的な待遇を受けられるかというと、それは違う。

「仕方ない」
 気持ちの切り替えを促すようにつぶやいて、食べることに意識を集中した直後、
 ぱきん、という、小枝が踏み折られる音。

 全身が緊張感に包まれた。口に入っている卵焼きを咀嚼することも忘れて、音源に注目した。
 中学校の敷地を囲う金網フェンスの内側を沿うようにして、こちらに近づいてくる人物がいる。僕の視線に気がついて足が止まったものの、すぐにまた歩き出す。女子生徒だ。暗い木陰を歩いているので、表情がわからない。
 ある程度距離が縮まったことで、その人物の正体が判明した。名前を呼ぶために、口の中の食べ物を呑みこもうとしたら、喉に詰まってむせた。その人が駆け寄ってきた。

「はい、これ」
 差し出された水筒のコップを受けとって、半分ほど入ったそれを一気に飲み干す。苦しみは魔法のようにきれいに消えた。目頭にかすかに溜まった涙を意識しながら、その人の顔を直視する。

「住友さん」
 住友さんは困ったような苦笑いを浮かべている。
 彼女はなにか言いかけたがやめて、ベンチに目を落とした。
 僕は弁当箱と水筒を左右の手に持って、左端にずれる。座る前に落ち葉などは払うようにしているから、座面にはなにも落ちていない。逡巡するような二・三秒の間を挟んで、僕の右隣に腰を下ろす。膝の上に鮮やかな黄色い包みが置かれる。

 今朝の一件があるから、目的なら察しがつく。ただ、異性と二人きりというシチュエーションには不慣れだから、すさまじく緊張する。存在感、匂い、ささいな仕草。そのどれもが女の子らしくて、思春期の真っ只中に身を置く少女でしかなくて、緊張は高まる一方だ。
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