秘密

阿波野治

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 住友さんの言いたいことはよくわかる。現在の僕は、まさにそれと同じような立場に置かれているから。
 ただ、僕には由佳という、なんでも相談できる心強いパートナーが学校の外にいる。加えて、学校では優等生の範疇に属する生徒だと見なされている。だから、耐えがたいほど強くネガティブな視線を感じたことはない。

 そうはいっても、休み時間に気軽に言葉を交わせる関係の同級生がいないというのは、動かしようのない現実だ。ふとした弾みにいじめの標的にされるのでは、という危機感と恐怖は常に覚えている。
 その危機を回避するために、僕はなにか手を打ってきただろうか?
 強いて挙げるなら、優等生のポジションを維持しようという意識は、心の片隅に持ちつづけていたように思う。積極的になにかを高めよう、ではなくて、今よりも悪くならないようにしようと。

 一方の住友さんは、羽生田さんたち四人と友だちのふりをする、というやりかたで自分の身を守ろうとした。

「……でも」
 でも、そのやりかたは、住友さんにとって――。

「苦痛なの。つまらない話に付き合ったり、笑ったり、明るい雰囲気に置いていかれないように振る舞うのは、もう限界。
 本来の私は、一人で過ごすのが好きな人間。一人で好きな本を読んで、一人で好きな音楽を聴いて、一人で自由奔放に空想に耽って、みたいな形で時間を消費したい。
 でも、孤立する道を選ぶほどの勇気も、自分を殺すことに耐え抜くだけの図太さもない。だから、自分をいつわって、四人に歩調を合わせて、苦痛を味わいつづけている」

 住友みのりさん。
 大まかに分類したなら、普通の人だと思っていた。不可解な行動を目の当たりにしたことでその評価は揺れたけど、認識が根底から覆されることはなかった。公園を歩いたときに聞いた話からは、充実した毎日を送っていることがうかがえた。友だちが少なくて無趣味な僕とは比べものにならないくらい、青春を謳歌しているのだと思った。
 でも、それは間違いだった。

「最近ね、自分がだんだん二人に分裂していっているような感覚を覚えるの。つまり、ごく普通の女子中学生っぽく、気の置けない友だちと明るく楽しい日々を過ごしている、表の自分。そして、自分だけの世界に閉じこもっている、裏の自分」

 二重人格、という言葉がまず浮かんだ。追いかけるように、住友さんが分厚い心理学の本を読んでいたことを思い出した。文字がびっしりと並んでいる映像に拒絶感を覚えたせいで、ページの内容までは把握できなかった。だから推測にすぎないけど――。
 もしかすると住友さんは、二重人格にまつわる項目を読んでいたのでは?
 自分の心を現在むしばんでいる症状に触れた文章を読んでいたからこそ、怖いくらいに真剣な表情をしていたのでは?

「表の自分は、本来の自分ではない自分を演じているわけだから、やっぱり精神的にきつくて。
 だから最近は、機械的に振る舞うようになってきたの。付き合いが長くなると、こういう話の流れだとこの子はこう言うとか、この子がこう言ってきたらこう返すと上手くいく、みたいな、そういうパターンが見えてくるでしょう? だから、その人の行動や発言に向き合うんじゃなくて、その人の行動パターンにもとづいて対応を決めるわけ。
 だから、四人からなにを言われても、なにも思わないしなにも感じない。かけられた言葉に対する最適な返答を瞬時に計算して、導き出された答えを盲目的に口にしていて」

 住友さんの表情は少しずつ険しくなっていく。主観的な感覚をなるべく正確に伝えたいのだけど、しっくりくる表現が簡単には見つからないから、もどかしさを感じながらの発言になっている。そんなふうに見える。
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