少女と虎といつか終わる嘘

阿波野治

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少女の家

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 地区の東の外れに当たるという、周囲に他に建物が建っていないさびしい場所に、鬱蒼とした竹林を背にしてその民家は建っていた。
 周囲に比較対象がないのと、ひときわ大きな西島家を見た直後だったのが相俟って、小さいな、という感想を真一は持った。

 移動している十分弱のあいだ、咲子は居候先の住人の素性にはいっさい言及しなかった。一度真一のほうから尋ねてみたが、返答はことごとく曖昧で、明らかにはぐらかしている。咲子の態度を訝る気持ちと、最低三日間は続く居候生活に対する不安が彼の胸に芽生えた。

「今宮! お客さんを連れてきたから、入るよ」

 咲子は真一が軽く引いてしまうくらい乱暴に木戸をノックし、それよりもうるさい声で呼びかけた。返事はない。地区長は無断で木戸を開け、もう一度「今宮!」と声を張り上げる。
 家の奥から足音が走り寄ってきた。どこかで嗅いだことがある植物の香りが鼻孔をくすぐる。

「作業してたの? 応対に出るの、ちょっと遅いよ。地区長が直々に訪問したっていうのに」
「すみません」

 黒髪を腰の高さまで垂らし、肩から先と膝から下が剥き出しになった白い服を着た、十五・六歳の少女だ。着ているのはノースリーブの裾が長いワンピースで、真一には一瞬寝間着に見えてどぎまぎしてしまった。
 少女は真一のことを見ている。真一も少女を見ているが、二人の視線は重ならない。少女が彼に広い意味での関心を持っているのはたしからしいが、興味津々といった感じではない。

「今宮、こちらは沖野真一さん。僧侶として各地を旅しているかたで、このたび虎退治に協力してくれることになったの。この家はスペースに余裕があるから、沖野さんを泊めてあげて。言っておくけど、これは地区長の権限による命令。あなたに拒否権はないから」
「分かりました、地区長」

 少女の受け答えは淡々としていて、まるで他人事だ。

「なにか足りないものはある? あるなら用意するけど」
「足りないもの、ばかりかもしれません。父親の私物は全て、亡くなったあとで処分してしまったので」
「……ああ、そうか。ちょっと面倒ね」

 咲子は真一を振り向き、眉を八の字にする。

「すみません、長々と立ち話をしてしまって。お疲れでしょうから、早く休みたいですよね」
「いえ、お構いなく。泊めてくださるだけでもありがたいですから」
「今宮、沖野さんを座れる場所まで案内して。歩き回ってお疲れだから、飲みものと、それから軽食も用意するように。それが済んだら話の続きね」

 少女は真一と視線を合わせ、浅くうなずいて部屋の奥へ向かう。彼はついていく。
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