少女と虎といつか終わる嘘

阿波野治

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プレッシャー

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「地区長という立場もあるし、変にはしゃいで愛想を尽かされたら最悪だから、懸命に抑えつけましたけどね」
「咲子さんの気持ち、よくわかります。虎はかなりの強敵のようですし、咲子さんの肩にのしかかる責任は重いですから」
「プレッシャーをかけて申し訳ないけど、私たちにはもはや沖野さんに頼るしか術がないんです。任せた以上は、沖野さんの責任も重大ですよ。私たち小毬の人間の命が、運命がかかっているのだから」

 咲子は竹林へと視線を転じる。考えごとをしているらしい横顔だ。無言状態が長く続きそうな予感もしたが、

「もう一つ、プレッシャーをかけるようなことを言いますけど」

 おもむろに真一に顔を戻すと、眉を雄々しく吊り上げ、声に熱を込めてしゃべり出した。

「私、この惨劇に終止符を打ちたいと心から願っているんです。今までは、どんなに犠牲者を出してもいいからわたしの代で終わらせる、という意気だったんだけど、沖野さんという協力者を得てからには、一人の犠牲者も出さずに、しかもなるべく早く解決したいという気持ちになって。そのくらいの心構えで臨まないと、今まで犠牲になってきた人たちに申し訳が立たないし、それに――どう言えばいいのかな。……気持ち悪いの」
「どういうことですか?」
「敵があまりにも強大すぎるせいで、なにかの祟りだとか、誰かがかけた呪いだとか、そういうもののせいにする人間がちらほら出はじめているんです。人間の弱さのせいといえばいいのか、田舎の人間特有の無知蒙昧さのせいといえばいいのか。そういう根拠のないものを諸悪の根源だと見なして、厳然たる現実である人食い虎にどう対処するかという、最優先に、なおかつ真摯に取り組まなければならない課題から顔を背けてしまう。私、そういう逃避的な態度が大嫌いなの。そしてそれ以上に、眉唾物のオカルトの類が」

 あれっ? じゃあこの人、なんで俺の「人食い虎を退治する力」を信じているんだ?
 真一は自分の周りだけ気温が下がったように感じた。

 窮地に陥った人間が藁にもすがる思いで僥倖にすがりついた。それゆえに、正気の人間の目には幼稚ですらある欺瞞にいまだに感づいていない。
 そんな認識が根本から揺らぎ、心まで揺れた。
 もしかすると西島咲子は、心の中では俺の力を強く疑っているのでは?

「中でも段違いに気持ち悪いのは、人食い虎は地区の住人だった青年の生まれ変わりだ、という説かな」
「生まれ変わり?」

 思いがけない言葉に、思わず声が裏返りそうになった。
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