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仕事に慣れつつある。
荷物持ちとして宴会に同行したのを機に、栄田くんはそう実感するようになった。
書生として働き始めて六日目の今日、慌ただしい朝の業務を終え、玄関の事務机に着いた直後には、この仕事にも慣れたなぁ、と心の中で呟いた。呟いたあとで、明日の同じ時間にも同じ呟きを呟くのだろうと思った。それは自分という存在に明日が約束されているくらい確実なことに思えた。
何事もなく午前が終わった。昼食の食器を速やかに片づけ、約二時間ぶりに事務机に着く。
外に最も近いが、自室よりも少し温かい空気。扉の確固たる木目。座面だけが柔らかく取り繕われた椅子の座り心地。廉価な金属を思わせる天板の硬度と冷たさ。
静寂。生物が死に絶えたかのような、扉の向こうの世界。
いつもどおり平和な世界で、栄田くんは眠気を覚え始めた。
これはまずいな、と思う。
勤務中に眠気に襲われたことはこれまでにも何度かあった。いずれも軽症、意識的に精神を整えようと試みることで、たちどころといってもいい迅速さで解消した。
今回のそれは、幸いにも、過去の事例と比べて強いわけではない。
ただし今の栄田くんには、「仕事に慣れた」という自覚がある。ひとえにそれが物を言って、居眠りという過ちを犯しそうな気がしてならない。
うとうとしている隙にcholeraが侵入したら、取り返しがつかないことになる。
扉は閉ざされ、しかも施錠されているのだから、その心配はない? 常識的にはそうだが、相手はcholeraだ。プロ作家の言語能力をもってしても定義不可能な、掴みどころのない存在だ。あらゆる形で忍び込まれる可能性があり、事前に予測を立てるのは不可能。その認識は、昨夜の赤鬼・青鬼両氏との会話を経て強化された。最悪の事態を防ぐためにも、絶対に眠ってはならない。
眠気覚ましに珈琲を飲みたいと訴えれば、先生は許可してくださるだろうか。怠慢だと見なされないだろうか。まさか、散歩に行くのは許されないだろうけど。いや、でも、分からないぞ。先生は寡黙だから気難しい人に見られがちだけど、そういうところも確かにあるけど、その実なかなか寛大だ。だから、頼んでみたら案外あっさり許可が下りるかもしれないぞ。
などと、取り留めもなく想念を弄んでいると、
「こんにちはー。宅配便でーす」
眠気が木の葉のように吹き飛んだ。
机の縁を無意識に掴み、扉を凝視する。外の世界を透視するまでもなく、確実に何者かが存在している。
栄田くんが眠気と格闘している隙に、京山家を訪問した者がいる――。
荷物持ちとして宴会に同行したのを機に、栄田くんはそう実感するようになった。
書生として働き始めて六日目の今日、慌ただしい朝の業務を終え、玄関の事務机に着いた直後には、この仕事にも慣れたなぁ、と心の中で呟いた。呟いたあとで、明日の同じ時間にも同じ呟きを呟くのだろうと思った。それは自分という存在に明日が約束されているくらい確実なことに思えた。
何事もなく午前が終わった。昼食の食器を速やかに片づけ、約二時間ぶりに事務机に着く。
外に最も近いが、自室よりも少し温かい空気。扉の確固たる木目。座面だけが柔らかく取り繕われた椅子の座り心地。廉価な金属を思わせる天板の硬度と冷たさ。
静寂。生物が死に絶えたかのような、扉の向こうの世界。
いつもどおり平和な世界で、栄田くんは眠気を覚え始めた。
これはまずいな、と思う。
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今回のそれは、幸いにも、過去の事例と比べて強いわけではない。
ただし今の栄田くんには、「仕事に慣れた」という自覚がある。ひとえにそれが物を言って、居眠りという過ちを犯しそうな気がしてならない。
うとうとしている隙にcholeraが侵入したら、取り返しがつかないことになる。
扉は閉ざされ、しかも施錠されているのだから、その心配はない? 常識的にはそうだが、相手はcholeraだ。プロ作家の言語能力をもってしても定義不可能な、掴みどころのない存在だ。あらゆる形で忍び込まれる可能性があり、事前に予測を立てるのは不可能。その認識は、昨夜の赤鬼・青鬼両氏との会話を経て強化された。最悪の事態を防ぐためにも、絶対に眠ってはならない。
眠気覚ましに珈琲を飲みたいと訴えれば、先生は許可してくださるだろうか。怠慢だと見なされないだろうか。まさか、散歩に行くのは許されないだろうけど。いや、でも、分からないぞ。先生は寡黙だから気難しい人に見られがちだけど、そういうところも確かにあるけど、その実なかなか寛大だ。だから、頼んでみたら案外あっさり許可が下りるかもしれないぞ。
などと、取り留めもなく想念を弄んでいると、
「こんにちはー。宅配便でーす」
眠気が木の葉のように吹き飛んだ。
机の縁を無意識に掴み、扉を凝視する。外の世界を透視するまでもなく、確実に何者かが存在している。
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