緘黙記

阿波野治

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大学へ①

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 不登校の者にも自らの進路を定める義務がある。進学するか、就職するか。家族会議にて、父親から二者択一を迫られた慎也は、どちらも嫌だ、と答えた。数々の挫折によって、学校という空間に心底嫌気が差し、社会人という未知に立場に置かれることに怯える、病的に無口な少年の率直な意見だった。
 その返答を聞いた父親は、逃げるな、甘えるなと、お定まりの言葉を並べた。
 いや、それは違う。自分に何ができて何ができないかを、僕は誰よりも把握している。やる前からできないと決めつけるな。父さんはそう言うかもしれないが、僕にはできないとはっきりと分かるんだ。学校も、仕事も、どうせ長続きしないに決まっている。
 そう反駁したかったが、できなかった。慎也は両親と離れ離れに暮らし始めてからというもの、家族と会話をする際にも、以前のように気安く声を発せなくなっていた。家族と会話をする機会が激減したことで、彼らと対話する際にも、家族以外の他者と対話する場合に匹敵する恐怖と緊張を覚えるようになった、というのも要因の一つだ。しかし、彼が自覚しないままに育んでいた両親に対する不信感、それが長い年月を経て、宿主に影響を及ぼすまでに成長したこと、それが最大の要因だった。
 結論は先延ばしにされ続けたが、選ばないことを選ぶことはできない。二者択一において、第三の選択肢を用意することが不可能ならば、嫌でも二つから一つを選ぶしかない。彼は最終的に、就職ではなく進学を選択した。
 不登校という状態にありながらも、精神的には安定していた中学二年生の秋より、慎也は小説を書き始めていた。文法は滅茶苦茶、誤字脱字は一行につき一か所はあるといった、到底小説とは呼べない、呼ぶべきではない代物だったが、自らの内面を文章へと変換することは、彼にとって快い作業だった。その作業中、彼は時間の経過を忘れた。他者の面前で満足に喋ることができない自分にぴったりの表現手段だ、と頻繁に実感した。しかし、あくまでも趣味という認識で、それについての技法を本格的に学びたいという意欲や、将来はそれで食べていきたいという夢を抱いていたわけではなかった。少なくとも、進学か就職かを選ぶように迫られる時までは。
 大学、あるいは専門学校で小説について学ぶという選択肢を発見した際にも、積極的にその道に進みたいとは思わなかった。学校で学ぶということは、即ち、他者と会話をする機会が生じるということだ。自らの内面の変形である創作物を他者に見せなければならない場面も、当然ながらあるだろう。だからこそ、進学するのは嫌だと表明したのだったが、いざどちらかを選ばなければならないとなると、途端にその道が魅力的に思えてきた。好きなことを学ぶのだから、苦手なことをするのも我慢できるのではないか。我慢した結果、多少なりとも克服できるのではないか。そんな期待も、ささやかではあったが抱いた。
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