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留年と退学
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留年が確定したとなると、父親も重い腰を上げざるを得ない。父親の命令により、慎也は父親と母親が暮らすアパートの一室に召集され、家族会議が開かれた。
二度と留年はしないと約束するなら学費は出す、と父親は言明した。働きたいなら働いても構わない、とも言った。
働くよりも学校に通う方がいいという思いは、十五歳の夏から不変だった。一方で、仕切り直しをしたとしても、三年間学校に通い続ける自信がないのもまた確か。
全くもって選びがたい二者択一だった。それでも、どちらかを選ばなければならない。
最終的に、慎也は高校一年生をやり直す道を選んだ。自分をからかっていた者たちがそっくり別学年になる。同級生が全員自分よりも年下になる。彼としては、以上の二点に慰めを求めるしかなかった。
二度目の高校一年生の春が訪れた。留年生の慎也は入学式への列席を免除され、その後の授業から参加した。
新学期恒例の、出席番号順の自己紹介が行われた。やがて慎也の番が来たが、彼は喋りたくなかった。新しく担任となった男性教師は、去年も一年生の数学を教えていた。従って、慎也が病的に無口な、人前で喋らない生徒だというプロフィールは把握している。僕はみんなの前で喋りたくないんだ。僕の気持ちを汲んでくれ。そう心中で祈ったが、担任教師はやんわりと、しかし執拗に、自己紹介をするよう求める。クラスメイト一同は、平凡な一生徒の不可解な頑なさに困惑し、いささか緊張した様子で慎也を注視する。
根負けしたのは慎也の方だった。仕方なしに起立し、仕方なしに氏名を述べ、さっさと着席した。喋らないつもりでいたにもかかわらず喋ったため、声は掠れた、酷く聴き取りにくいものになった。
その授業の後、慎也の前席の男子生徒のもとに二・三名の男子生徒が集い、抑制した声で話を始めた。しきりに慎也に視線を投げかけ、どの顔にも薄ら笑いが貼りついている。不穏なものを感じ取り、耳を欹てた。先刻の授業において、担任教師に促されても自己紹介をしようとしなかったこと、自己紹介の声が聴き取りにくかったこと、以上の二点を俎上に載せ、慎也を侮蔑しているのだと判明した。
ああ、僕は年下の人間にまで馬鹿にされるのか。馬鹿にされても言い返すこともできないのか。
慎也は翌日、登校しなかった。次の日も、その次の日も、学校へは行かなかった。
ゴールデンウィーク明けの月曜日、慎也は母親と共に学校へ行き、退学届を提出した。届け出は速やかに受理された。
二度と留年はしないと約束するなら学費は出す、と父親は言明した。働きたいなら働いても構わない、とも言った。
働くよりも学校に通う方がいいという思いは、十五歳の夏から不変だった。一方で、仕切り直しをしたとしても、三年間学校に通い続ける自信がないのもまた確か。
全くもって選びがたい二者択一だった。それでも、どちらかを選ばなければならない。
最終的に、慎也は高校一年生をやり直す道を選んだ。自分をからかっていた者たちがそっくり別学年になる。同級生が全員自分よりも年下になる。彼としては、以上の二点に慰めを求めるしかなかった。
二度目の高校一年生の春が訪れた。留年生の慎也は入学式への列席を免除され、その後の授業から参加した。
新学期恒例の、出席番号順の自己紹介が行われた。やがて慎也の番が来たが、彼は喋りたくなかった。新しく担任となった男性教師は、去年も一年生の数学を教えていた。従って、慎也が病的に無口な、人前で喋らない生徒だというプロフィールは把握している。僕はみんなの前で喋りたくないんだ。僕の気持ちを汲んでくれ。そう心中で祈ったが、担任教師はやんわりと、しかし執拗に、自己紹介をするよう求める。クラスメイト一同は、平凡な一生徒の不可解な頑なさに困惑し、いささか緊張した様子で慎也を注視する。
根負けしたのは慎也の方だった。仕方なしに起立し、仕方なしに氏名を述べ、さっさと着席した。喋らないつもりでいたにもかかわらず喋ったため、声は掠れた、酷く聴き取りにくいものになった。
その授業の後、慎也の前席の男子生徒のもとに二・三名の男子生徒が集い、抑制した声で話を始めた。しきりに慎也に視線を投げかけ、どの顔にも薄ら笑いが貼りついている。不穏なものを感じ取り、耳を欹てた。先刻の授業において、担任教師に促されても自己紹介をしようとしなかったこと、自己紹介の声が聴き取りにくかったこと、以上の二点を俎上に載せ、慎也を侮蔑しているのだと判明した。
ああ、僕は年下の人間にまで馬鹿にされるのか。馬鹿にされても言い返すこともできないのか。
慎也は翌日、登校しなかった。次の日も、その次の日も、学校へは行かなかった。
ゴールデンウィーク明けの月曜日、慎也は母親と共に学校へ行き、退学届を提出した。届け出は速やかに受理された。
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